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W3D3 地の呻き-지옥의 신음

「オルカ傀儡についてですが……」

 白装束をかぶった人間が恭しく太陽が描かれた紋章の前に立つ。

「フォックス傀儡を失い、戦闘兵にも被害。これについてどうお考えですか?」太陽の紋章の奥で、優しくも凛とした声が響き渡る。

 優しく、静かな声ではあるが、その声には確実な怒りが込められていた。

「不逞人種にもかかわらず被害が出てしまったこと、ひどく遺憾に思っております」

 男は言う。
 しかし太陽の声の主、アマテラスはこの男に何かを返すことはない。
 男はこのまま処刑されてしまうのだろうかとおびえた様子で相手を見る。

「あら。そう言ってせっかくのフォックス傀儡を亡き者にしてしまった。その責任をあなたはどのようにとるのかしら? 傀儡を作るにはどれだけの苦労があるかわかって? しかもオルカ傀儡が脱出したせいで、その責任の及んだ仲間は多数。だから早く仕留めなくちゃいけないのに。どうするつもりかしら?」

 男の隣にいた女は言う。
 男にだって理解している。
 オルカ傀儡の裏切りののち、男の友人をはじめ、多数の改造手術執刀医が責任を負わされ、硫酸の海に沈んでいった。
 自身は責任者ではあったが、次回確実に仕留めることを条件に、今は見逃してもらっている。
 しかし、もしここで逃してしまったら。
 あまり考えたくはないが、考えて理解できることは、自分自身の滅びだった。

「石井。あなたの次の手を聞かせてくれるかしら」アマテラスは言う。

「はっ」男、石井は顔を落とすと、自身の腕のブレスレットを操作し、画面に映し出す。

「現在、ターゲットは生田公園の中で落ち込んで佇んでいます。さらに少女連れ。しかしながら彼女たちは無防備な状態であると言え、いくら敵が強いとはいえ、少女に狙いを定めて攻撃すれば弱体化が期待できます。さらに幻術を搭載したコウモリ傀儡を用いれば、始末はたやすいでしょう」

 石井は言うと、コウモリ傀儡を笛で呼び出す。
 コウモリ傀儡は深く太陽の門にお辞儀をする。
 彼女のマントが、ふわりと揺れる。
 ハイレグのような上半身に、長い茶色のチノパンのような強化服を着た彼女。
 彼女は戦闘兵を前にすると、足元に魔法陣を展開する。

 すぐさま怪人の身体はふわりと浮き、自身めがけて攻撃を仕掛ける。
 そして何もコウモリ傀儡がしていないにも関わらず、戦闘兵はその場で爆発し、自殺してしまった。

「ご覧いただけましたか!」石田は大仰な態度でコウモリ傀儡を紹介する。
 その様子に女は腕を組み、つまらなさそうに見つめる。
 石田はそんな女をけん制するかのように睨むと、ねっとりとした邪悪な笑みを浮かべた。

 女はそのまま怒りに任せて部屋を退出すると、様々な臓器が入れられた瓶を眺める。
 この中に入っている部品を使うことで、クローン兵士や、新兵士を作ることができる。
 これに改造術を加えることで、理想的な兵士を作ることすら可能だ。
 女、ミランダは足を組み、その中の一つの臓器を取り出す。
 そして紫色の液体を一つの皮膚に入れると、むくむくと肉体が出来上がってくる。
 すっとした体に、おとなしそうな表情。
 これをオルカ傀儡の前に差し出し、マヒをさせれば戦闘ができなくなり、その解除を脅せばいい。
 ミランダは妖艶な笑みで笑うと、その傀儡の素体を見る。
 そして言う。

「エージェントアルファ。貴様に命じる」

 エージェントアルファ。
 直也に似たその男は、虚ろな目で敬礼をすると、直也のような衣装を着こみ、そのまま外へと出て行った。

 ・・

 ルカは少女と星を眺めていた。

「あっ、おおいぬ座!」少女、かのんは指をさし、ルナに星を教えていく。
 決して星に興味がないわけではないけれど、そこまで星座については詳しくない。
 そもそも、こんな都会で星が見えるとは今まで気づかず、この街の環境の豊かさに、少しばかり感動していた。
 この街はこんなに美しい星を見ることができ、そしてこんなに静かな場所だってある。
 そのことがうれしく、ルナは少女のガイダンスに従って、星を追いかける。

「神様ゼウスが愛した犬だったんだけど、人を苦しめるテウメソスの狐をやっつけるために戦ったんだよ」

 興奮気味にかのんは話す。

「で、どうなったんだい?」ルカは言うと、手をこする。

 決して寒いわけではない。
 それでも、寒いと感じられるときに手を揉んでおかないと、なんだか自分が人間でないような気がしてしまった。

「うん、結局倒せずにどっちも天にあげられちゃった」

 ルナはなんだかおかしく感じられて、はは、と笑う。

「何で笑うのさ!」かのんは怒りを見せた。

「誰かを困らせる人って、決して倒せないんだよね」ルナは言うと、少しばかり落ち込む。

 自分に迷惑を掛けてくる、ニッポニアという敵は、果たして倒せるのだろうか。
 そして安心できる日がやってくるのだろうか。
 そんな日は二度とこないのかもしれない。
 ルナはそんなおおいぬ座を見て、なんだか悲しくなってくる。

「なんか涙が出てきた」ルナは言うと、服で涙をぬぐう。

「ルナお姉ちゃん変なの!」かのんは言うと、ルナを大きな声で笑う。

 こうやって笑われてしまうくらい、どうしようもないことなのだろうか。
 ルナは少しだけ考えて、考える価値もないのかとけらけらと笑った。

 しばらく星を楽しんでいると、急にまぶしい光が丘の下から見えてきた。
 一帯何事だろうかと思い、しばらく待ってみる。
 光の陰から現れたのは、直也だった。
 ルナは少しだけ顔をそらし、目線を合わせないようにする。
 しかし、彼はそっとルナに近づき、ルナの横に座った。
 ルナはその行動に少しだけ違和感を感じ、きっと直也を見る。
 直也はこんな、嫌がっている人間の横に無造作に座るほどデリカシーのない存在だったか。
 少しばかり考える。
 むしろ、心は隣には同胞の匂いを感じ取り、そわそわと心を急き立てる。
 ルナはその違和感にじっと直也らしき存在を確かめる。
 そして無造作にかのんを守るそぶりをする。

 自分の不安が的中しそうで、泣きたくなってくる。
 かのんもまた、何かおかしなことが起ころうとしているのを察知し、体を硬直させる。

「何で俺を警戒するの?」

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