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藤原ちからの欧州滞在記2024 Day 62

木曜日。トラムに乗って再び文化省へ。海外赴任のチェコセンターの人々など、何人かのゲストオブザーバーを迎えて、昨日書いた提言についてのディスカッション。ここでも最終プレゼンに向けてまとまる気配はない。参加者のうち何人かからはやや焦りも感じるけれど、ファシリテーターのカルラが動じないのがいい。彼女はおもむろに、最後にこの提言を紹介したい、と切り出した。これは私たち自身に向けられたもので、それぞれの課題や体験や感情をシェアしてはどうか、例えばこうした国際交流の場面においての日記を書くのはどうだろう?という提言なんだけど、このアイデアについてどう思う?と問いかける。付言したいことは山ほどあったけど、なんとなく、わたしが書いた提言だということがバレないほうがいい気がして黙っていた。ほんとは口を開いてその背景をちゃんと説明したほうがよかったのかもしれないけど……。

ラボのメンバーを信頼してないわけではなかった。今朝もライ(チューリヒ在住のフィリピン人キュレーター)から、このラボについて今のところどう思う?と訊かれた時、昨日ササピンと確認しあったように、自分はやはり外交官としてではなくアーティストとしてのやり方でいこうと思う、このラボのおかげでその意識がシャープになった、と打ち明けることができた。彼女はわたしの友人のフィリピン人アーティストとも仕事をしていて、同じようにではないだろうけど、ある種の傷を共有してもいる。


ランチタイムになる。文化省内で用意された昼食ビュッフェは、こないだと同じくかなりのハイクオリティ。美味しそうなお酒もいろいろあるけど、今は酔えない。あ、ノンアルコールビールがあるじゃん! え、それどこで見つけたの?と何人かがわたしの後に続く。みんなそういうのを飲んでリフレッシュしたかったみたいで、いいことをしたような気分になる。


そして最終プレゼン。司会はこのラボのチェコ側の受け入れ機関に所属するマルティナが務め、シンガポール側からはASEFのヴァレンティーナがスピーカーとして登壇。さらにラボ内で取り決めた各役割の代表者として、プラヴァリ、ニティシュ、イェルネヤが前に出て喋る。驚きだったのは某大臣のスピーチで、彼はロシアのウクライナ侵攻について、それがアイデンティティの危機である、ということを完全に100%ウクライナ側に立って発言した。それはいいとして、だからこそこういった文化的な交流やラボが必要なのです、みたいなことを社交辞令でも言いそうなところ、まったくラボへの言及はなし……そして自分のスピーチが終わった後はずっとスマホをいじっている。その後スピーチした人もこのラボとはなんの関係もないことを長々と話して時間を圧迫していたので、さすがにマルティナが見かねて、あの……体験をシェアしてくださるのはありがたいのですが、このラボと関係あることについて話してもらえますか、と促したものの、彼は不機嫌そうにそのまま同じ話を続けたのだった。プレゼンの最後にヴァレンティーナが、みなさんからのコメントや質問もぜひ聞きたい、特に政府機関で働く人から意見を聞けたら嬉しい、と促したのだけれど、誰も手を挙げないままタイムアップとなった。
 
個人的には、終わってから東京在住のチェコセンターの高嶺エヴァさんが話しかけてくださったのが救いだけれど、とにもかくにもプレゼンは終わり、ラボのメンバーに平穏が訪れる。貸切バスでPlzeň(プルゼニ)へ。ピルスナー発祥の地ともいわれるこの地への訪問が、ラボの最後のプログラムになっている。Ayakaさんと、もう少し話したいですね、と言っていて、おそらくこのバスが最後のチャンスだったから、日本語だけで話す感じになっちゃってもバスの中くらいはアリですかね……とそのあたりのバランス感覚も共有できている感じがありがたい。文化とは何かということ、それが簡単に滅びうるということ、というかいずれ滅びるだろうということ、もし仮に2000年後くらいにその痕跡がmessage in a bottleとして宇宙人か次世代生物に発見されるとしたら……そしてその発見される可能性を高めるには……等々。
 

プルゼニに到着。人形劇のフェスティバルが開催されているらしく、それをラボのメンバーで視察するのが訪問の目的だ。あれ……ケヴィンとテンテン、なんでここにいるの?! さらに下北沢国際人形劇祭の人たちもいて、その中にふるいなじみの顔が……。まさかここで会えるなんて! 思いがけない再会に嬉しくなる。

Andrej Lyga『A FAIRY TALE FOR THE BRAVE』を観劇。人形劇というよりオブジェクトシアターと呼ぶ方がふさわしいのだろう。マイムや泥人形を使う技術の高さに驚く。ユーモアと怖さが同居したパフォーマンスだった。どういうバックボーンでこの表現形態に至ったんだろう。
 
ラボのメンバーと感想を言い合いながら町を歩いて、お待ちかねのピルスナー。ラボの運営側の人たちの近くの席に座り、最後にこうして直接御礼を言えてよかった。おそらく来年も開催されるであろうラボに向けての提案も少しばかり。

 
プラハに戻る。帰りのバスで見た夕陽が美しい。運転手と行き違いがあったみたいで、ホテルの前ではなく、謎の場所でみんな降ろされる。それはそれでいい散歩だね。トラムに乗って、ホテルの前で、みんなとハグしてお別れ。名残惜しい人がいたらもう一杯いこうぜ、ということで、近所のバーでアントニン、ニティシュ、クリスティーンとフェアウェルビール。

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