課税ミスと還付

ネタとするといささか古いが、熊谷市で1棟のビルの固定資産税を51年間にわたって過大徴収していたとの記事に接した。評価額の算出誤りというのは比較的ポピュラーな原因ではあるが、51年という長期間はなかなか珍しいのではないか。

この案件につき、熊谷市の対応は「法律上の時効は5年だが、市の要綱に沿って10年さかのぼり返還などをする。1972~2013年度分は返還しない」というもの。この、5年(地方税法上の消滅時効)を超える過誤納金について要綱を定めている自治体は他にもあるようだが、内容は異なっていて、昨年10月に発覚した四街道市の事案においては、「市の規定に基づき最大20年分を還付・返還する」とされている

地方税法第18条の3において、過誤納による還付請求権は「請求をすることができる日から5年を経過したときは、時効により消滅する」とされているが、行政庁の道義的責任や信頼回復などの観点から、本来還付することができない過誤納金について、独自の要綱等により支払いを行うこととしている自治体も増えているように思う。ただ、法律上は時効消滅しているとの立場に立つなら、「払い方」が問題になってくる。

ざっと検索したところ、久慈市では、「固定資産税等過誤納変換金支払要綱」を定め、還付できない過誤納金については地方自治法第232条の2の規定に基づき、「固定資産税過誤納返還金」を支払うこととしている。
[https://www.city.kuji.iwate.jp/site1n/new_reiki/reiki_honbun/r239RG00000720.html:title]

自治法232条の2は、公益上の必要がある場合の「寄付または補助」についての規定だが、この過誤納金の返還に関しては、相手方が何らかの事業を遂行するわけではないので補助には該当しないし、かといって自治体が特定個人へ寄付をする、というのもシックリこない。

そもそも、地方税法が還付請求権の消滅時効期間を規定しているにも関わらず、当該期間を超えてまで実質的な還付を行う旨の要綱を制定すること自体、租税法律主義(合法性原則)との整合はとれているのかという疑問はどうしたって残る。なんとなれば地方自治法第2条第16項により要綱自体が無効であるという考えも成り立つんじゃないかという気もする。

こちらが間違っているのに、5年以上は遡りませんよ、というのは、一見すると乱暴な理屈のように見えるし、納税者の理解をという観点は必要だろうから、何らかの手だては考えるべきだとは思う。が、それでも現行制度上は国家賠償法による損害賠償請求しかないんじゃないだろうか。法律上、請求権は時効消滅するとされている以上、司法による救済しか途はないように思う。
ちなみに、最判平成22年6月3日は、

公務員が納税者に対する職務上の法的義務に 違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは、これによって損害を被った当該納税者は、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。

と判示している。即ち、固定資産税の過大決定については、審査請求による行政処分の取消しないし行政訴訟による行政処分の無効確認は要することなく、国家賠償法に基づく損害賠償請求を行うことが認められている。

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