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THE MATCH2022観戦とこれからの格闘技界

もう2カ月近くたって投稿することに怠惰が目立つのですが

こうやって文字に起こさないと勿体ないというか、
凄いモノを見た。というだけでは許されないというか。
間違いなくこれまでの人生で1番「凄い」と思った興行でした。

勝手な使命感に駆られ、勢いで筆を進めています。

普段は広告関係の会社に勤め営業の仕事をしています。
ごく普通の会社員です。
武尊選手のファンです。

格闘技にどっぷり浸かるようになってまだ4年足らず。
所謂古参の方々と比べてもひよっこ同然です。
ヨカタレベルで俄かだなぁとも自分でも思いますし
テクニックだとか技術だとかは分からないことだらけだし、勉強中であることは間違いありません。
ここまで夢中になるとも思ってもいませんでしたが。

ただ6/19の事は、技術云々ではないものを感じました。
但し、これを書くなら沢山の歴史や背景を知る必要があります。

ただの備忘録というか自己満足の世界であり
別に誰に見せるものでもないので
個人の趣味程度ということで、筆を進めます。


主観的な目線も入れつつ、
個人的に私から見てどう感じているのか?
を記していこうと思います。

色々整理する為にも
順を追って書いていきます。

現在のキックボクシング界の構造、
武尊選手と天心選手の関係、
格闘技界のいざこざまで
長くなりますが、0から書き進めて行こうと思います。



日本キック界最大手・"鎖国国家"K-1

まごうこと無き日本キック界の最右翼がK-1です。

石井館長が1993年に立ち上げ、
第一次格闘技ブームを巻き起こした旧K-1。
重量級の大きい男たちが殴り合い、見る者すべてを虜にする
超ド迫力のファイト。
間違いなく格闘技の中心は日本にありました。

そんなK-1でも時代の終わりがきます。

2002年に創始者である石井館長が脱税事件により逮捕。
その後を継ぐ谷川プロデューサーが、曙vsボブサップなどが代表とされる色物カードを多投。従来からの純粋な格闘技ファンが離れていき、ついには経営不振・度重なるファイトマネー未払いによりK-1が消滅。
それが2012年です。盛者必衰です。

一度は消滅したK-1でしたが、やはり時代を創った団体。
2014年に"新生K-1"として旗揚げ。
「100年続くK-1」をスローガンとして経営。

新生K-1は旧体制の中量級~重量級の試合のみ、
のスタイルとはとは全く異なり、軽量級~重量級・女子枠も設け
全国各地にK-1ジムを設立。若手が育ち、K-1甲子園⇒Krush⇒K-1と
ピラミッド型のビジネスモデルを構築し
K-1内で箱庭を作り、規模を広げる。
そしてK-1内で1番を決める。そんなモデル
です。個人的にはすごく見やすいですけどね。

K-1のオーナーである矢吹氏曰く、
「旧K-1と戦うつもりはない。地上波で戦う気もない」
サイバーエージェント社長との対談で仰られていましたが、
ほんと良く出来てるシステムです。

だからこそ、
天心選手との一戦は遠のいてしまったのですが。


新生K-1は独占契約です。簡単に言えばリーグ制です。
K-1に所属していたら他の団体(RIZIN・RISE)には出場できません。
試合をするたびに契約が延長されます。
選手としては安定してK-1で試合ができる為、
選手ファーストではありますが、
鎖国国家と揶揄されることも多かったです。

K-1の中で勝ち負けを競い、K-1という独立した競技で戦う。
勝っても負けてもストーリーを創れる環境なのでドラマが生まれやすい構造になっています。
100年続くK-1、を体現していますね。

海外ではUFCONEも、独占契約です。
なんでK-1だけ悪く言われるんだ…となりますが、
状況が状況。そんなもん知っちゃこっちゃねぇよって感じですよね。
いいから武尊と天心の試合を組めよって。ファンからすればそうなります。
まぁ、世界基準と一緒にするなって感じかもですが、

そういった契約の縛りや互いの思想信念主義主張もあり
武尊対天心戦の実現まで7年という月日が流れた訳ですが、
その間、矢面に立ち続けたプロデューサー陣。宮田P・中村Pはほんと感謝ですね。
武尊選手と同レベルで叩かれていたと思います。

