飛べ!
ある夏の日、私は大切な人を亡くした。
人生の先輩であり戦友だった彼女は、長く闘病をしていたけれど会うと笑顔で迎えてくれて、時には喧嘩もして。
少しずつ弱っていて、もう命の時間も長くはないと理解はしていたつもり。彼女がいなくなっても日々は続いていて、私はためらいもなく過ごしていた。
だって、いなくなったことはわかっていたから。
でも、時折彼女を思い出して、心がきゅーっと締め付けられるような思いに駆られることがあった。
「私はあなたの思いをきちんと応援できていた?」
季節が移っていくなかでそんな思いがどんどん膨らんで、電車の中で涙が止まらなかった。
彼女の抜けた穴の大きさは、わかってたはずなのに、どうして泣いてしまうのか自分でもわからなかった。
あぁこれはダメだ。自分ひとりじゃ。
ふと、たま子さんの顔が思い浮かんだ。
たま子さんとは大阪で1日一緒に仕事をし、その後の食事会で色々話して、顧客第一のあり方や仕事の向き合い方についての考え方が似ていることがわかって随分話が盛り上がった。
熊本のたま子さんに会いに行こう。今のモヤモヤした気持ちが整理できるかもしれない。
いてもたってもいられず、すぐたま子さんに連絡をし、熊本城近くのホテルを予約。ラグビーワールドカップ フランス対トンガ戦が数日後に控えていた熊本では、初めて熊本に降り立った私にラグビーシャツを着たくまモンが出迎えてくれた。
「よくホテル取れたねえ。ワールドカップだから空いてなかったでしょう」
そんなことを言いながらニコニコと出迎えてくれたたま子さんの車に乗って阿蘇へ案内してもらいながら、夏のできごと、それからのことを少しずつ少しずつ話していった
たま子さんの人柄と、阿蘇の大自然で私の凝り固まった心がほぐれて、色んな思いが流れていくような気がした。
「大丈夫だよ」とたま子さんはそっと背中を押してくれて私は一歩を踏み出した。
そう「弥立つ」のだ!
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