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藤原ちからの欧州滞在記2024 Day 76

木曜日。朝はゆっくり眠る。イベントに向けて料理の仕込みをしながら、つまみ食い。急激に嵐がやってきて、とても外は歩けないような状態に。こんな天気で、イベントに人来てくれるのな……。家の前で立ち往生していたムスリム系の服装をした母娘を、ミヒャエルが室内に迎え入れて、いろいろと彼らの人生について話を聞いている。そのあいだに粛々と準備を進める。配置や、料理の段取りなど、実里さんの脳内にしか存在してないプランを、ミヒャエルやクリスディアンにひとつずつ伝えていく。トーステンが、ビールを冷やすアイスボックス用の氷を買ってきてくれる。ありがたい。近所のスーパーでは品切れだったのだ。

最初の観客は、ずぶ濡れでやってきた。まずは彼、ベンヤミンに、うどんの元となる小麦粉を踏んでもらう。これは実里さんのアイデアで、小麦粉からうどんを作るにあたって、やってきた観客に踏み踏みしてもらおうというわけ。みんな結構楽しんで踏んでくれる。先日路上で会ったデザイナーの彼も、友人を連れてきてくれて、うどん踏み踏み。路上が冠水するくらいひどかった豪雨も次第に弱くなり、40分くらい遅れてだいぶ人も集まったので、orangcosongの活動プレゼンテーションを開始。以前、ダルエスサラームですでに我々のプレゼンを聞いてくれていたトーマスから、「見えない壁」を越えようというストラテジーは実際どの程度機能しているのか、という鋭い質問がある。思うようにいかなかった例もあるけど今はこのように考えてトライしている、ということを、実例を交えて話す。トーマスやミヒャエルの思想や活動を信頼できているからこそ、話せる内容だった。
 
トークの後は、お楽しみのうどんタイム。トッピングをいろいろ用意して、ビーガンの人でも問題なく楽しめるスタイル。おにぎりを握るのも手伝ってもらったりしながら、わいわい食べて話す。HyCP周辺の人たちをはじめ、タムさんや、彼女と一緒にYPAMフリンジに参加していたDong Zhou、先日まで横浜でレジデンスしていたソフィア、そして2年前にダルエスサラームで親しくなったトーマス、さらにはハンブルク在住の日本人アーティストのみなさん……いろんな人たちが一堂に会する不思議な饗宴。

そして住吉山実里とTam Phamによる「2x2 WindowS」のパフォーマンス。コロナ禍中は、2人がPC上のウィンドウを2つずつ使う、オンラインでのコラボレーションとして発展してきたこのプロジェクト。今日は、ここハンブルクのHyCP(Hyper Cultural Passengers)の大きなガラス窓と、2つのデバイスを繋げて構成。クリスディアンが実里さんのカメラ撮影を担ってくれて、わたしとゴランが記録撮影。デバイスはたくさん使ってるけど、パフォーマンスとしてはタムさんの演奏と実里さんのダンスというシンプルなもので、屋外も使う。最大15分くらいの予定が結局20分になったけど、観客がリラックスしながら同時に集中しているような不思議な状態が最後まで感じられて、贔屓目かもしれないけど、「この場に立ち会えてよかった」みたいな良いパフォーマンスになったんじゃないかと思う。
 
うどん作り、トーク、即興パフォーマンス、とまさか全部うまくいくとは思わなかった、と実里さん。たしかに準備は(特に彼女は)大変だったけど、不思議と気負わずにやれた感じがある。ミヒャエルたちが作っているこの場所のおおらかさや、タムさんをはじめとする友人たちのチャレンジ精神や温かさに助けられたのかもしれない。少しずつ人が減っていく中で、トーマスと、彼が大阪で進めている空き家のプロジェクトについて話す。彼の考え方は斬新だし、わたしの数少ない建築系の友人知人にもぜひこの秋に日本で会ってほしいなあ……。

最後、ソフィアさんたちと「また逢う日まで」で踊ってお別れ。この歌は、悪魔のしるしの「百人斬り」のラストに危口統之さんがいつも歌っていた曲で、わたしにとっても大切な曲。それを歌ってお別れにしたい夜だった。

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