今回のTHE MATCH実現で、如何に中村Pが武尊の事を思って動いていたか、
分かりましたね。
ファンが武尊に言って欲しいことを、そのまま言っていましたね。

キック界の老舗"2番手のキック団体"RISE

那須川天心率いるRISE。
発足は2003年。丁度K-1が大ブームだった時に設立。
初代WMAFの王者である伊藤氏が代表を務めます。

実は2009年にはK-1とタッグを組んでいます。
当時は大会数の少なさを指南されていたK-1MAXだったが
RISE協力体制の下、大会数を増やした時期も。

RISEは他団体とも交流が深く,
御存知の通りRIZINにも多くの選手を送り込んだり
KNOCK OUTにも出場できたり、最近では世界最大のキックボクシング団体、GLORYと提携し、より世界基準の団体を目指していることが伺えます。

また、RISEならではの取り組みも目立ちます。
オープンフィンガーでのマッチや延長無制限ラウンドなど
独自のルールや世界観でファンを増やしています。

直近では華のある選手も増えていましたが、
会場は基本後楽園ホール。
年に2.3度キャパシティの大きな会場で行いますが、
規模・選手層共にK-1には劣ります。

しかしながら常にニュートラルな立ち位置。
他団体とも友好関係を築き、
玄人受けするであろうマッチメイク。
キック界を牽引する団体であることは間違いありません。

新生K-1とは一線を画す、まさに独立独歩の両団体。という感じですね。

選手の意向を尊重するRISE
あくまで自団体でドラマを創ろうとするK-1

武尊天心戦が実現しない間は、
ファンは上記のように両団体を見ていたのではないのでしょうか。


二代目"PRIDE" 日本格闘技の中心 RIZIN


MMA(総合格闘技)を主戦場とし
PRIDEの後進として2015年に立ち上がったRIZIN。

今回は立ち技メインなので詳細は省きますが
演出・煽りV・イベント規模。
どれをとっても「日本格闘技の震源地」です。
地上波放送もしております。

運営陣も粒ぞろい。
DREAMのプロデューサーでもあった笹原氏。
60億分の1の煽りVアーティスト、佐藤大輔氏。
(私は煽りvが無いと生きていけない体になってしまいました)
稀代のマッチメーカー、海外渉外のチャーリー柏木氏。

それらを束ねる“地獄のプロモーター”こと榊原氏。
PRIDEの代表でもありました。

RIZIはフェデレーション団体=連合・組合のようなもので
各団体の王者や人気選手が出場します。

だからこそ、武尊と天心はRIZINで戦うべきなのではないか。
との声も当初ありましたね。
天心も出場していたし、当初は武尊も出ていました。
所謂"中立のリング"でないかと。

RIZNを主宰している榊原信行CEOですが
今話題の反社会勢力との交際疑惑により、PRIDEは消滅に追い込まれました。
その7年後、RIZINが復活します。

そういったこともあって
今回の地上波消滅も余計に騒がれた。って感じです。


すべてのはじまりと火ぶたが落とされたとき。


次に、武尊と天心の歴史を振り返ります。

2014年に新生K-1が立ち上がり、
武尊はエース候補襲名に名乗りを上げます。

闘争本能剥き出しの派手なKO、端正なルックス。これまでの格闘家とは異なる新しいスタイルで頭角を現します。

2015年にはスーパー・バンタム級(-55キロ)の
初の世界タイトルも戴冠。一気に名を売りました。

時を同じくして、
15歳の高校生だった那須川天心選手。

圧倒的な実力で一気にRISEのバンタム級(-55キロ)のタイトルマッチまで進み、
村越選手にKO勝利、ベルトを巻きました。

その後、2015年8月、K-1以外の団体の選手を集め最強を決める大会、BLADEという興行にて那須川天心選手は優勝を果たします。

勝利後、マイクにて
「国内にまだあと一人、戦いたい選手がいます」
「K-1の武尊選手。かかってこいやって感じです」

と、武尊選手へ挑戦状をたたきつけました。
すべてはここから始まりました。

当時の知名度・人気は圧倒的に武尊選手優位。

武尊選手自身も
「僕の首を狙う選手の内の一人ぐらいにしか思っていません」とアンサー。

その後、2015年11月のK-1代々木大会にてタイトルマッチに挑み
見事防衛を果たした武尊選手は、
RIZINの第一回大会が大晦日に行われ、7年ぶりに大晦日に地上波ゴールデンで放送される報道を受けて
「大晦日めっちゃ暇なんで」とRIZIN出場アピールと天心選手の対戦を受けて立つ姿勢を見せました。
これにはファンも大いに沸いておりました。

