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医ケア児のママ、ナースになる。さて、夢が叶ったのは何人?

小児在宅医療、キッズケアについての話をするときに、
必ずと言っていいくらい、紹介するキッズとママがいる。

しーちゃん、と、しょうこさん。

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オレンジが関わっているキッズたち、
オレンジキッズケアラボに通っているキッズたち、
のママは70%以上が働いている。

だから、
働いている方が、あたりまえ。

働いていない方が、マイノリティ。
「働かないの?」なんて、気軽に聞かれる。

もちろん、働かなくてもいいんだけど、選択肢があるってことが大事。


働かないの?と聞かれた、しーちゃんのママ、

しょうこさんは

「看護師、になりたい」と言った。

それは、それは素敵なことだなぁ。と
みんなが思った。
NICUの時も、地域に帰ってからも、自分を支えてくれた看護師。
そんな風に、次は、支える側になりたいって。
それは素敵だ、と。

それは、それは困難なことだなぁ。と
誰もが思うかもしれない。
専門学校に入ったとしても3年間、学校に行っている間、
誰がしーちゃんをみるのだ、と。
体調を崩したら看護学校休んで、結局全うできないんじゃないかって。
そんなの不可能だ、と。

素敵だ、という人が周りにたくさんいるか、
困難だ、という人が周りにたくさんいるか、
これがかなり運命を変える。

素敵だ、という人はもう一つ思っていることがある。
しーちゃんが生まれてきてよかったなぁ、
しーちゃん、大活躍だなぁ、ってこと。

困難だ、という人はもう一つ思っていることがある。
しーちゃんが生まれて大変だなぁ、ってこと。

福井には、他の地域と比べて
医療サービスが揃っているわけではない
医療ケアへの理解が進んでいるわけでもない
福祉サービスが整っているわけでもない。
でも、こんな時、素敵だ。と思える習慣がある。

いいね!いいね!とみんなで応援したし、

しょうこさんは看護学校にスパッと受かった。

入学式には、しーちゃんが、オレンジのナース・タニグチと一緒に
保護者席、に参列した。

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この辺から、
ケアする人、と、ケアされる人、の境界が曖昧になってきたぞ。

入学後しばらくして、しーちゃんは体調を崩し、入院した。
その日、検診などあったしょうこさんは、学校を休むわけにはいかなかった。
病院に付き添えるのは「家族だけ」のルール。
しーちゃんは、ママ・しょうこさんとの二人暮らし。

どうする。

僕はタニグチに「あなたは、しーちゃんの身内、身内、そう、伯母です。」
「しーちゃんの伯母です!ドーーン」
と催眠術をかけて、入院に付き添ってもらうことにした。身内だから。

察してか天然か、病院のナースも受け入れてくれ、ことなきを得た。

しょうこさんは
オレンジの皆さんに迷惑をかけてしまう。
と申し訳なさそうに言った。

僕は、あまり厳しい言葉を患者さんには使わないが、
この時は、「辛いならやめてもいいよ」とか「無理はしないでおきましょう」なんて言わなかった。
オレンジに迷惑をかける、と夢を諦めるのではなく、
オレンジ含めたみんなにいっぱい頼って、夢を叶えて、
持ちつ持たれつを実践していきましょう!と叱咤した。シッタシタ。

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しーちゃんは、自分がぼやぼや体調を崩していたら、
ママの夢の邪魔になってしまう、と察した、の、だと思う。
ひょっとしたら、タニグチが催眠術にかけられる方を心配したのかもしれない。
しーちゃんは気が利く子だから。
その日から、しーちゃんは、入院するのをやめた。
それまでは時々入院していたが、本当にしなくなったのだ。
入院かも?という時も1度あったが、僕ら在宅チームが家で入院と同様の治療を行うことで乗りきった。

どんどん、自信がついて行った。

地域の保育園と、
オレンジのケアチームが連携して、
本来よりも長い時間の保育を実現し、支えた。

それでも、
試験の追い込みや、レポートの提出期限。
看護学生には、徹夜やむなしの日がある。
でも、その日だって、しーちゃんのケアもある。

しーちゃんは、心配性なところもあるので
ママが辛そうに頑張ってるのに気づくと、
どうしよう?なんとかしなきゃ?と力が入ってしまう。
そうすると、しーちゃん自身も眠れなくなって、ママに迷惑をかけちゃう。
美しい、親子の思いやりが故の、お互いのしんどさだ。

