見出し画像

拝啓、山本文緒さま

こんにちは。
遠い場所でお健やかに過ごしていらっしゃることと存じます。

山本先生と出会ったのは、大学に入学した18歳の春でした。
大学生協の書店で山本文緒フェアが組まれており、その中の何冊かを買って帰ったその日から、わたしはあなたのファンです。

あまりに洗練されたセンス、あたたかで複雑で情けなくて愛おしい人間を描写する類まれない力、唯一無二の世界観。ページをめくるたびに圧倒されました。
このひとの本は全部読まなければいけないぞ、と本能が騒ぎたて、少しずつ買いそろえてベッドに積み上げ、夜な夜な読み進めて完読し、そこからはひたすら新作を待つ人生が始まりました。

Twitterでうるさいくらい好き好き言っていたら、「13年間もファンでいてくださるなんてありがとうございます!」と思いがけずリフォローしてくださり、それから先生が一度Twitterをやめてまた戻っていらしてもゆるやかに交流は続きました。

『なぎさ』が発売されたときは、ちょうど自分も主人公同様カフェの立ち上げに追われているタイミングで、不思議な符合を感じました。
第一子出産も重なって不安だらけのわたしにやさしくお声がけくださいましたね。
もうやめてしまっていたわたしのブログのことまで覚えていてくださって、本当にびっくりしました。

インスタライブでは質問を読み上げ名前を出してくださり、あさイチでも近江アナに読まれたわたしの名前ににこっと微笑んでくださいましたね。
天翔けるような多幸感に酔いしれました。
『自転しながら公転する』の発売記念バッヂは一生の宝物です。

困難の多い人生で、誰より大好きな作家さんと細い細い糸でつながっていられたことは、目も眩むような幸せでした。
多くのファンが距離感を勘違いするように、自分も何かのかたちで活躍すればワンチャンお会いできないかな、などと大それた夢を見たりもしていました。新刊のサイン会でもよかった。
先生が関東にいらっしゃるときは一日中そわそわしてしまうくらい、どうしようもないファンでした。

最近SNSでまったく投稿されていないことが気になってはおりましたが、深刻なご体調不良とは思いもよりませんでした。
だって先生はまだ五十代という若さなのですから。
まさか、そんな。

これから書店で追悼フェアが組まれるのかと思うと耐えきれません。
新しい涙が次々にあふれ、気持ちを立て直せそうにありません。
愛猫・さくらさんとは再会できましたか?
ありがとうございます、大好きでした。
これからもずっと大好きです。

訃報には「いいね」できない指先がめくり続けたページに光  柴田瞳

生きているうちに第二歌集を出すために使わせていただきます。