マイク終了後、花道を通るときに、
あの伝説の1シーンが生まれます。

結果的にもう一度グローブタッチするまで5年もかかることに。

これですね、これ。
武尊選手が控室に帰る際に天心選手が駆け寄り
「大晦日俺とやりましょう!」と直接話しました。

ですが、大晦日のRIZINで実現されることはありませんでした。

公式の発表では
「交渉の時間が足りなかった」とのこと。

結局武尊選手は「中国の武尊」ことヤン・ミン選手と対戦。
見事KO勝利を収めました。

一方の那須川天心選手はというと、
大晦日には出場することはできませんでした。

当時の心境を
「死ぬほど悔しかった。あんな思いはしたくない」と話しております。



人気・知名度・強さ。揺れ動く主導権。


天心選手はその後、数々の団体でチャンピオンとなり、連勝街道を突き進みます。

ついには2016年のRIZINで出場を果たすんですが、
なんとMMA(総合格闘技)で出場。キックボクシングとは全く畑違いの競技。
しかも勝利をもぎ取ります。

当時は12/29・12/31の2daysで行われたRIZINですが、
「明後日(12/31)も出させてください!」と直訴。

当時の出来事を天心選手は
「世間に向けてではなく武尊選手に向けてやっていた」と。

一方のK-1はというと天心選手の出現までは
他団体とも友好的な関係でした。
しかし天心選手の度重なる武尊選手への挑戦表明、煽りを受け
武尊選手含むK-1選手は、
"フェデレーション団体"であるRIZINに出場することはありませんでした。

武尊選手はスーパー・バンタム級に続きフェザー級の王者も戴冠。
2階級制覇を成し遂げます。
絶対的なK-1のエースとして不動の地位を築いていきます。


天心選手もとんでもないスピードで成り上がっていきます。
2017年のRIZINでキックボクシングワンナイトトーナメントが開催。
見事天心選手はそこで優勝を果たし勝利者マイクにて
「みなさん、僕、誰と見たいですか?試合」
「誰と見たいですか!?」

武尊選手を連想させるマイクで会場は
「武尊~!!!」と大盛り上がり。

「是非来年中に、やりましょう!!」と締め括りました。

しかし事件が起きます。

この一連の行動が
他団体への"不当な介入"とし
武尊選手・K-1への名誉棄損・スポンサー離れが起きたとし
RIZIN・天心陣営をK-1側が訴訟を起こしたのです。

当時は大変ざわついたそう


これを受けて、天心陣営・武尊陣営はお互いの名前を出すことは勿論のこと
他団体へのアピールもできなくなり、最悪の関係に陥ります。


2018年、天心選手は武尊選手への対戦を一旦置き
MMA日本最強選手、堀口恭司選手とキックルールで戦い勝利。
(キャッチコピーはあの名作「一つの時代に二つの最強はいらない」)

更には大晦日、ボクシングphp1位(パウンド・フォー・パウンド/階級抜きで誰が1番強いか?を決める名称)
フロイド・メイウェザー選手とのエキシビションも実現。

一気に那須川天心がお茶の間にも広がり
この時点でTwitterのフォロワー数が武尊選手と逆転します。
ここで天心選手は「武尊に勝った!」と思ったみたいです。
一見フォロワーで…と思うかもしれませんが、
実現できない分、差し計る指標はフォロワー数しかありません。
確かにな。と私は思いました。

その間、天心サイドも特に動きはなく、逆に武尊サイドに対して
「やりたいって形だけで言ってるのか分かりませんが」と言い放ち、
武尊選手がTwitterで反論したり。

これを見るとほんとに武尊は有言実行したな…。

舌戦、とまでは言いませんが、この頃からお互いのSNS、マイクパフォーマンスに注目が集まっていたような気がします。

武尊選手も偉業を成し遂げます。スーパー・フェザー級の王座を戴冠し
K-1で前人未踏の3階級制覇を成し遂げます。
同時に、天心選手とは階級も離れることになります。
(天心選手は55キロ、武尊選手は60キロ)


泥沼化するキック界。両陣営が無言の圧力。


武尊選手が勝てば勝つほどに
天心戦を求めるファンの声は大きくなり、次第にそれは刃と化し、武尊選手を襲います。
度重なる誹謗中傷。
武尊は逃げている。
K-1はダサい。さっさと天心とやれ。

匿名を活かした心無い言葉が、日々何通もDMで届き、
SNSに書き込まれていました。その影響でパニック障害も患ったようです。

地上波でアピールできる天心。
Abemaでしかパフォーマンスができない武尊。
自国の箱庭で王国を築き、100年続くK-1を体現しブレないK-1。
天心を中心としてRIZINともタッグを組み、ファンの声を体現するRISE。

泥沼化する、K-1を中心とする各団体との関係。
2017~2019年は、K-1対他団体という構図は出来上がるぐらい関係性は劣悪に。他団体の選手の名前はおろか、RIZIN・RISEの名称までも言ってはいけない雰囲気に。

