『オランダ小史』/『繁栄と衰退と』 ~元大使によるベクトル真逆のアプローチ2冊
元外務省官僚による2冊の本が同時期に出ています(うち1冊は17年前のものを出版社を変えて再出版)。
『オランダ小史』 先史時代から今日まで
書誌情報
著者: ペーター・J・リートベルゲン (著), 肥塚隆 (翻訳)
新書: 291ページ
出版社: かまくら春秋社
発行年月: 2018/8/13
読書メモ
ひっそりと出版されていたオランダ史の本。日経の広告で知り、けっこう苦労して(国内なのに2週間近くかかった…)手に入れました。発売直後のほうが手に入りにくかったです。
直近で出版された桜田先生の「物語 オランダの歴史」は「オランダ」になる直前からなので450年ほどの時間軸です。こちらは副題にあるとおり、「先史時代から」なので、全体的に広く浅く網羅したものです。訳者はオランダ大使経験者で、赴任中、他国の大使とともに現地で教科書代わりに紹介された本がこちらとのこと。本書は丁寧な訳出に徹してあり、ほとんど訳者の意図は垣間見えません。また、ふんだんに使われたカラー図版と相まって、オランダ史の導入には非常にありがたい本になっています。
日本にオランダ史概説がない → ならば現地のものを紹介しよう という外から内のアプローチです。
実際はその後日本で2冊の良質な概説が出ていますので、本書と合わせてオランダ史概説はかなり充実したといえるでしょう。
八十年戦争のパーツに関しては、ひとつ面白い試みがされていました。あとがきにもあるように、専門家との相談のもと、従来「法律顧問」と訳されてきた役職を「大法務官」としたそうです。現代の企業の法律顧問のイメージとはニュアンスが違うから、とのことのようです。「ゴイセン」撲滅論者としては、過去に使われていた歴史用語のすべてが是とされるべきではないと思ってますし、研究者ではない視点からのこういった試みがなされるのは良いことだと思います。
『繁栄と衰退と』 オランダ史に日本が見える
新版出ていました。下のほうがオリジナル1999年版。
書誌情報
著者 : 岡崎 久彦
出版社 : 文藝春秋 (1999/1/1)
発売日 : 1999/1/1
文庫 : 347ページ
出版社 : 土曜社 (2016/4/10)
発売日 : 2016/4/10
単行本(ソフトカバー): 288ページ
読書メモ
こちらは四半世紀前のもの。オリジナルを当時から読んでいます。
自分の主張したいことがある → オランダ史を例にとって論じる という内から外のアプローチです。歴史書ではなく、ややイデオロギー色が強い評論となっています。
書誌情報やレビューで言及されていることがほとんどないのですが、イギリスの史家バーカーを参考にしていることは著者も初めに書いているとおりです。そして少なくとも八十年戦争近辺を扱った部分においては、アメリカの史家モトリーの「抄訳」です。たとえばニーウポールトの戦いについては9ページにわたって記述が続き、概説では拾えない細かなエピソードまでが豊富です。ただしこれらはあくまで抄訳のため、あらすじといってよいものです。
参照時の注意。英文の書名は文中に日本語訳の状態(『オランダの興亡』などと記載)で書かれており、巻末含め他に出典もなく、歴史論文の参考文献として本書を挙げるのは不向きです。本文だけを読んでいると、著者の意見なのか、原著の紹介箇所なのか、抄訳なのか、判断がつかないこともあるため引用等の場合には原典に当たる必要があるでしょう。
モトリーはProject Gutenbergで無料で読めます。その他Google Booksなどでも無料版あり。基本は1巻-4巻ですが、いずれも相当に長いため、電子書籍ファイルもさらに細かく分割されているものが多いです。
History of the United Netherlands from the Death of William the Silent to the Twelve Year's Truce
バーカーの出典についても記載しておきます。著者が本書執筆時に入手に相当苦労したようですが、現代でも未だ電子化されていないようです。
J Ellis Barker "The Rise and Decline of the Netherlands: A Political and Economic History and a Study in Practical Statesmanship", 1906.
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