コンサートホール鑑賞のすゝめ 〈東京篇〉
執筆者:A5
「演奏会に足を運ぶのは何で?」
永遠の5歳児が主宰する某バラエティ番組ではありませんが、演奏会に行くのが大好きな大人に聴くと色々な回答が期待できるのでは、と思っています。
私1人で10ぐらいの回答を持っていますが、建築作品であるコンサートホールそのものを楽しむのもおすすめです。今日クラシック音楽と言われるジャンルはヨーロッパの宮廷や教会と縁が深かったのもあるでしょうし、特に地方都市では街のシンボルとしての機能も期待されるためかコンサートホールのデザインも様々。
私が出会った様々なコンサートホールを紹介します。今回は東京篇。
5つのコンサートホールが登場します。
東京文化会館
1961年、東京都が開都500年事業として建設した文化施設が東京文化会館です。どちらかといえばバレエやオペラのイメージが強い会場ですが、東京都交響楽団の本拠地でもあります。自主企画制作も精力的に取り組んでいる印象!
建築家は前川國男。向かい合う国立西洋美術館の建築家ル・コルビュジエの弟子です。上野駅公園改札から出てすぐ、見える建物です。
鉄筋コンクリートによる水平・垂直の連続はまさにモダニズム建築の代表例ですが、一歩中に入ると成層圏ブルーと言われる天井と、きらびやかな金が出迎えます。どことなく、クリムトやマーラーを連想させる雰囲気です。そういえば、東京都交響楽団といえばマーラーを得意とするオーケストラと聞きますよね。
都響でマーラーを聴くのがここ数年の夢です……
大ホールに入ると雲のようなレリーフが壁の両側にビッシリ!
彫刻家 向井良吉の作品です。
私の写真では分かりにくいですが、客席シートの色は色とりどりになっていて、空席を目立たせにくくするための工夫なんだとか。新国立競技場(隈研吾)の発想が60年前にも!
前川國男自身も音楽好きだったようで、彼のお気に入りは5階の正面席とのこと。高所恐怖症の私には、巨匠の高みに辿りつけません……
小ホールも魅力的な空間ですし、4階にある音楽資料室では充実した資料やパート譜貸し出しサービスも。レストラン「精養軒」で食べたのは小学生時代の良き思い出です。
前川國男の建築作品は、美術館なら仙台や甲府、岡山、福岡、コンサートホールだと埼玉、神奈川、京都、熊本と全国各地にあるのでコンサートホール好きがまず押さえたい建築家です。
東京芸術劇場
池袋駅西口を出るとすぐ目に入るのが東京芸術劇場。コンサートホールと3つの演劇用ホールを持つ文化施設です。
1990年に開館したこの建物は芦原義信の作品。マルセル・ブロイヤーの事務所で働いていたこともある彼は、岡山シンフォニーホール や石川県立音楽堂などの作品も残しています。
コンサートホールの奥には巨大なオルガン が鎮座しています。
フランスの名匠により制作された現代的なデザインのオルガンですが、このオルガンには世界で唯一の仕掛けがあるのです。
この壁面、好きです。
サントリーホール
もはや説明不要な気もしますが、お酒や飲料のメーカーとして知られる「サントリー」を名に冠したホールです。東京メトロ溜池山王駅の改札から13番出口までの遠さに共感いただける方も多いのではないでしょうか……とはいえ、一歩ホールに入るとそこは数々の音楽家に称賛された音響。
ほとんどの在京プロ・オーケストラが定期演奏会会場にサントリホールを設定していますし、著名な来日アーティストはやはりここに来るイメージが強い。
ヴィンヤード形式による座席配置は日本初。ステージ上の照明器具は立ち上るシャンパンの泡のようなデザインで、さすがお酒のサントリー。
エントランス内装もなかなか素敵です。ショップもサントリーホールをモチーフにしたグッズを揃えていて音楽ファンは必見。どこかに「青いバラ」も飾られていますよ。
「ほな、そうしましょ」
サントリー第二代社長 佐治敬三のような文化を愛し育てる実業家がこれからもいて欲しいものです。
すみだトリフォニーホール
錦糸町駅からほど近い賑わいに立地するホール。新日本フィルハーモニー交響楽団とフランチャイズ契約を結び、墨田区民に親しまれる文化施設です。1997年に開館しました。
「トリフォニー」は「市民」「アーティスト」「ホール」の三者が互いに育み、刺激しあいながら独自の芸術を創造していく意味が込められた名前です。
ホール内装はシックな配色(福岡シンフォニーホール を彷彿)ながら、大胆に2, 3階のバルコニー席を大胆に傾斜させステージに視線を誘導させています。
館内も音楽への期待を高めるデザインが随所に。アート作品もたくさん隠れています。併設されているカフェの名前は「北斎カフェ」。
さすが、隅田区です。
新国立劇場
新宿駅から京王線に乗り換え、初台駅で降りると出迎えるのが新国立劇場。隼町にある国立劇場が歌舞伎や文楽など日本の伝統芸能を上演するのに対して、「新」国立劇場はオペラやバレエ、演劇の上演を主とした文化施設です。1997年10月に開館し、2022/23年シーズンは25周年を祝うシーズンとなっています。
※厳密にはコンサートホールではありませんが、音楽を楽しむ場なので区別せずに掲載します。
建築家は竹中工務店出身の柳澤孝彦です。
彼の東京都現代美術館も同じく大空間を活かした設計でおすすめですよ。
一歩入ると広々した空間。ここに、大中小3つの劇場があります。エントランスには過去のオペラ上演に使われた衣装が展示され、きっとオペラファンにはたまらない空間です。私はどちらかといえば器楽寄りの音楽ファンですが、美術や文学など諸芸術の魅力が詰まったオペラを知るには良い入口だと感じます。
5階の情報センターにはオペラやバレエ、演劇に関する豊富な資料が保管されていて、上演中の作品に関連させたコーナーも開設されているので、開場前に行きたい会場No.1です。
オペラ部門は毎シーズン10作品ほどを上演していますが、その内4作ほどは新制作による上演となっています。
「優れた舞台芸術の創造・振興・普及に努め、我が国の文化の向上に寄与し、心豊かで活力ある社会の持続的な発展に貢献することを使命」とする国立唯一のオペラ劇場の立場を反映しているようです。
ヨーロッパの劇場と異なり専属のオーケストラがないのですが、在京のプロ・オーケストラが入れ替わりでピット入りしてその違いも楽しめますし、専属の新国立劇場合唱団のレベルはとても高いと思います。
国内で4面舞台を持つのは、日本国内で他に松本、浜松、大津、西宮の劇場と限られます。
2022年には、世界各地の歌劇場や音楽フェスティバル団体が持つオペラの公演記録映像を無料で配信するプラットフォーム Opera Visionに新国立劇場も加盟しました。Youtubeアカウントにも期待が高まる予告編やインタビュー動画がたくさんアップロードされています。あなたが気になる作品も、あるかも?
初台に普段立ち寄ることが難しい方も、インターネットで簡単にアクセスできてしまう劇場なのです。
コンサートホールまとめ
東京近郊にお住まいの方も、そうではない方も。
東京にお越しの際は「コンサートホール鑑賞」いかがですか?
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