そんな中でも武尊選手は光を探し続けます。
心の底から格闘技界の事を考え、行動します。
誰に何と言われようと、K-1の事を悪く言う事はしませんでした。

自分が昔のK-1を見て夢を持てたように。
格闘技界を一つするために。
ファンの希望を叶えるために。

武尊選手は我慢し続けました。
勇気ある黙秘の姿勢を貫き、水面下で実現の為に動いていました。

しかし、ファンからすれば、"そんなの言ってもらわなきゃ分からない"
で一蹴されます。
誹謗中傷は止まりません。武尊選手・K-1には常に非難の嵐。
武尊の一挙手一投足に批判が付いて回るのでした。

我慢の限界に達した武尊選手は、いよいよ最終手段に。
K-1のオーナー、矢吹氏に
「天心戦が実現できなかったら格闘技ごと辞める」と伝えにいき、発言権を求めようとしました。

そのほかにも
提案資料片手にテレビ局にプレゼンしにいったり。
色んな業界の重鎮に会いに行き、実現の方法を模索したり。

とにかく天心戦が実現する為に
選手がやるべきではないことを、王者でありながら、
練習の傍ら、ずっと水面下で行動していたようです。

天心戦を実現させたい。その一心でゴールの見えない道を
ひたすらに歩み続けていました。


ついに山が動く。2020年大晦日RIZINにて。


2020年大晦日。
RIZIN.26がさいたまスーパーアリーナで開催。

朝倉未来選手の復帰戦や、朝倉海選手と堀口選手の
ダイレクトリマッチ等で大いに盛り上がりを見せていました。
もちろん那須川天心選手も出場しておりました。

天心選手の試合間近、いきなり会場に武尊選手の姿が現れるんです。
会場は騒然。テレビを見ていた私も驚きを隠せませんでした。

天心戦を観戦する武尊選手

「俺は逃げてないよ」「天心と戦うよ」
そんな意思表示で来場した武尊選手。
まさに青天の霹靂。カメラで抜かれた瞬間、多くのファンが驚いていました。
それほどまでに、「K-1の武尊がRIZINに来る」ことが
とんでもないことなんです。
先述した通り、K-1は鎖国国家と揶揄されるほど、
他団体とはかかわりを持てない。持たない。そんな座組の中で
K-1のエース、大将が単独で乗り込んできたんです。
そりゃ驚きもひとしおです。

当時はまだ何も決まっていない状態。としながらも
確実に対戦の機運は高まりを見せていました。


当時の運営側のコメントとしては
「話し合いのテーブルに着くことができている。」とのこと。

それだけでも、過去の歴史を踏まえて
本当に大きな一歩なんです。

武尊選手は最後に
「RIZINでもK-1でもRISEでもない中立な舞台で必ず試合を」
とのこと。

どちらかが団体を抜けて実現する。
どこかの団体が落ちる。

そんな風には絶対したくなかったんですね。
逆に言えば、そうするしか実現の方法はなかったともとれます。

とにもかくにも実現までもう少し。
だけど武尊選手はその3か月後に大一番を控えていました。


期待とは裏腹に遠のいた実現。踊らされた2021年。


2021年3月28日。武尊選手RIZIN来場から3か月後。

武尊選手は過去最強の相手、レオナ・ぺタス選手との
スーパー・フェザー級のタイトルマッチを迎えます。

レオナ選手は過去7年間無敗
武尊選手との対戦アピールをかねてから行っており
武尊選手が苦戦した相手もKOする実力派。

この試合に負けたら、天心戦は消滅。
恐らく格闘技ファン全員の共通言語。

よりによってその相手がレオナぺタス選手。

武尊大丈夫か?負けるんじゃないか?
そんな声も相次ぎました。


会場には「この前のお返しに」天心選手が来場。

K-1へ来場した天心選手

過去最大のプレッシャーの中で、
過去最高の形で武尊選手はこの試合を勝利します。

1R残り10秒、レオナ選手の鋭いジャブを受けぐらつくも、
その後の打ち合いで強烈な左フックでダウン。
結果2RのKO勝利を飾ります。

会場全体が揺れたダウンシーン

後にレオナ選手は「この試合を覚えていない」と言うほど
強烈な左フックでした。


試合後のマイクで
「天心選手、K-1へようこそ」
「ここまでほんと長い間待たせてしまったけど、僕は天心選手と最高の舞台で最高の試合がしたいです」

と、話します。

いよいよここまできた。
さあ実現まであと一息。

ファンはそう思っていました。

現実は、そううまくは行きませんでした。

天心選手はこの時点で、
2022年の4月にキックボクシングを引退して、ボクシングに転向することを
地上波のテレビ番組で発表していました。

当初の予定では2021年の6月に東京ドームで行われる予定だったそうですが
武尊選手がレオナ戦で拳を骨折。白紙に。

この決定が下されたのは2021年の4月下旬だったことを記憶していますが
その時点での天心選手のスケジュールは、
9月のRISE、
大晦日RIZINの卒業マッチ、
2022年4月のRISEラストマッチの3試合が確定
していました。


