弁護士はここを見る!契約書チェックのポイント!(その2)

この2つができれば契約書マスター!


契約書チェックのポイント。今回は2回目。今回は「この2つができれば契約書マスター!」という話です。

前回第1回「契約書はなぜ作る?」はこちら。

さて、契約書チェックの細かいテクニックは語ろうと思えばいくらでも語れますが(そういった話は後日します)、今回は、あらゆる契約書チェックに適用できるポイントの話です。

連載第2回目ですが、いきなり核心かもしれません。

ズバリ、以下の2点です。

1.その取引におけるリスクがなにかを検討し把握する。
2.ことばを可能な限り明確にする。

以上の2点、これができれば大丈夫。契約書マスターです。

え?これだけ?と思われるかもしれませんが、私自身がやっている契約書チェックも、ほぼこの2点です。

1.その取引におけるリスクがなにかを検討し把握する。


私が民法のなかで一番重要と思う条文として、民法91条という条文があります。

民法91条は「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う」という条文なのですが、これがどういう条文なのかというと、簡単にいえば、法律がそうしなければ無効と定めている場合以外は、当事者が決めたことがそのまま効力を有する、ということを定めた条文ということになります。

自分に有利な取り決めができればいいけれども、不利な取り決めをしてしまったらピンチに陥る。

これが民法のルールです。少なくとも事業者であれば、うっかり変な合意をしてしまった、、、は通りません。

だからこそ、取引におけるリスクをしっかりと分析し、それを防ぐためにはどうすればいいのかを検討する必要があるのです。

では、どうやってリスクを分析すればいいか。

これはいろいろなテクニックがありますが、私も普段使っている、比較的やりやすい、おすすめの方法があります。

実際の取引相手がどういう人かはさておき、とんでもなく意地の悪いクレーマー気質の相手と取引しなければならないシチュエーションを想像してください。

そして、その相手がどんな言いがかりをつけてきそうか考えてみてください。

こんなこと言ってくるかも?ということが思い浮かびませんか?

それがリスクです。

そして、それを防ぐためにはどういう取り決めにすればいいかを考えましょう。

いかがでしょうか。といっても、まだピンと来ないかもしれないので、次回は具体例を挙げてさらに検討してみようと思います。

具体例1(ウェブサイト制作)

あなたはウェブサイト制作業者です。ある会社から、自社ウェブサイトがないので作ってほしいとの依頼を受けました。仕事を引き受けるにあたり契約書を作ろうと考えています。

さて、契約書を作るにあたっては、どこに注意すべきでしょうか。ウェブサイト制作の依頼の場合、リスクはどこにあるのでしょうか。

では、この条文はいかがでしょうか。

第●条(業務の内容)
乙(先方)は甲(あなた)に対し、乙の自社ウェブサイト一式の制作を依頼し、甲はこれを受託した。

業務の内容を定める条文がこれだけだった場合、私としては、危ないと思います。

なぜか。

さきほどのリスク検討のおすすめの方法を思い出して頂きたいのですが、「とんでもなく意地の悪いクレーマー気質の相手がどんな言いがかりをつけてきそうか」考えてみましょう。

なにか見えてこないでしょうか。

もったいぶっても仕方がないので、答えをいいますと、この条文では、乙の自社ウェブサイトを制作することはわかりますが、そのウェブサイトがどのようなものであるか、例えば、構成、デザイン、ページ数、機能などがどのようなものであるのかは、全くわかりません。

そうするとどういうことが起きるかというと、例えば、なにをもって完成なのかがよくわからないということになり、こちらが完成と思って納品しても、先方が完成していない(だから代金は払わない)と主張して、延々と先方が納得するまで作業をやるはめになってしまうことが想定されます。

想定外の作業をやらされ、かつ、それがどこまで続くかもわからないということが重大なリスクであることはお分かり頂けるのではないかと思います。

こういったリスクをあぶりだす作業が「その取引におけるリスクがなにかを検討し把握する」ということなのです。

ちなみに、この業務の範囲をめぐるトラブルは、トラブルの類型としては非常に多い印象を受けます。

具体例2(損害賠償についての定め)

契約をするときに、あまり検討しないまま契約をしてしまう条項のひとつに損害賠償についての条項があります。

民法によれば、契約違反があった場合、契約違反があったことにより通常生じるであろう損害の賠償を請求できます。

契約書の中で何も決めていなかった場合は、この民法のルールが適用されることになります。また、契約書上も、民法と同じような条文が設けられていることも多いです。

しかし、この民法のルールは、一見すると、ごく当たり前のことを言っているようであり、妥当なルールのように思えますが、場合によっては、大変なことになります。

例えば、10万円で引き受けた仕事であっても、仕事にミスがあって、相手に1億円の損害が生じ、その損害がそのミスによって通常生じうる損害といえるのであれば、損害の全額を賠償しなければなりません。

類型的にいえば、何らかのアドバイスをして、それによって相手のお金が動くというようなコンサルティング系の業務は、このようなリスクを含んだ業務といえるでしょう。

では、契約書上、どのように対処すればいいのでしょうか。

業務委託契約で考えてみましょう。

この場合の方向性は2つです。

1つは、賠償しなければならない場合を、故意または重過失があった場合に限定するという方向です。

これは、ごくわずかなミスの場合は損害賠償請求を受けないようにするというものですが、逆の立場(委託者側の立場)からすると、賠償請求が受けられる可能性がかなり狭くなるので、なかなか受け入れがたい条文かもしれません。

ただ、方向性の1つとしては考えられます。

もう1つは、賠償額に制限を設けるという方向です。

具体的には「ただし、賠償額は●円を限度とする」というような条項を設けることです。

先ほどの故意・重過失があった場合と比較すると、賠償は受けられるので、委託者側の立場からすると、受け入れやすいかもしれません。

さて、いまは受託者の側から検討しましたが、この損害賠償請求についての定めは委託者の側でも注意しなければならないということは、お気づきになりましたでしょうか。

答えを言ってしまうと、受託者から提示された契約書の損害賠償請求についての定めが、損害を賠償するのは故意または重過失がある場合に限るというようなものであった場合、賠償請求ができる場合がかなり限定されてしまうことになりかねません。

あえて繰り返し述べますが、特に事業者同士の場合ですが、一旦契約をしてしまえば、条項が一方的に不利のように見えても、もはや覆すことはできません。

損害賠償請求にかかわる条項は、あまり検討せずに進めがちですが、受託者にとっても委託者にとっても、大きなリスクを含んだ条項であり、慎重な検討が必要なのです。

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