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僕と胡蝶さん12 (自分が一番得意なことを人に聞く)

『夢をかなえるゾウ』の課題を実践していく私小説

  〇

「やはり、妹の方が小さくてかわいいの」
 胡蝶さんは2日連続で参拝した妹の方に一気に心を奪われたようである。確かに、無邪気に鳥居の前で手をふる姿は親ばかだけど、可愛かった。
「ありがとうございます。かわいいですよね。今日の課題は『自分が得意なことを人に聞く』ってとこなんですよ。会社で上司と面談がある日なので、ちょっと聞いてみようと思います」
「得意なことなんて、自分が一番分かってる気もするがの」
「自分の思っていることと違うんじゃないかっていうことみたいです」

 上司との面談は定期的にあるものだ。会社員的にはまあまあ重要な面談。といってもそれは形式的なことで、雑談で進んで行く。こんなところでいきなりマジメなことを聞いていいのか、と思いつつも上司に聞いてみる。
「私の得意なところって、課長目線で見てどの辺にありますか?」
「は?」
「いや、今後の自分のことに活かしていきたいかなと」
「まあ、そういう面談だもんな。そうだな。目の前の課題に対処していくのは得意なんじゃないか。かなりしっかりと対処してくれていると思う。それと新規で話を取ってくるのは、多い気がするな。丁寧に対応してるんじゃないか」

「胡蝶さん、ということらしいです」
 これは僕としてはかなり意外だった。自分としては、深慮遠謀というかそういうかっこいい役割を自分に与えたかったのだが、むしろ目の前のことをミクロ的に動く方が得意なのだということだ。そう言われてみれば確かに、目の前の課題を勢いでやっていくことが好きなのかもしれない。
 昔、サッカーをやっている時にDFをすることが好きだった。向こうが組み立ててくることに対して、対応するのが(そしてそれを邪魔するのが)とても好きだった。小中学校時代のサッカーなので、求められるのも2手先くらいの先読みだった。それが好きだった。
「あの頃、あんなに好きだったサッカーに感じてたことを忘れてるんですね」
 それは僕の正直な感想だった。自分の中であれほど強烈に感じていた試合の前のモチベーションだったのだ。次のパスに対して何をするか、ドリブルされた時にどうするか、ラインを上げてオフサイドトラップをかけるならどういうタイミングか、そんなことを考えながらプレーするのが最高に好きだったのだ。
 新規の話はなんとも実感が無いが、いわゆる「運」の要素で、自分なりにいろいろな話を持ってこれているかもしれない。

「自分で感じてなかったのかの?」
「はい、僕の中で全然意識してなかったですね。そういう意味では、もっと目の前の業務というのを作ればいいのかもしれませんね。数手先まで考えて動くからわけが分からなくなって立ち止まってしまう時があるのかもしれません。もっともっと細かい業務に分ければ、楽しく仕事できそうですね」
「目の前のことへの対応が出来るというのは、他には何に活かせるのか考えていくのもいいかもしれんの」
 そういうことに気付きながら、僕と胡蝶さんのガネーシャの課題挑戦は続いていく。


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