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過去問 公認心理師試験第6回 午前 一般問題 問73

みなさん、こんにちは。

公認心理師受験生Kidです。

さて、掲題の通り、問73です。

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問73
45歳の男性A。公認心理師Bが勤務する精神科クリニックを受診した。Aは医師Cの診察で、「職場の上司との関係が悪化し、自尊心が低下している。上司は自分の態度が気に入らないのか、ちょっとしたミスを見つけては注意をしてくる。最近では、言い返すことにも疲れ果てた。これ以上生きていても意味が無いと思い、死ぬことばかりを考えている。先日は、踏切の前でしばらくたたずんでいた」と語った。Cは、薬物療法と並行して、認知療法に基づいた支援の導入の検討をBに依頼した。
 Bが認知療法に基づいた支援を導入する際に、考慮すべきこととして、不適切なものを1つ選べ。
① 長期的な関わりを想定する。
② 自殺について話し合うことは控える。
③ 良好な面接関係の構築を前提とする。
④ Aを支える周囲の人の援助を得られるように促す。
⑤ Cによる薬物療法と並行して、なるべく早く導入する。

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正解、 ②です。

認知療法とは、認知の歪みに焦点を当て修正をしていくことで、そこに起因する症状などを軽減していく短期精神療法のひとつです。

ベックによって始められた治療法で、患者の偏った物事の捉え方(認知)を修正させ、より柔軟的で現実的な考え方や行動ができるように手助けする療法です。

うつ病などの患者は、自分や周囲、将来に対して否定的・悲観的に考えてしまうなどの考え方の癖が心に悪影響を及ぼすため、それらの考え方を軌道修正させることで症状の改善を図ります。

初期から中期のうつ病の治療に効果的だと言われていますが、恐怖症性不安障害や人格障害などにも用いられています。

患者と治療者の共同作業で行われ、患者の見方、物事の認知の仕方が本当に正しいのか検証していきます。

他の考え方ができないか一緒に考え、治療者は患者の悲観的、非現実的な見方を修正する手助けを行います。

以上からもわかる通り、認知療法の本質はクライエントの認知の歪みの是正にあります。

その是正の直接的な治療対象は「否定的自動思考」であり、上記のように当人の思考に熟慮なく入り込んでくる習慣的な思考です。

この存在によって、知らぬ間に否定的感情をもたらされ、うつ気分を生じさせると説明されています。

そのため、認知療法は主にうつ病に有効であると一般には確かめられていますが、他にもパニック障害や不安障害、統合失調症といった対象にも有効性が認められています。

そして、スキーマ、仮説、信念などと呼ばれている上位の概念が否定的自動思考の背景にあり、これらは幼児期から次第に形成されるとされ、これらの歪みも認知療法の重要な治療・予防の対象とされています。

認知では「スキーマ(深層にある信念や態度などの認知構造)→(推論の誤り)→自動思考」があり、推論の誤りは以下のものが示されています。

恣意的推論:証拠もないのにネガティブに
選択的注目:明らかなものには目もくれず、些細なネガティブに
過度の一般化:坊主憎けりゃ袈裟まで
拡大解釈と過小評価:失敗を人格全体に、成功を小さなものと思う
個人化・自己関係づけ:関係ないものを自分に関係すると思う
完全主義・二分的思考:白黒つけたい
こうした推論の誤りに対して、認知を同定・検証・修正するといった関わりや、ホームワークとして非機能的思考記録を取ってもらうなどの方法を採ることが多いです。

上記の説明でまず引っかかるとしたら「短期精神療法のひとつ」という箇所でしょう。

こちらの説明は選択肢①の「長期的な関わりを想定する」と矛盾する内容に思えますから、選択肢①が不適切な内容ではないかと思ってしまいそうです。

確かに認知療法(認知行動療法も)は短期集中型であると言われており、短ければ数ヶ月・数セッションで終わることもあります。

しかし、やはりもちろん問題の所在や病歴の長さとも関連するので、全ての事例が短期で終わると言えるわけではなく、本事例についても「これ以上生きていても意味が無いと思い、死ぬことばかりを考えている。先日は、踏切の前でしばらくたたずんでいた」と死に関わる具体的な行動を述べています。

認知療法的に言えば、こうした「死を具体的に考えるほどの状態」に至る背景に、スキーマ・信念などと呼ばれている上位概念の歪みが幼児期から形成されていることが影響しているならば、やはり治療にはそれなりの時間を要すると考えるのが妥当でしょう。。。ですから、本事例の状況で選択肢①のように「長期的な関わりを想定する」のは、認知療法を基準にしたとしても自然な見立てであり、特に支援計画として問題のあるものではないと言えるでしょう。

さて、続いて選択肢②の「自殺について話し合うことは控える」ですが、これは明らかにおかしいことがわかります。

まず、どのような立場の心理療法であっても、希死念慮の存在が示されたのであれば、それと「どう関わるか」が重要であって、「話し合うことを控える」というのは不適切な対応となります。