そうなってくると、
いよいよどこで試合するの?となります。

RISE,RIZINで試合をするとなると
K-1を抜けないといけない。
それはありえない。
武尊自身がこだわっていた"中立なリング"という前提が壊れてしまう。

じゃあRIZIN出場を見送り、中立な舞台で大晦日に試合をしようとなると
天心選手が納得しません。
2016年から毎年天心選手は出場していて
ボクシングに転向すればもう大晦日に出場することはできません。
RIZINのラストマッチをすることなくRIZINを卒業することになります。

じゃあ11月とかに!という説もありましたが、
短いスパンで試合をすることができないスポーツが格闘技です。
ましては世紀の一戦とも言われるこのカードでそれはありえない。


となると八方ふさがり。
時間的にも、物理的にも実現は不可能。
誰かの何かを犠牲にしないとこの試合はできない。


今でも覚えているのですが、
2021年の7~11月ぐらいまでの4か月間は
本当に情報が飛び交っていました。


ある時は実現が決まったらしい!とぬか喜びし、
スグにフェイクニュースと判明したり

ある時は交渉決裂!と見出しが出て、
武尊選手本人が否定したり。


もうあと一歩が長く、遠い道のりでした。

※余談ですが、この時はファンが本当に敏感になっていました。
武尊選手が美容院に行っているストーリーを上げるだけで
実現か!?とかって言ったり。今振り返ると面白いですよね。


武尊選手・天心選手も罪深く
意味深ツイートを時々投下します。
そこでもファンが慌てふためき、拡散され考察され。

何がどうなっているのか。
本当に実現するのか。

RIZIN代表の榊原氏は、公の会見の場で
「武尊天心についてはノーコメントです」と一貫して黙秘を続けます。


やきもきという言葉では済まされないほど、
ファンは待ちきれなかったです。

状況を整理すると
大晦日RIZINで実現→武尊選手のK-1脱退が確定
12/29で実現→天心のRIZINラストマッチが不可能
4月のRISEラストマッチで実現→武尊選手のK-1脱退

と、実現する可能性は限りなく低かったです。
そう、あの一手を除いては。

最後の最後、RIZIN代表、地獄のプロモーター榊原氏の
"ウルトラC"が炸裂します。


天心のボクシング転向の時期を遅らせ、天心武尊戦が実現へ。


2021年12月24日。
ついにその時はやってきました。

突如として記者会見が行われ、
間にはRIZIN CEO 榊原氏が。

最初はコラかと思いました。


武尊・天心。契約に合意。対戦が決定。

大晦日ではなく2022年6月に実施。
天心のキック引退を2か月先延ばしに。


寝耳に水。
いきなりすぎてパニックになったことを鮮明に覚えています。

この対戦を実現するまでに
恐らく大げさではなく、何百という障害をクリアにして実現されたものだと思います。

団体の壁、スポンサー、放送局、アンダーカード、ルール、ジャッジ、大会の内容、会場、契約内容、ファイトマネー。
ぱっと思いつくだけでもこれだけがすぐ挙がるのですから
本当に長い道のなんだったんだなと。


さらには天心選手が当初から4月にキックボクシングを引退することを発表していたのにも関わらず
この試合の為だけにボクシング転向を先送りする漢気も魅せてくれました。


後日発表された大会名と詳細については
「THE MATCH 2022」。
Abema PPVで完全生中継
武尊天心の試合はフジテレビ地上波生中継

上記の事も同時に発表されています。

更には
RIZIN  榊原社長
RISE 伊藤代表
K-1     中村プロデューサー

日本が誇る3大プロモーターの集結も熱いものがありました。

妄想の世界で描いていた非現実な光景がどんどん実現されていきます。

発表されてから大会が近づくにつれて
各団体のチャンピオンクラスが出場アピールをしたり
SNS上で発信したりと、いよいよ祭りが近づいてくる感じが。
妄想が現実になるこの感触が。
たまらなく幸せでした。