急に使えるショートステイはない。
夜中ずっとサポートする仕組みもない。

タニグチは言った。この時は催眠術はかけてない。
「ねぇしーちゃん、タニグチさん家、泊まりに来る?」

しーちゃんをタニグチの自宅に泊めることになった。
いや
しーちゃんは、タニグチの自宅に泊まることになった。
大好きなおばちゃんと、おじさん、お兄ちゃんと楽しく過ごしたそうだ。

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その後も、
タニグチの自宅に3回
他のスタッフと一緒にお泊まり会を開くこと2回
軽井沢キッズケアラボに一人旅に出ること数日
誰も歯をくいしばるでもなく、それぞれが程よく満足できるくらい頑張りながら乗り越えてきた。

「私たちの都合のために、子どもに我慢させられない」とショートステイを拒む両親もいるという。
我慢じゃなくて、もっとたくさんの経験と、成長の機会をお互い様。って思えれば、頑張れることもある。思いきれることもある。そんな気がする。

もっと頼り合えばいい。医療的ケア児だから、ケアされる側だけに立たせなくていい。子どもに頼っちゃえばいいんだ。

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この辺を講演で話すと、
「素晴らしい取り組みだと思います。しかし先生は、もししーちゃんのような子が地域にあと2人とか3人とかいても、同じサポートができるのですか?」
なんて質問を受けることがある。何度もされた。

答えは決まってる。

「そんなん知るか」

正確には、講演会なので
「そんなことは出会ってみないとわかりません」と丁寧にいうけど。

しーちゃんと出会って、しょうこさんと出会って
心が動いて、みんなでいっぱい考えて、動いてきた。
失敗もあったし、悔しいこともあった。
ムカついたことだって、正直ある。

しーちゃんのことが大好きだ。
しーちゃんがあと2人や3人なんて、いるはずない。

医療者としてどうなのか、と言われるかもしれないけど
しーちゃんが、なんだかいけ好かないヤツだったらここまで考えなかったかもしれない。

でも、医療者だけど、脳性麻痺女児。とひとくくりにせずに
しーちゃん、と関わっている。
そして、介護者、ではなく、しょうこさん、と関わっている。

もっと言えば、
そこは、しーちゃんの頑張りだ、と思っている。

しーちゃんは、ママが学校に行くこと、看護師になることを応援している。
その気持ちや表情や行動は、周りの人も巻き込んで行く。
だって、しーちゃんは、保護者、なんだから。

ケアする側、とケアされる側、はいつだって流動的で
はっきりした役割分担なんてない。
ケアしながらケアされ、ケアされることが相手のケアになっていることだって多い。

僕だって、明日、医療ケア児の父になるかもしれない。
自分自身が医療ケア者に、近い将来なるかもしれない。
交通事故や急な病気、きっかけはいくらでもある。
医療ケア児を身内に持った人は、医療ケア者になった人は、夢をあきらめねばならない。幸せを諦めねばならない。
そんな地域は嫌だ。

僕自身が住んでいる福井市が、そんなところだったら嫌なのだ。
医療ケア者になるよりも、医療ケア者になったら夢を諦めねばならない社会に住んでる方がいやだ。
だから、本当は、自分自身のために、動いているだけなのかもしれない。


今日、しょうこさんからメールがきた。

「国家試験合格しました😭」

他人ですよ。
患者ですらない、患者家族ですよ。
なのに、そのメールを見たとき、涙が出て
ヘナヘナって腰と膝がくだけるの。

かなったのは、僕の夢。

しーちゃんに出会えたから持った夢、かなった夢。

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人は、人の幸せで幸せになれる。
繋がろう、支えよう。
僕だって、タニグチだって。
しーちゃんだって、しょうこさんだって。
いっぱい悩んだし、しんどかったし、嫌だったし、躊躇した
でもやってみたし、動いてみたし、チャレンジしたし、やったねって思った。
繋がった。
悩みを消し、しんどさを消し、嫌さをなくす。
それだけでない、人生の歩み方があるんだと思うし、
思わせてくれるし。

しーちゃん、大好きだよ。ありがとう。

180506_しずく福井新聞

2018.5.6..福井新聞

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