もちろん、「あえて触れない」というアプローチがあるのは承知していますが、希死念慮が語られているにも関わらず「触れない」のは、優しさとして伝わるよりクライエントに孤立を感じさせる恐れがありますし、支援者として「死に触れること」に怖さを抱いているように伝わる可能性もあります(そして、クライエントによっては、この種の「触れてもらえなさ」に虚しさを感じていることも忘れてはいけない)。

そして、本問で指定されている認知療法の文脈で述べるならば、患者の偏った物事の捉え方(認知)を修正させ、より柔軟的で現実的な考え方や行動ができるように手助けする療法ということになりますから、事例で「これ以上生きていても意味が無いと思い、死ぬことばかりを考えている。先日は、踏切の前でしばらくたたずんでいた」という状態にまつわる物事の捉え方などを細やかに話し合うことが重要になってきます。

ですから、「自殺について話し合うことは控える」というアプローチは、希死念慮を語られたときの対応としても疑問がありますし、認知療法の枠組みの視点から言えば明らかに不適切な対応と言えるでしょう。

最後に選択肢⑤の「Cによる薬物療法と並行して、なるべく早く導入する」ですが、こちらは認知療法や認知行動療法と薬物療法の併用が、より治療効果を高めるというエビデンスに基づいたものになります。

また、希死念慮を抱いているCに対しては、「なるべく早く導入する」ということが重要になってきます。

希死念慮が強いと、どうしても否定的な思考に巻き込まれ、それ以外の選択肢が浮かばなくなるという状態になりやすいので、できる限り早い段階で「認知を話し合う」という、一種の外在化を行い、否定的な思考から認知的距離を取らせることが重要になってきます。

ですから、「Cによる薬物療法と並行して、なるべく早く導入する」というのは大切な方針と言えますね(なるべく早く導入する、という焦る感じに引っかかる人がいるかもしれませんが、本事例の状況であれば「なるべく早く導入する」と考えるのは自然です)。

以上より、選択肢①および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

そして、選択肢②が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

選択肢③ や選択肢④ についてです。

これらの選択肢については、認知療法を含め、多くの心理療法に共通する支援にあたってのグランドセオリーのようなものになります。

認知療法の治療の流れは、①クライエントを一人の人間として理解し、クライエントが直面している問題点を洗い出して治療方針を立てる、②自動思考に焦点をあて認知の歪みを修正する、③より心の奥底にあるスキーマに焦点を当てる、④治療終結、となります。

こうした作業を細やかにやっていくためにも、認知療法ではとくに、クライエントを暖かく受け入れると同時に、クライエントの考えや思いこみをカウンセラーとクライエントが一緒になって「科学者」のように検証していく協同的経験主義(collaborative empiricism)と呼ばれる関係の重要性が強調されます。

そのときにカウンセラーは、クライエントの主体性を尊重し、クライエントが自分の意見を表現しやすい雰囲気を作り出しながら、クライエントが自分で答えを見つけだしていけるような「ソクラテス的問答」と呼ばれる関わり方をすることが大切です。

ですから、選択肢③の「良好な面接関係の構築を前提とする」というのは、多くの心理療法で共通すると同時に、認知療法においては欠かせない前提であると言えますね。

続いて、選択肢④についてですが、厚生労働省の「うつ病の認知療法・認知行動療法」によると、うつ状態のときの行動の例として以下が示されています。

活動量が減る
→ 楽しいことや、達成感が得られず、元気のもとがなくなってしまう
→「何もできていない」と自分を責めてしまう
ぐずぐず主義
・先延ばし
・問題を避けて他のことにふける(酒、インターネット..)
 →やらなくてはいけないことがたまってしまう。
周りにうまく助けを求められない
一方、気分がいいときには、思考、気分、行動はいいサイクルで回っていることが多いものなので、認知療法・認知行動療法では、思考(認知)や行動に働きかけることによって、気分が向上することを目指していきます。

本事例を見てみると、「上司は自分のことが嫌いなんだ」「言い返してもムダだ」「自分は意味のない人間で、生きていてもムダだ」などのように不穏な出来事から否定的な思考が多く出現しており、その内容が対人関係に基づいたもの(他者に関する否定的自動思考)になっていることがわかります。

こうした状況だからこそ、本事例では認知療法を通して「Aを支える周囲の人の援助を得られるように促す」ことが重要になってきます。

多くの人に支えられるような関係になることで、他者に対する否定的自動思考が生じたとしても「その自動思考と反する現実」を送り続けられるという状況を狙うことができます(「周囲は自分を嫌いだ」という思考が出てきても、それと反する現実(Aを支援する人の言動)があることで、その自動思考にストップをかけやすくする)。

Aの否定的自動思考がひどくならないためにも、支えてくれる人たちとの交流が生じるよう促していくことが重要であると言えますね。

以上より、選択肢③および選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

引用URL:https://public-psychologist.systems/18-心理に関する支援(相談、助言、指導その他の/公認心理師%E3%80%802023-73/

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