日本立ち技格闘技のオールスター戦。K-1対RISEの対抗戦と地上波消滅問題。

第一弾のカード発表。
続々ととんでもないアンダーカードが発表されていきます。

あの記者会見の興奮度たるや。
RISE勢とK-1勢が一堂に会する瞬間は感慨深いものがあります。
各団体のエース級の選手が揃い踏み。出し惜しみ無し。
まさに夢のオールスター戦です。

特に芦澤選手とYA-MAN選手に関しては
生み出しづらいドラマを見事に創り上げ、
非常に注目度の高いカードにさせましたね。素晴らしかったです。

カード発表・ルール・諸々が発表され
後は大会を待つのみ…

でしたが、夢の祭典を良く思わない界隈の人間、
足を引っ張ろうとする影。
この盛り上がりに便乗するように、
とんでもないニュースが舞い込んできます。

「THE MATCH2022 地上波放送中止」

目を疑いました。
武尊選手は地上波をK-1に戻すことを夢としておりました。
漸くこぎつけた地上波。

天心選手は「未来ある子どもたちのために」
その大義名分で今回の試合は臨むはずでした。

理由は明かされてはいませんが、
恐らく榊原 RIZIN CEOの反社交際疑惑によるものと考えられます。

この騒動を機に
「日本格闘技ももっとPPVを根付かせるべき」
「丁度良いタイミングだ」
「地上波はもうオワコンだ」


などといった声が散見されました。

ここからは個人的な意見ですが
上記の声も分かります。
アメリカでは完全PPV制で格闘技のみならず、
様々な興行でPPVが浸透しています。

PPVが普及することで
・選手のファイトマネーが増える
・コアファンが増える
・選手のモチベーションアップ

などといった恩恵もあります。

しかし今回に限っては
武尊選手も天心選手も地上波に拘って成り立った大会です。

そんな簡単に割り切れるはずなどありません。
私が言いたいのは
「今回じゃなくていいだろう」です。

タイミングはこれからでもあったはずです。
RIZINの大晦日大会がそうです。
唯一日本格闘技で地上波とのパイプがあるのがRIZINです。

そこでPPV移行を行うのであればまだしも
今回は地上波ありきで契約も結ばれていると予想します。

それでいてこの仕打ちは…
溜まったものではありません。

一筋縄ではいかない。
最後の最後まで一波乱ある大会となり
皮肉にも大会の注目度を更に上げることとなりました。


大会当日。OPで号泣。洗練された演出と佐藤大輔氏の煽りV。すべてが非現実な光景。


大会当日。驚異的な運で何とかチケットを獲得しました。
開場前から東京ドームは異様な雰囲気。
物販に至っては朝7時から長蛇の列が。


那須川龍心選手と大久保選手のプレリミナリーファイトも終了し、
いよいよオープニングへ。

個人的には今回、演出をどの団体が統括するのか?が最大の注目ポイントでした。
RISE.K-1の演出も、盛り上がらないわけではないです。
演出も凝っているし、煽りVだって非常に見やすく、分かりやすい構造です。
ただ、RIZINの演出・煽りVのレベルが異次元すぎるのです。

佐藤大輔氏は稀代の煽りvアーティストであり、演出家。
多くの格闘技ファンは心を鷲掴みにされてきたはずです。
(個人的ベストは堀口×朝倉海2,天心×五味,青木×北岡,石渡×扇久保)

当日の佐藤大輔氏がインスタでリハーサルの様子を上げたり。
佐藤映像が"THE MATCHに関わっている"という事実だけで
最早チケット代の半分の元は取れたと言えます。


さぁいよいよオープニング映像。
夢にまで見た、各団体の協力の映像。
武尊が。天心が。戦うんだと。

2人に大々的にスポットを当てたオープニングV。
佐藤映像はRIZIN側の制作です。
RIZINではRISEの映像のみ使えて、
国交の無いK-1の映像は使えません。

ですが今回は制作実行委員会を立ち上げての大会。
映像も何もかもフリー。

K-1の映像が。これまでの歴史が。
全て詰まったオープニングVで会場は大盛り上がり。

"こどもたちのために"というメッセージも込められたV。
フジテレビは断念したものの地方ローカルの地上波では流れました。
これは漢気あるヨギボーの木村社長のネットワークもあったそうですが、それはそれとして。


そして全選手入場。
旧K-1のテーマ曲、エンドルフィンマシーンが流れたり。
各団体のテーマ曲が流れたり。
大同団結している様子が見て取れます。

最後に武尊と天心がリングイン。
この瞬間。とてつもなく格好良かったです。

会場もこれまたざわつきました

RIZINの演出でキックの選手が登場してくる。
K-1選手が白のグローブを付けている。
RISE勢がK-1選手と同じリングに立っている。
その様子が非現実でした。



