過去問 公認心理師試験第6回 午前 一般問題 問87
みなさん、こんにちは。
公認心理師受験生Kidです。
さて、掲題の通り、問87です。
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問87
個人特有の認知的な枠組みに従い、環境の解釈と事象の予測を行い、自らの行動や環境を統制すると仮定している理論として、最も適切なものを1つ選べ。
① 相互決定論
② 暗黙の人格理論
③ 社会的情報処理理論
④ 心理性的発達段階理論
⑤ パーソナル・コンストラクト理論
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正解、 ⑤です。
⑤ パーソナル・コンストラクト理論
Kellyは物理学と数学の学士を取得後、教育社会学の修士課程を修了、その後心理学への系統を深めました。
学生の頃に、当時隆盛だったS-R理論の考え方に疑問を抱き、環境刺激による一般的な行動の変化よりも、体験の捉え方の個人差や、人それぞれの行為そのもの、あるいは行為を行った理由を説明することが重要であると考えるようになりました。
パーソナル・コントラスト理論は、ケリー自身の豊富な臨床体験の中から、こうした発想をもとに独自の概念を用いて構築された理論です。
ケリーは、我々の住む世界の実在性、継時性、完全性を仮定した上で、基盤となる哲学的な前提としてコンストラクティブ・オルタナティビズム(constructive alternativism)と呼ばれる概念を設定しました。
これは、我々を取り囲む現実が「そのままの形で受け取られるばかりではなく、人々が考え付く限りの様々な解釈に従うもの」(Adams-Webber,1979)であること、つまり、同じ現実であってもその解釈は人によって異なることを強調した考え方です。
さらにケリーは、人間は誰もが自分を取り巻く環境を解釈し、予測し、統制しようと試みているとし、その意味で「人間はすべて科学者である」と指摘しました。
彼はこうした人間観をもとに、基本公理とその詳細を規定する11の系から成る「パーソナル・コントラスト理論」を打ち立てました。
基本公理では「人間の処理過程は事象を予測するやり方によって心理学的に規定される」とする考え方が示されています。
そして11の系は以下のようなものが挙げられています。
構成の命題: 個人は、物事の複製を構成することで物事を予測している。
個性の命題: 物事の構成の仕方は個々人によって異なる。
組織の命題: 個々人は、物事をうまく予測するために構成システムを個性的に進化させる。構成システムにはコンストラクト同士の階層関係がある。
二項対立の命題: 個人の構成システムは、有限数の、二項対立するコンストラクトからなる。
選択の命題:人間は、二分したコンストラクトのうち、どちらか一方をみずから選び取る。構成システムの明確化と拡大について、より大きな可能性を予測させる方である。
適応範囲の命題: あるコンストラクトは、もっぱら限られた範囲の物事を予測することに役立つ。
経験の命題: 個人の構成システムは、物事の複製を構成し続けるなかで変化する。
調整の命題: 個人の構成システムは、コンストラクトの浸透性(可変性)の制限を受け、その適用範囲内で変化することができる。
断片化の命題: 個人は、論理的に矛盾するものであっても、さまざまな構成のサブシステムを相次いで適用することができる。
共通性の命題: 経験の構成の仕方が他者と類似している場合、その程度に応じて、その他者に類似した心理的な変化が生じる。
社会性の命題:他者の構成の変化を構成する場合、その程度に応じて、その他者を含む社会的状況のなかで、ある役割を演じることができる。
この理論によると、事象の予測には「コンストラクト」が用いられるのですが、これは「現実を眺める透明なパターンあるいはメガネのようなもの」であり、構成体と訳されることもあります(上記の個性の命題になりうります)。
コンストラクトは、具体的には3人の人物のうち2人は似ているが、1人は異なる点として抽出される認知的枠組みであり、「あかるい‐くらい」「うるさい‐しずか」「おいしい‐まずい」「よい‐わるい」などの形容詞的性格をもつ一対の対立概念として表現されます(上記の二項対立の命題を指します)。
そして、コンストラクト・システムでは、まず感覚器から原始的な情報を得ることに始まり、得られた情報はコンストラクトシステム上で意味のある情報に加工されることにより下位のコンストラクトから上位のコンストラクトになっていくとされています。
ケリーの考えに従えば、人が保有するコンストラクトの構造や内容を知ることが、その人のパーソナリティを理解することになるわけです。
なお、この理論において、「脅威」とは中核となるコントラクトがまだ十分できあがっていないときに切迫した包括的変化を自覚することであり、「不安」とは重要な出来事が自己のコントラクトシステムでは手の届かないところにあると自覚することです。
また、「罪の意識」とは自分が演じるべき中核的役割をなし遂げることができなかったという自覚であり、「敵意」は自分の社会的予測がすでに外れてしまったにも関わらず、それが妥当である証拠をつきつけようとする試みであるとされます。
このように、パーソナル・コンストラクト理論では、感情をコンストラクトと絡めつつ上記のように意味づけているわけです。
ここまでをざっくりとまとめると以下のようになると言えます。
客観的には同一の環境であっても、認知の仕方(解釈)は個人によって異なる。
その違いを生んでいるのは、個人のもつ認知的枠組みであるコンストラクトの違いである。
このコンストラクトの構造や内容を理解することが、パーソナリティの理解に他ならない。
ケリーはこうした解釈の差異を生み出す認知的枠組みの体系を「パーソナル・コンストラクト・システム」と呼び、これをパーソナリティと見なしました。
これらをまとめると、ケリーは人間はさまざまな事象を経験し、事象間の類似性や差異を認知し、現象についての概念あるいは構成概念を形成し、これらの構成概念に基づいて事象を予測しようとすると考えたわけです。
しかし、個人は固有の構成概念をもつという点で独自性をもっており、これを「コンストラクト」という表現で示したわけですね(コンストラクトというフィルターを通して、人間は環境の解釈と事象の予測を行っているということ)。
本問の「個人特有の認知的な枠組みに従い、環境の解釈と事象の予測を行い、自らの行動や環境を統制すると仮定している理論」という表現は、こうしたケリーの理論を説明したものになっています。
以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。
引用URL:https://public-psychologist.systems/05-感情及び人格/公認心理師%E3%80%802023-87/
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