俺の食べ物回想記vol.4~朝食編~


①ある民宿のパンケーキ

我々家族は、夏の北海道旅行が大好きである。各地旅行をしたが、結局北海道が一番イイネ!という結論に達している。

その理由の一端を担っているのが、富良野のとある民宿でだ。我々はここの大・ファーンである。ここ数年行っていないが、何度も宿泊しており、また行きたいなと思っている。設備はガタガタな部分もあるが、素晴らしいサービス、温かなおもてなしがあり、こぢんまりとして大変居心地が良い。身体が溶け出していくような自然に囲まれ、空気も澄んでいるように思われる。

そしてなにより…ご飯が美味しい。比類無いくらいにご飯が美味しい。素材も、味付けも、何か分からないけれど全てが完璧なのだ。ただのきゅうりもみも、シンプルなオーブン焼きも、濃厚なビーフシチューも、たっぷりなラタトゥイユも、だ。何べんでもおかわりがしたくなる。最高峰の家庭料理とはこういうものかと思う。(一生忘れないと思うくらい美味しかった食べ物はいくつかある。例えば何だろう、獲れたてのイカとか、贅沢なチーズフォンデュとか?しかしそれらは、大概1回食べれば十分だ)

翌日。朝食は定番メニューが多く素朴な面をしているが、実態はまったく豪華で、昨晩の夕食と同様、何をとっても格別な旨さだった。我々は鱈腹食べて苦しかった思いも忘れて、全メニュー2,3周しようとしているのだった。
さすがに入らないな、と感じ始めた頃、デザートに手を付ける。パンケーキは平べったくて、薄っぺたくて、茶色をしている。ホテルで出てくるような、マックで提供されているような、ふかふかで黄色いパンケーキではない

とりあえず1枚。木苺ジャムを載せる。食べる。……!!!これが旨い。未だかつてこれを超えるパンケーキには出会っていない。
もちもちで、あんなに硬そうに見えたのにふわふわもしている。ほどよい甘さで、黒糖の風味が主張しすぎてもいない、きび砂糖も入っているのかな?例によって何べんもおかわりをしてしまう。そしてこの手作りジャムも果たして最高なのだ。よりどりみどり、イチゴ、ブルーベリー、ママレードはもちろん、クランベリー、カシス、梅、リンゴなんかもある。全部1枚ずつ付けて食べた。食べる手が止まらない。これからいろいろ観光しようとしているのに、その分のキャパのことなぞ考えられない。母も父もおんなじ状況だった。

これが小学3年生の頃の思い出だ。私は小学3年生にして「正解」を見つけてしまった。今現在、津々浦々いろいろな店を巡り(私は趣味に「パンケーキ食べ比べ」を追加しても良いかもしれない)、食べれば食べるほど、あのパンケーキのすごさが際立ちさえする。

いかんせん車でないと行けなくて、ペーパードライバーの私は誰かに頼み込まない限りなかなか難しい。でも近いうちに必ず訪れたいと思う。まだパンケーキあるといいなあ。

②舞茸炒め・アスパラ炒め


これまた北海道旅行の話だ。家族間で定期的に挙がるうまいものの1つが、なんということはない舞茸炒めとアスパラ炒めだ。これはでっかいホテルだった。披露宴でもできそうなでっかい会場に、でっかい窓が開放感を主張してくる。外にはでっかい湖が鎮座ましましているのが見える。実に爽快だ。こんぐらいだとかえって気持ちがよろしい。
朝は思いの外、室内が冷え込んでおり、我々は上着を羽織ってそそくさと朝食会場に来た。寝坊をして遅れてきたので、どの料理も結構終盤だった。そんな中、その場で鉄板焼きを焼いてくれるコーナーがあり、ほかほか嬉しいね!と注文をしたのだったが。

これがうまい!妙に旨い!特に気に入ったのがアスパラガスだ。しゃきしゃき、プリッと、甘い!バターがうまいんですな。香りが強いのにくどくなくて。コショウもうまい。塩もうまい。舞茸もよかったね!母と私はかわるがわる焼いてもらいに行った。
その後飲んだ牛乳がほぼバターですごかった。近くの牧場から仕入れているもので、キンキンに冷えて新鮮だった。瓶のフタをめくると裏にクリームがついているのだ。行儀が悪いが、周りの目を盗んでフタをペロッとした。こんなに濃厚な牛乳は今まで初めて飲んだ。