いざオールスター戦。疑惑のジャッジも"KOが美学"のK-1勢が苦戦。

メインの試合を中心に書くので、
アンダーカードは割愛します。

ですが、微妙な判定が続きました。
鈴木-金子
風音-黒田
中村-レオナ

など。

セミの海人-野杁も微妙でしたね。

色々な意見がありますが
やっぱり"倒して勝つ"のがK-1のスタイル。
ルールやジャッジ基準は通常と異なるとはいえ、
物議を醸された時点で負けてしまっているのかも。
と思いました。


そんな中で
YA-MAN-芦澤
白鳥-ゴンナパー
内田-サッタリ

この3試合は強烈でしたね。
特にYA-MANと芦澤は面白かった。
完全に相手の土俵で勝負した時点で芦澤の勝ちなんですが
しっかりYA-MANがKOで勝つあたり、面白かったなと。
少しショッキングではありましたが。

とにかく、メインに近づくにつれ
会場のボルテージが上がっていってました。


6年半の時を経て。THE MATCH2022メインイベント
那須川天心-武尊


裏メインと銘打たれたセミファイナル、
海人-野杁が終わり、まさかの怪物・野杁が負けたことで
会場は異様な雰囲気に。

少し余白をあけて、
アナウンスが流れる。
いよいよ煽りV。

「最強同士はいつか出会う運命にある」
「潜伏期間6年」
「最大の障壁は2人が強すぎたこと」

いきなり強烈なパンチラインで煽りVが始まります。

「那須川天心と武尊はどちらが強いのか。」
「格闘技界最大の謎解きが今、終わる」
「格闘技とは、敗者を決める為の残酷な決闘である」

もうね。たまりません。
ちなみにBGMはインセンスの傀儡謡だそうです。
またこれおしゃれでした。

「終わりが、始まる」

にて暗転。終わりかと思いきや高層ビルの屋上で歩く武尊のシーン。
ピアノの前奏。切ない。でも美しく、綺麗な仕上がり。

存在を恨んだけど、天心選手がいたからここまで現役で続けられている。
今は感謝しています。と。

「憎むべきその人は、自分を一番強くしてくれた人」
「俺の前に立ちはだかってくれて、ありがとう」

キャッチコピーが一々素晴らしい。

場面変わって、天心。
「進む者から目指す者への置き土産」
「そしてこれで、本当に、さらばだ。神童」

立木さんのナレーションで煽りVで出るのは、
これで最後ですからね。
本当に最後で、RIZINからのエールの様に感じます。

RIZINで数々の異色のチャレンジをしてきた天心。
"自ら進む者"から今や子どもたちは天心を"目指す者"に代わっていきました。
そんな天心の成長模様も伺えるような素敵なフレーズです。

「君がいたから、きっとこの世界は素晴らしい」
「格闘技があるから、この世界は素晴らしい」

この世紀の一戦、煽りVの曲は「この素晴らしき世界」

最後にOPでも使用されたエヴァンゲリオンのサントラ、
Dark Defenderで立木さんの
「那須川天心 武尊 THE MATCH」
で締めくくり。6年半のドラマが終わる。
ここ1番でとんでもない煽りv。
流石としか言えない。佐藤映像。

2人はそれぞれ東京ドーム史上恐らくトップクラスであろう演出、
ゴンドラに乗って大きな火柱が上がる中で入場。
武尊は悲壮感さえも漂う、全てを背負ったような表情。
天心は覚悟を決めたような。殺気も感じるがどこか楽しんでいる表情
対照的な表情がこの試合を盛り上げていました。

双方リングイン。
リングアナがそれぞれの獲得タイトルをコール。

「K-1 WORLD GP スーパー・バンタム級王者」
「K-1 WORLD GP フェザー級王者」
「K-1 WORLD GP スーパー・フェザー級王者」

「RISE 初代世界フェザー級王者」
「RISE DEAD OR ALIVE -58kg 王者」
「RISE バンタム級 王者」

改めてみると壮観のタイトルです。

さぁいよいよゴングです。

伝説のフェイスオフ


俺の前に立ちはだかってくれて、ありがとう。


1R。武尊はベタ足で距離を測る。
天心はいきなり変則的なストレート。
武尊、右ミドルを放つ。
天心、ジャブで武尊を突く。
武尊、反応できない。していないのか。真正面から受ける。

