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道徳プラン〈夏休みの宿題〉

 今日は、「夏休みの宿題」で、失敗してしまった峯岸さんという人のお話をしたいと思います。もし自分だったらどうするだろう、なんて考えながら読んでくれるとうれしいです。

 夏休みはうれしいのですが、必ず一緒にやってくるのが、大量の宿題。ぼくはその宿題が大嫌いでした。ぼくはそれを、夏休みの終わりの頃になってから、一気にやる子どもでした。やるときには集中していっぺんにやりたいのです。毎日少しずつやるというのは、ぼくにとってはかなり難しいことでした。
 ぼくの母は、ぼくの性格をよく知っていたので、「どうせ一気にしかやれないんだったら、夏休みのはじめのうちに、一気にやればいいじゃない。はじめにやっておいた方が、後がラクだよ!」なんて教えてくれていました。でも、ぼくは、夏休みの最初に一気にやるなんて、絶対にできませんでした。やっとの思いで夏休みになったのに、宿題(勉強)をするなんて、休みになった意味がないじゃないか! そう思っていました。

 けれど、毎年、夏休みの最後には、ひどい目にあっていました。いつもそうなのですが、「どうして初めのうちにやっておかなかったのか!」と、夏休みの最後に後悔するのです。「こんなにたくさんの宿題、残り少ないあと何日かで終わらせるなんて大変だ! 夏休みが始まったばかりのころは、毎日遊んでいたじゃないか。どうしてあの時にやっておかなかったんだ!
 ああ、タイムマシンがあれば、その時に戻って宿題をやり始めたい。僕にもドラえもんがいればなぁ…!」
 しかし、そんな叶いもしない願い事ばかり考えていても、宿題はいっこうに減らないので、ぼくは毎年、泣きながら宿題をやっていました。

***

 そして、ぼくが小学校4年生の夏休みのこと。夏休みの宿題で何度も失敗してきたぼくは、今年こそ、余裕をもって宿題をやろうと心に決めていました。最初から少しずつやれば、あとであんなに苦しい思いはしなくてすむはずだ。

 さらに今年は、母が新しいアドバイスをくれました。
   「午前中の涼しいうちに1日分の宿題をやればいいのよ」

 そうか! 朝起きて、ご飯を食べて、すぐ宿題をすれば、1日楽しく遊べるんだ。ようし!今年はそれをためしてみよう。

 さて、その年に出された宿題はというと…、

① 毎日ひとこと日記を書きこむ生活表。
② 夏休みの読書3冊以上と読書感想文。
③ 絵日記を数枚かく。
④ 学校のプールに10回以上参加する。
⑤ ポスター作品1点以上。
⑥ 夏休みの自由研究(工作など)。
⑦ 毎日見開き1ページずつやっていくようにできている 「夏休みのドリル」1冊(国・算・理・社が全部入った問題集)

 どれも、簡単には終わらないものばかりです。そして、今年もやっぱり出ました、毎年必ずある「夏休みのドリル」。最後に泣きながらやるのは、いつもこれです。

 さて、ポスターや工作などは、毎日少しずつできるものではないので、いつか気が向いたときに一気にやることにしました。それ以外のものは、少しずつ、午前中にやろう!

 生活表、読書、夏休みのドリル。この3つを、毎日少しずつやることに決めたのです。

***

 ところが、決めてみると、不思議なことに気付きました。毎日やるようにできている「夏休みのドリル」。ぼくは〈やった日〉というところに、あらかじめ日付けを入れてみました。すると、なんと8月9日には全部終わってしまうではありませんか(!)。
 おかしいな?? と思って見直してみても、やっぱり8月9日で終わってしまいます。今まで、最後に一気にやっていたので気づかなかったのですが、毎日欠かさずやれば、夏休みの最初の半分ぐらいで終わらせることができるものだったのです。
 それに気づくと、ぼくは、ますますやる気がわいてきました。生活表は、その日の天気と出来事を書けばいいだけだし、読書はおもしろい本さえ見つければ、そんなに辛いものではない。感想文が書ける程度に読めばいいだろう。僕はうれしくなってきました。         

問題1 さて、この計画は何日続いたでしょう。

ア 1日しかできなかった。
イ 3日続いたが、それだけ。(三日坊主)
ウ 8月9日まで続き、無事終わった。あとは遊べた。
エ 8月9日まで続き、さらに夏休みの終わりまで別の勉強も続いた。
オ その他(                    )


