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W5D3 プラットフォーム-플렛홈

 遠い遠い地下の中。
 真っ白な壁で覆われた場所では、3人の科学者が椅子に腰かけ、モニターを眺めていた。
 そのまえで一人の女性が長い指示棒を持って何かを説明しているようだった。

 聴衆はその意見を少し眠そうに、しかし形だけでもきちんと聞こうとしているように感じる。
 その姿は、思想をもっている組織というよりも普通の企業の会議に近いところがあった。

「今までオルカ傀儡に処刑された傀儡は4人。その傀儡はみな、オルカ傀儡との戦いに善戦していましたが、ある一点だけの欠点をもって突破され、殺害されてしまっています。その一点だけの欠点とは何か。それが傀儡シリーズの欠点でもある、感情や人格を残して洗脳を行う技術に他ならないのです」

 女は言うと、画面をフリックして幾つものデータを呼び出す。
 データにはいくつかの地図と、状況、そして傀儡の顔が描かれていた。

「傀儡たちはふとした拍子に自我を取り戻し、自分の生きる意味を忘れてしまうという欠点がありました。しかし、私が開発する新型傀儡にはそのような心配は不要です。一方で石田博士が今開発しているものでは、また素体が蘇り、マスクドオルカを再生産しかねません。そのようなリスクを冒してまで旧態依然のシステムを使うのか、それとも新しいシステムを使うのか。ここにニッポニアの明暗がかかっていると言えます」

 女性は言うと、3人を見る。
 彼ら一人一人白衣をまとい、胸には真っ黒になったメスを持っている。
 彼らが傀儡の執刀医であることは、どう見てもよく理解できた。

「しかしながら成田博士、このような傀儡生産法では並みの人材では兵士を作ることは不可能です。そこを解決できないのであれば、開発するべきではありません」

 ひとりの医者が挙手をして言ったことは、このような言葉であった。
 その言葉を聞いた成田は、如実に不愉快であるという表情を発言者である石田に言う。

「不可能を可能にすることこそ、私たち誇り高いニッポニアの技術者ではないのでしょうか? ……石田先生はサイボーグ技術の名医であると伺っています。そのようなあなたがこんなことに懸念を評されるなど、なんとも残念だと思います」

 その言葉に、石田は目を大きく見開く。
 心の中に堪えていたリミッターが外れ、怒りを示すようなその表情。
 他の面々は来んことに関わりたくないと、眼をわずかにそらす。

 その時、モニターが光る。

「こんなことで喧嘩なさらないでください」

 画面に映し出されたのは、天幕であった。
 この奥にはアマテラスが隠れている。
 二人はその場で後ろに下がり、膝を折り、頭を地面につける。

「成田。あなたの言う技術を試してみてもいいかもしれません。この世界を救うためには、少々の犠牲は止むを得ないでしょう。私たちはそのような考えで行っているはずです。この世界、この国を巣食う反日分子から国体と誇りを守るために、あなたは何をするのか、プランを語っていただけますか」

 アマテラスは穏やかな声で言う。
 成田は顔を一瞬上げ、再び恭しく顔をつける。

「ははっ、ありがたいお言葉……。では説明させていただきます。今回の素体は都ソラという韓国人を素体に使います。彼女は横浜大学に通う大学生で、IQはオルカ傀儡と並ぶ160、体力面ではテコンドーなどをたしなんでおり、マスクドオルカを超えます。もちろん新型プラットフォームへの適性もすでに学校に潜入して行われた血液検査などで確認済み。この彼女を改造し、桜本へとけしかけ、反日分子たちを一掃します。ここには適性地としてはわずかに劣るものの、悪を赦さない愛国の気概あふれるA~Cランクの兵士を戦闘員として横付けし、サポートを行います。ウサギ傀儡、というネーミングの予定ですが、魔術は火炎と飛行を予定、オルカ傀儡を殺し、桜本を壊滅させる愛国戦士を生産します」

 成田は言うと、一瞬石田を見る。
 石田は成田から如実に視線を外すと、荒々しく息を吐いた。

「お前は愛国を楽しんでいるんじゃない。愛国を語ってテロをしたいだけなんだ」

 石田の言葉を聞き、成田は歩みを止める。

「何ですって? 私は愛国心を持ち、ニッポニアの崇高な思想に共鳴し、戦っています。何を勘違いされているのかわかりませんが、事実に基づかない発言をなさるのは科学者としていかがなのでしょうか?」

 成田の冷たく、しかしあからさまに感情的になっている発言に、石田は答えることはない。

「成田。落ち着きなさい」

 アマテラスの言葉を聞き、ようやく荒々しい息を吐いて怒りから離れる。

「今回は成田に任せてみます。しかし成田。あなたはここまで大きな発言をなさったこと、そしてそれがもたらすことはどんなものであっても責任を負えますね?」
「責任とは……?」
「あなたもわかっているはずです。あなたは命、財産、それから家族のすべてを掛けてこの崇高な作戦に臨まなければなりません。それでもできますね?」

 その言葉に、成田は口を一瞬噤む。
 しかし、成田はゆっくりと頷くと、重たく口を開く。

「私の愛国心を、お見せします」

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