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W3D2 乾かぬ涙-마르지 않은 눈물

 ルナは小田急線を渡り、向ヶ丘遊園駅の南口の方へを向かう。
 とぼとぼと歩いているが、涙は一向に枯れることはない。
 ただ悲しみや、自分の混乱を押さえることもできず、じっと歩き続ける。
 そんなルナをあざ笑うように、あるいは無視するかのようで小田急の特急電車が駆け抜けていく。
 ルナは日常と非日常の真ん中を生きる車両を見て、まるで自分のようだと思った。
 特急電車は普段、どんな思いで走っているのだろうか。
 すました奴と普通の青い電車に謗られつつ車庫で休んでいるのだろうか。
 そう思うと、なんだか自分を見ているようだった。

 確かに、別に誰かに謗られるわけではない。
 むしろ今は同情されていたはずだ。
 しかし、その同情がなぜか悲しく、怒りにつながってしまう。
 その感情を整理できない自分が悔しい。

 まるで子供のように泣きながら歩き続け、生田公園にたどり着く。
 目の前には明るく輝く月が躍る。
 ルナはその月を見ると、初めて自分自身を認めてもらえたような気が舌。
 彼女はそのまま生田公園の中に入っていき、科学館や美術館の横を通り抜けていく。
 わざと腕を大きく揺らし、いち、にぃ、いち、にぃ、と大きな声で言う。
 そうすれば自分の苦痛が脳から解除され、少しだけ明るさを取り戻していけるような気がした。
 さらに進んでいくと、周りにはうっそうと茂る森が広がっている。
 周囲には灯りもなく、音もそこまで聞こえない。
 月だけがルナを見ている場所を歩いていると、ルナの気持ちは少しずつ、再び内省的になってくる。
 一体自分は何のために改造され、何のメッセージを受け取ったのだろうか。
 自分はどんな罪を犯し、どんなことをして生きて行けばいいのだろうか。
 その答えを知りたい。
 ルナは少しばかりなだらかになった気持ちで祈りをささげる。
 そして目を開くと、視界の先には先ほどと同じ月が笑っていた。

 身体が冷えるようで、あまり冷えない。
 この気持ち悪い感覚は、まるで自分のことを示しているようでもあった。

「気持ちの悪い、体かぁ」ルナは息を吐く。

 こんな体になるのなら、何かの時に死んでいた方がよかったのではないか。
 ルナは自らを呪う。
 しかし、どんなことをしようとしても死ぬことはできない。
 それでも何とか死んでやろうと、ルナは剣を召喚。
 腹に突き刺そうとする。

 その時、視線を感じた。
 ルナは振り返る。
 そこにはひとりの女の子が、涙を流しながら歩いていた。
 彼女もまた、ルナに目を合わせる。
 少女はルナに襲われる、と見たのか、一瞬振り返ろうとする。
 しかし、すぐにルナには問題がないと察したのか、ルナを見た。

「おねえちゃんも、迷子?」少女はルナを見る。

 ルナは腰を落とし、「そうだな」と答える。
 少女は顔をにこりとほころばせ、ルナのそばに立った。

「どうしたんだ?」ルナはその場の空気を和ませるために、話をする。

 少女はわずかに考え、そしてはにかんだのち、「あたしね」と話を始めた。

「迷子なんかじゃないんだ。あたし、お父さんに嫌われて、捨てられたの。出て行けって言われて。だからここにきたの。でも……」

 恐らく寒いんだろう。
 少女はがくがくと体を震わせている。
 ルナは着ていたジャンパーを少女にかぶせると、じっと彼女を見る。

「お姉ちゃんは?」

 ルナは聞かれ、何と言ったらいいのかと考える。

「僕はね……そうだな……」ルナは言うと、その場で言葉を詰まらせる。

 一体なんといえばいいのだろうか。
 この状況を説明できる言葉が浮かばず、じっと口ごもる。

「大きくなったらこんな時もあるさ」ルナは言い、空を見る。

「変なの」少女は言うと、ルナを見て笑う。

 ルナはそんな少女の目線に立つと、にこりと微笑む。

「明日の朝まで一緒にいよう。そしたらお母さんのところに帰るんだ。君は帰るところがある。いくらお父さんに出ていけ、と言われても、本当にそう願っている親はあまりいないと信じたい」

 ルナは少しだけ言いよどむ。
 もしかしたらこの親は本当に捨てにかかったのかもしれない。
 そう思うと、余計なことを言うわけにはいかない。

「本当にあたしのこと捨てる、って言っていたもん!」少女は言う。

 ルナはそのことばを聞きながら、じっと空を眺める。

「あたしのこと、嘘つきだって思ったでしょ!」

 少女は叫ぶ。
 ルナは「いや、」というと、少女を見る。

「僕も、君も、捨てられたんだなぁ、って」

 いうと、少女はキョトンとした顔でルナを見た。

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