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W3D4 こうもり-박쥐

 その言葉に、ルナの心はさらにかき回される。
 決定的な怪物だと言えるものはない。
 しかし、何か困難がある。
 気付いた時にはルナは仮面をかぶり、剣を手に携えていた。

 この姿になるたびに感じる違和感、そして罪の意識。
 自分は何か罪を犯したせいでこのような姿へと改造された。
 変身するたびに、ほのかな磯の香りとともに、自分自身の罪を感じさせる。
 一体どうしたらいい。

 さらに目の前にいるのは、自分の親友かもしれない人間。
 それをもし裏切ることになってしまえば。
 ルナはどうしたらいいのかわからず、顔を落とす。

 かのんはおびえた様子でルナを見る。

「大丈夫だから、ルナだから」ルナは言う。

 しかし、かのんはおびえにおびえ、そして涙を流した。

 直也らしき男はかのんに近づき、手を肩にかける。
 そしてあやすようにとん、とん、と背中を叩くと、かのんは落ち着きを取り戻したようだった。

「驚かせたらだめじゃないか」直也らしき男は言う。

「お前は……本当になおか?」ルナは怪訝そうな表情で聞く。

 しかし、直也らしき存在は楽しそうに笑うと、「なんでだい?」と言ってルナを見る。
 そして彼はルナに近づくと、きゅうとルナを抱きしめる。

 その時、ルナはふんわりと眠気を感じた。
 それと同時に、今、目の前にいる存在は直也ではないと察する。
 しかし、その眠気にどうやっても勝つことができない。
 まどろんでいく眠気に、ルナは舌を噛んで対抗する。

「この眠気、つらいよね。どうしたらいいか、君は知っているはずだ」

 ルナは目の前の景色がゆがんでいく。
 そして自分を非難する声が聞こえてくる。

「怪物」
「今すぐ死ぬんだ」

 その言葉に負けるものかと、剣を握る、
 目の前には大きな耳と、黒い仮面、そして黒いハイレグスーツにマントを羽織ったコウモリのような女怪人が立っていた。
 恐らく傀儡だろう。
 そう判断すると、剣を握る。
 ルナはコウモリをめがけ、剣を振る。
 しかし、彼女はルナの下を通り、後方へ。
 そして強い電波を送り出す。
 ルナはその瞬間、脳の中にあったすべての思いや考えが吹き飛び、真っ白になる。
 さらに自分は悪魔ようなことをしていたのではないかという気持ちが沸き起こってくる。
 でも、本来ではそんな思いはなかったはずだ。
 でも、今、ここで従っておけば楽に生きられるのではないか。
 ルナの心に現れた二つの意識。
 その意識を否定することが、なぜかできない。
 ここで敵の門下に下り、ニッポニアの兵士として生きるべきなのか。
 ルナはその場でしゃがみ込む。

「ねぇ、オルカちゃん。なんでそんなに素直になれないのかな? 素直になっちゃえばいくらでも楽に生きられるのに。戦闘員だったらまだしも、あなたは傀儡よ? そんなに簡単に処刑したりするわけないじゃない。早く戻れば戻るほど、あなたの苦痛は和らぐはずよ」

 コウモリはルナの肩に現れ、そしてゆっくりとルナのうなじを触る。

「ねぇ、一緒に戦いましょ。こんな終わりかけ、見せかけの社会じゃなくて、選ばれた人間で世界を太陽の光と、優しさで満たすの。あなたはそのために選ばれた人間なのよ。その喜びに与るべきじゃないかしら?」

 その言葉に、ルナは顔を落とす。
 自分の生きる意味、そして改造された意味。
 いまなら意味が分かる。
 ここでコウモリに従い、基地に戻るべきなのだ。
 そして堕落しきった世界と戦い、真の平和を作るべきなのだ……。
 イエスも、神も果たせていない真の平和。
 それをアマテラス様は果たそうとしている。
 大東亜の幸福を祈るならば、ここで堕落しきった下々に反旗を翻さなければならないのだ……。

 ルナはゆっくりと、虚ろな目でコウモリを見る。
 コウモリはルナの表情を見てにこりと笑い、そして顎を人差し指でクイと持ち上げる。

「傀儡として生きましょうよ。もう何も迷うことなんてないの。ゆっくりと息を吸って……」

 コウモリの言葉に従い、顔をゆっくりと上げる。
 その時、体にしびれが走る。

「コウモリばかりじゃないんだなぁ。俺からもお願いだ。ルナはこの世界の救世主だよ。この堕落した世界をきれいにして、地球も、人も育てていく。その神々との約束が、君なんだよ」

 ナオも言っている。
 そして、自分を神の義として使ってくれようとしている。
 そうだ、自分は神の義として使ってもらうために、そして神の傀儡として悪しきものから世界を救い出すことが、自分の一番の使命なんだ……。

 ルナはゆっくりと息を吸う。
 眠い体に染みわたる新鮮な空気が、ルナの心を整えてくれる。

 これが改造された理由なのだ。
 ルナはその満足感に浸り、ゆっくりと座り込もうとした瞬間、パン、パンという音とともに、目が覚める。

 コウモリ傀儡は目をしかめ、その音の方を向く。
 そこに立っていたのは、ナオだった。

「ナオ……」ルナはその彼をじっと見る。

「ルナ、遅くなったね!」ナオは言うと、再びコウモリ傀儡めがけて銃を放つ。

 音、そして転がってきた玉からするに、エアガンのようだ。

 ルナはコウモリ傀儡の方を見る。
 彼女は鼻を鳴らすと、「私もなめられたようだわ」と言ってナオを見た。

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