 1日目。さっそく朝起きて、ご飯を食べ終わると、すぐに机に向かいました。すると、母は僕を誉めました。「今年はエライじゃない!」 …誉められると、ますますやる気になります。
 そして、あっという間に、今日の分の宿題が終わりました。時間でいえば30分もかからないうちに!
 「これはすごいぞっ!」と思いました。こんなに簡単なことを続けるだけで、夏休みの宿題のほとんどが、夏休みの半分で終わってしまうなんて! どうして今まで、こんなにすばらしい方法があることに気づかなかったのか。どうして誰も教えてくれなかったのか。(よく考えてみると、先生も母も、毎日やれば楽だよと教えてくれていましたが)
 「明日の分も、今日やってしまおうか…」と思いましたが、やめておきました。「もし明日の分もやって、疲れてしまったらダメだ。次の日にやりたくなくなるというのが、一番よくないだろう。毎日、ラクに、というのを続けよう」 そう思いました。

***

 次の日。ぼくは朝寝坊しました。そして、運悪く、その日は午前中に学校のプールがあったので、午前中には宿題ができませんでした。
 でも、「今日の分は午後にできるから大丈夫だ」と思いました。ぼくには自信がありました。なんといっても、今日の1日分は30分もかからないうちに終わらせることができるのです。そんなのは、プールから帰って、お昼を食べて、すぐやればいい。

***

 プールが終わり、お昼を食べると、眠くなってきます。宿題はあとまわし。なんといっても、計画では「涼しいうちの午前中にやるからこそ、あっという間に終わる」というものです。午後の暑い中でやるのは時間を無駄にするだろう。そう思って、クーラーのきいた涼しい部屋で(!)昼寝をしました。

***

 その夜、ぼくはとうとう、その日の宿題をしませんでした。だって、夏休みのはじめには、おもしろいテレビ番組が集中します。これは、はじめにしか見られないものだ。そう考えて、ぼくはテレビを見ることを優先し、宿題をやりませんでした。
 でも、ぼくには自信がありました。今日の分は、明日の午前中にやろう。のってるときに、一気にやれば、1時間もしないで終わらせられる。もし、今日みたいに忙しくて、明日2日分できなくても、8月10日には終わるじゃないか。10日に終わったとしたって、まだまだ半分以上、自由にできる夏休みがたっぷりと残ることになる。ぼくは安心しました。

***

 そうして、次の日も、そのまた次の日も、僕は何かと言い訳を作っては、宿題をやらない日が続きました。計画通り(?)にいったのは1日だけ。三日坊主にすらならなかったのです。

(問題1の答えはア)


 ようやく焦り始めたのは、8月9日をむかえた日でした。今日からやり始めないと、本当に1日に2日分やらなければならないことになる。
 ぼくは気合いを入れて、ドリルのページを開きました。今日やるページの日付けの欄には、ぼくの字で「7/26」と書いてありました。
 それを見て、焦りによって生まれたせっかくのやる気が、一気になくなりました。
 そして、後悔が始まります。ああ、何で7月26日に、このページを開かなかったのだろう。開きさえすれば、あっという間に終わっていたはずだ。何をやっていたんだ、その時のぼくは! ああ、夏休みのはじめに戻りたい。タイムマシンがあればなぁ…。
 でも、そういう後悔をしても、時間は戻らないので、いやいやながら、ぼくはドリルを始めました。

問題2 さて、ドリルはその後、どうなったでしょう?

ア その日から毎日やって、無事終わらせた。
イ その日から一気にやり、残りはラクに過ごせた。
ウ ドリルを後回しにし、やらないで過ごした。
エ その他(                    )


 しかし、その日のドリルは、1日にやらなければならない半分ぐらいで、疲れてしまい、やめてしまいました。…だめだ、こういうのは少しずつなんてできない。1日分って、けっこうあるじゃないか。しかも、こんな辛いことを、残り半分しかない夏休みに、毎日やらなければならないなんて、辛すぎる…。
 そして、ぼくはまた、ドリルを開かなくなってしまったのです。それよりも先に、ポスターや工作をやろうと思いました。気が向いたとき、そういう宿題は楽しくできるのです。ぼくは、それらを何日かかけて仕上げ、できたことで一安心して、残りの夏休みを満喫しました。

 (問題2の答えはウ)


 夏休みも残り3日とせまった日。いよいよ、ドリルをやらなければならない時がきました。あらためてドリル開いてみると、すごい量のページ数と問題数。それもそのはず、毎日やっても夏休みの半分は使わないとできない量なのですから。さすがのぼくも、焦りはピークに達し、とりあえず、やりやすいところから進めていきました。得意な理科、社会、国語…といった順番に、どんどん進めていきます。そして、最後に大量に残るページが算数なのでした。これは毎年のことです。

 そして、去年と同じように今年も後悔します。「こんなにたくさんの宿題、残り少ないあと何日かで終わらせるなんて大変だ! 夏休みが始まったばかりのころは、毎日遊んでいたじゃないか。どうしてあの時にやっておかなかったんだ!ああ、タイムマシンがあれば、その時に戻って宿題をやり始めたい。僕にもドラえもんがいればなぁ…!」