③卒業式の朝食


小学生の頃の朝食はだいたい、白飯と炒り卵とシャウエッセンのウインナー2本だった。父は既に出勤しており、母はもっと出勤が遅いので、私はその間に一人で食って登校する必要がある。そうなると、簡単にできる卵とウインナーになるわけだ。
茶碗にご飯を盛る。四角い卵焼きフライパンに卵を割り入れて、かき混ぜる。気が向いたときに塩とコショウを振る(大体忘れる)。火が通ったらご飯の上にのせる。シャウエッセンの袋から2本ウインナーを耐熱容器に出して1000Wで20秒加熱する。その間に茶碗とケチャップをテーブルに持っていく。レンジが鳴ったら持ってきて急いで食べる。ちょっとウインナーが加熱し切れていないときはご飯で挟んで温める。
この実家での一連の流れを完璧に覚えている。これは今で言うとモーニングルーチン、ということになるのか?生活感がすごいな。シャウエッセンはだいたい6本入りだから2本ずつ食べるのがちょうどいいのね。でもシャウエッセンってもう高級品だよね、食いたくても買えねぇんだ。

普通の日も、雨の日も、運動会の日も、音楽会の日も、遠足の日も、いつも同じものを食べた。しかし小学校の卒業式の日は食べなかった。その日の朝食は牛乳に浸して軟らかくしたパンだった。
と、いうのも、前日からおたふく風邪になってしまい、咀嚼が一切できなくなっていたからだ。食物を噛みしめると顎がじーんと痛み、よだれが出て、後頭部までツーンとするのだ。あの痛みってなんとも言えないよね。
おたふく風邪は出停だが、私はピアノの伴奏を任されており、絶対に休むワケにはいかなかった。だってこんなに練習したのに、最初で最後の伴奏かもしれないのに、ですよ?!風邪を隠して強行突破など、今のご時世では考えられないことだが、昔のことということで許してほしい。

そうは言っても昨日から何も食べず稼働しなければならないのは無理があった。しかもこういうときに限って家に食えるもんあんまないの。そういう時もある。それで苦肉の策で牛乳浸しパンが登場したわけだが、これが案外ウマくてねぇ……。とても腹が減っていたせいもあるだろうが、パンの甘み、牛乳の甘みを舌が染み渡るように味わっているのが分かるのだ。ちょっと顎を動かすとなぜか血の味がする気がするんだけども。
ちなみにパンは、当時ウチら家族内で流行ってたエクメックだった。父がたまに買ってきてくれた。それが残ってたんだ。エクメックはうまい。でも牛乳に浸してボロッボロになってもちゃんとうまいとは思わなかった。

初めて袖を通す制服。楽譜を持つ。パンを食ってちょっと元気を出して、私は登校することができた。

④よくわからん朝食inオーストラリア

海外研修にて、中学2年生の我々はオーストラリアに来た。とりあえずバスに乗り、ホテルに行く。朝食を食うためらしい。

昨日の夜出発して朝方到着したわけだが、飛行機の中は全く眠れなかった。そのせいか、初めての海外の地は目に映る映像がぼんやりとしており、どことなく実体を得ないものだった。しかも霧雨が降って全てがしっとりとし、すばらしいまでの灰色だった。
そういうわけでその朝食会場も同様にしらっちゃけていて、私はずっとふわふわしていた。当時食べたものの絵とコメントがノートに残っていた。(当時はスマホがなく、わざわざメモを取って記録していたのだ。信じられない)

おかゆみたいなピンクみがかったスープ…「何湯??じゃがいもと卵とコンビーフか?お湯のようなまろやかさ」
豆煮…「やわらか~い大豆とトマトの煮込み?(ケチャップ?)ただ、後味は苦いというかガムみたい」
ベーコン…「ゴム?味ふつうの固ったいベーコン。厚切りで油てかてかだけど固い」
レタス…「間違いないうまさ!」
ハム…「ふつう」
オレンジ…「ふつう」
チーズ…「塩味がちょうどよくてう~ん?うまい」
メロン…「季節外れって感じ。固いし、ちょっと甘いウリ。ガリガリ」
食パン…「ふつうにうまい」(給食の黒糖食パンみたいな感じだった多分)

シリアルがいろいろあったな。ちょっと味見したかったけど、昨夜日本を発つ前にたらふく食べたのと、機内食でも軽い朝食が出たので対して食べられなかったのだ。
こっちは夏なのに全然肌寒くて、ずっと、このよく分からんスープを飲んでいた。親いなくて、子ども達だけで遠出しているワクワク感はあるんだけど、これからホームステイあるし、なんか急に不安なってきて汁を啜っている時の雰囲気。それは妙に記憶に残る朝食の場面である。