天心、ジャブでコントロール。
武尊、三日月蹴りで距離を取るもことごとくパーリーでかわされる。

やはり天心は速い。目が良い。武尊のパンチや蹴りが当たらない。

1R後半、徐々に武尊のプレスが強くなる。
右ストレートを放つ。

残り10秒。
武尊に左フックに研ぎ澄まされた天心の左フックが武尊の顔面にクリーンヒット。

武尊が、倒れた。

10年間無敗。K-1の絶対的王者が倒れた。
この瞬間程ショッキングなものはありませんでした。

やはり天心は強かった。

余りに綺麗に入り、
よもやKOかとも思いましたが、スッと立ち上がる武尊。
驚異の打たれ強さ。
そしてゴング。救われるような形で1R終了。

2R。
バッティング(頭部がぶつかる偶発的な事故)もあり
一次試合が中断する場面もありましたが、
終始天心ムード。ジャブが当たり武尊の攻撃が出ない。

ただ、武尊はスロースターター。
3Rに全てを賭けていました。


3R。相変わらず天心の攻撃が武尊にヒットし続ける。
武尊は一切怯まない。
逃げない。天心は落ち着いて自分の試合をしている。

武尊、笑う。天心、打ち合いに臨む。

この大舞台でもいつもの武尊を見せてくれました。

3R後半。武尊が天心を捉えかけます。
しかし天心上手くかわす。ダッキングで距離を潰す。
武尊の世界一のプレスが天心を追い詰める。

もっと見たい。まだ終わるな。
時間は止まらない。
3R、試合終了のゴングが鳴ります。


判定は正直聞くまでもなく天心。
会場中がそう確信していました。
勿論両陣営も。

いざ、ジャッジ。

この表情が余りに切なかった。

判定、5-0。那須川天心勝利。

誰がどう見ても天心の勝利。
天心の試合でした。

体重・ルール・怪我・コンディション。
決して公平とまではいかないけれど、
6/19 THE MATCH2022では、天心が強かった。
それだけの話です。

ジャッジが終わり、
抱き合う両者。
試合が終わればノーサイド。
この因縁ある二人でも。

漸く見れた二人の抱擁。

この時天心は
「武尊さんがいたからキックを続けられた」
「ずっと辞めたかったけど、武尊さんがいたからここまでこれた」
と吐露。

お互い、王者故の孤独があったんですね。

武尊は
「これからも大舞台でがんばってね」
「頼むな、これからも」
と。そして

「待たせてごめんな」
「まだ若いのにな、ごめんな、きつかったよな」
「頑張ろうなお互い」


ここまで苦しみ、誹謗中傷され。
やっとの想いで実現させ。
この試合に人生の全てを賭けた武尊。

そんな一人の人間が、敗者となった王者が。
1番苦しめられたといっても仕方ない、目の前の勝者に対し。

実現に時間がかかってしまったこと。
まだ若い天心を気遣った謝罪。
お互い未来に向かって頑張っていこうね。
とエール。

こんな事言えるんですか。人間って。
どこまで武尊は、格闘技を愛しているのか。
どこまで自分を犠牲にできるのか。

この会話を知ったとき、
正直言葉になりませんでした。


こうして、THE MATC2022は終幕となりました。


格闘技とは、敗者を決める為の残酷な決闘である。


キックボクシング史上最大となったメガイベントが終了し、
格闘技界はどうなるのか。と心配していましたが
どうやらそれは杞憂だったようで。

RISEではK-1勢に勝利したことにより「最強RISE」と打ち出し、
対世界をテーマに各国の競合を招聘。

K-1ではTHE MATCH後、武尊がベルトを返上
そのベルトを賭けたトーナメントが開かれたり。

RIZINではメイウェザーと朝倉未来のエキシが開催。

各々の団体で、「その後」のストーリーを0から構築しています。



あの日以上の感動や興奮は
これから先、中々味わうことが無いでしょう。

天心はボクシングへ。
武尊は休養へ。

キック界の英雄「だった」二人は、
後進に未来を託し、それぞれの道を歩もうとしています。


格闘技とは、敗者を決める為の残酷な決闘である。
そう煽りVで記されていました。

格闘技を通した人間ドラマに、
胸打たれた人は多いと思います。

自分自身を否定されたような。
打ちひしがれたような。
そんな感覚になる、今回の大会。

だけども、人生において、ここまで心揺さぶられ
熱狂できる時代に生まれ、良かったと思います。


さいごに。

ここまで読んでくださった暇人の方々。
是非、この格闘大河を肌で実感してみてください。

コロナ禍で沈みがちだった世の中に、
勇気と元気をもたらした格闘技に。

そして、武尊選手・天心選手に。
心からの感謝と敬意を。



格闘技最高!

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