***

 夏休み最後の夜。今年もぼくは泣きながら算数の問題をやっていました。ああ、あと何時間もないのに、こんなに問題が残ってる…。どうしよう、どうしよう、どうしよう…。あせればあせるほど、問題は手につきません。それでも、泣きながら歯を食いしばってやり続けました。 
 そうして、いよいよあと1ページで終わる!というところまでたどりついた時には、すでに夜の10時になっていました。いつも9時半には寝ていたぼくにとって、夜10時はもはや起きていられない時間でした。
 しかも、やりやすいページからどんどんやってきたので、最後に残ったページはとんでもないページでした。見開き全部が計算問題。しかも、答えがピッタリにならない「余りのあるわり算」。問題数もすごい量で、とてもあと何時間で終わるものではありませんでした。

問題3 ぼくは、この残ったドリルを、どうしたでしょう。

ア できるところまでやって、出した。
イ やらないで持っていき、先生に謝って出した。
ウ そのページだけのりで貼り付けて出した。
エ 出さなかった。
オ その他(                    )

 


 そこで、しかたなく、ぼくは、その計算問題が大量にあるページだけ、のりで貼り付けてしまおうと思いました。こんなにたくさんページがあるのだから、先生だってパラパラとしか見ないだろう。1ページぐらい貼り付いていたって、気づかないはずだ。
 ぼくは、こっそり台所に忍び込み、ご飯ジャーをのぞきました。残りのご飯の何つぶかを手に取ると、また戻ります。
 …なぜかって? 普通ののりで貼って、もしもばれてしまったら、確実に先生に叱られるじゃないですか。だからぼくは考えました。ご飯つぶでページを貼り付けるという方法を。
 最悪、もしばれてしまっても、「あ…!ご飯食べるテーブルでやってたからだなぁ。ご飯つぶで貼り付いていたなんて、気がつきませんでした。先生すみません…。やってきます」と言い、叱られることなく、宿題の締め切りを延ばすことができるじゃないですか。そして、うまくばれなければ、このページをやらなくてすむかもしれないのです。我ながら名案だと思いました。

  (問題3の答えはウ)

 次の日、ぼくはドキドキしながらドリルを出しました。いつ返してくれるのかな…?ばれちゃうかな…?ばれないですむかな…?
 しかし、出してからというもの、何日も何日も、そのドリルは返って来ませんでした。すぐに返ってこないと、不安になります。…きちんと見ているのかな? ばれたらどうしよう…。ぼくは不安で不安で仕方がない日々を過ごしました。

 何週間かして、ドリルはぼくの元に返されました。ドキドキしながら中を見てみます。すべてのページに「見ました」のハンコがおされているではありませんか! まずいなぁ…と、おそるおそる、ご飯つぶで貼り付けたページを見てみました。

 するとなんと、ご飯つぶで貼り付けたページは無惨にもはがされ(!)、計算問題がぎっしりと並ぶ、全く手を付けていないページがあらわになっていたのです。そこには先生からの「見ました」のハンコも押されていませんでした。コメントも、なんにも書いてありませんでした。固くなったご飯つぶが何個か、むなしく残っていました。
 そして、最後に書いてあった先生からのコメントにも、そのページことについては、何も書かれていませんでした。

 …しかし、先生にばれてしまったことは確実だと思いました。しっかり貼ったはずのページが、こんなにもきれいにはがされているなんて…!

 ぼくは悩みました。先生に謝りにいくべきか。でも、先生から何も言われていないのに、自分から持っていって、「先生~、これは、ご飯を食べるところでやっていたから、ご飯つぶがついちゃって、それで…」といいわけを始めるのは、かなりあやしいです。
 とはいえ、そのことについていいわけをしないにしても、ここまでハッキリとやっていないページがあるのに、問題をやって再提出しないというのも、いけないような気がしてきました。

問題4 このあと、ぼくはどうしたでしょう。

ア そのページをやって、いいわけをして、出した。
イ そのページをやって、何も言わずに、出した。
ウ やる前に、いいわけをしに行った。
エ 行かなかったし、何もしなかった。
オ その他(                    )


※このお話は,『マネしたくなる学級担任の定番メニュー』に掲載されています。

※お話の続きは,以下からお楽しみください。すぐに使える授業プランの形のPDFをダウンロードできます。
※夏休みの前に授業してあげると,夏休み明けに「先生のおかげで,ちゃんと宿題できたよ~」と言ってもらえます(笑)
※また,授業した後に子どもたちに伝える「その後のお話」も紹介しています。

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