服装から見る認知症
服装から見る認知症
デイサービス 生活相談員
デイサービスにも四季があり
近頃も、利用者様の衣装を見ていると、季節を感じる。
そんな光景を見ていると、ふと昔を思い出すことがある。
それは学生時代のこと。
特に高校生の頃は、私服通学に憧れたりしたもので
大学生の時、初めて私服通学になった時は、何だか少し大人になった気がした。
しかしそこで気付かされた、思いもよらぬ苦悩。
そう
毎日の私服選びが、とても面倒くさいのである。”
どんなに気に入っている服でも、やはり毎日着ていくわけにはいかないし
ましてや公共交通機関を使うこともあり、多くのにも触れる。
私服通学に憧れを抱いていたことが嘘のように
毎日悩んでいたことを覚えている。
デイサービスに勤務するようになり、統一の制服に助けられている私と
毎回違う衣装で着飾ってくる、楽しそうな利用者の皆様。
私:「毎回、デイサービスに出かける時に、着てくる服に困りませんか?」
利用者A様:「困らんよ、十年も前の服を着てくるだけだからね!」
うーん、なるほど。
それにしては、いつも見慣れない服ばかり着ている印象だが。
また別の利用者様に聞いてみる。
私:「そんなにたくさんの衣装を、どこかで買って来るのですか?」
利用者B様:「いや、十年前に買ったものばかりだよ!」
またしても10年前…よほど経済が盛んだったのかファッション業界が流行したのか。
10年前に何があったのかは定かではないが、皆様口をそろえてそう言われるのである。
そんな中
額に汗を浮かべながらジャンバーを来ている、利用者C様の姿があった。
半袖でも暑さを感じるこの時期に、だ。
その状況から推察出来ることがある。
認知症の症状の一つに該当する、ということだ。
もともと高齢になってくると、皮膚の感覚が低下し、気温調節の感覚が鈍る。
それに加え、認知症の方は季節に不適切な服装でも不自然に思わなくなることもある。
目の前の状況は、まさに上記のそれだ。
こうした考え方が出来るのも、福祉に携わってきたことの成果なのかと思うと
自分に自信が込み上げて来るのがわかる。
さて、何とかしなければと思い、声を掛けた。
私:「Cさん、ずいぶんと暖かくなってきました。服を一枚脱ぎませんか?」
利用者C様:「あぁ、気にかけてくれてありがとうね。
このジャンバーね、兄貴の形見なんだよ。
冬も終わっちゃったけどさ、もう少しだけ着たいんだよね。」
あれ?
思い描いていた展開とは、何かが違う。
これは…認知症ではなく
本人なりのこだわりによるものではないか。
こんなはずではなかった。
しかし、思い返せば“春先にジャンバーを着ている”からといって
その雰囲気だけで、季節が理解出来ていないのではないかと考えてしまったのが
失敗である。
こうなってくると、これは意思決定に関する自己実現の話になって来るのである。
私はどうやら、状況を見誤ってしまったようだ。
そして、認知症というものを、狭い視野で捉えてしまっていたように思う。
利用者C様の行動、そこには大前提に、意思というものがあるのだということも忘れて。
認知症か、こだわりか…その判断の難しさたるや。
しばし全ての思考が止まり、この世界の何もかもを信じられなくなった私だったが
何とかその場を取り繕う必要があった。
私:「Cさん!そのジャンバー、日本製ですやん!ジャパン製ですやん!
ジャンバーなだけに!!」
別に私は自分の事を面白い人間だと思っているわけではない。
ただ、こんなにも静まるものなのか。
何より、普段ダジャレなど言うことなどない私が
何故こんなダジャレを思いつき、とっさに口にしてしまったのだろう。
まさしく、後悔先に立たずの状況。
完全に空を切った、渾身の私のダジャレは
賑やかなその場を大いに凍り付かせた。
・・・・・・・・・・・・・
・・・ある意味では
室温をほんの少しだけ下げたので
まぁ、良しとした。
完
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