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藤原ちからの欧州滞在記2024 Day 70

金曜日。朝、萌さんと実里さんと3人で筆談会の振り返り。そしてノルウェーにいる濱田陽平さんと電話してある用件について話す。それからカフェに移動して、あきこさんと筆談会の振り返り。そのままFFTに移動して、芸術監督カトリンとの、短い時間の中での、ドイツ語と日本語での、誰も充分には言いたいことを言えない話し合い。中央駅でビールを飲んで、電車に乗ってエッセンへ。バーであきこさんと話す。打ち合わせが続きすぎて、わたしの頭はパンクしている。というか感情が蓋をされたような状態で、鬱の一歩手前みたいな状態。
 
エッセンのPACTで田中奈緒子(Naoko Tanaka)さんの『Milliarden Jahre Widerhall』を観劇。パフォーマンスの後、そのままインスタレーションとしてその舞台をしばらく噛み締める。今の精神状態に沁みる。いろんなことがそのまま心に入ってくる。彼女が住んできたいくつか家の模型を見ながら、自分の生家のことを思い出した。そこにはかつて庭があり、土の地面があったけど、埋められて駐車場になってしまって、その頃から、わたしは自分の家だったはずの場所によそよそしさを感じていたのだな、と思い返す。そしてその家は、いつか来ると言われている南海大地震によって、海に呑まれてしまう可能性がある。田中奈緒子さんのパフォーマンスでは、ビニールシートが波のように押し寄せて、最前列に座っていたわたしの足元をさらっていく。それは津波を思わせると同時に、ビーチに遊びにいった時のことも思い起こさせる。彼女の作ったアニメーションは、人類の滅びを予感させるものではあったけど、それが絶望でもなければ希望でもなく、悪いことでも良いことでもない、ということに、わたしは親近感のようなものを抱いた。それはコロナ禍の時に漫画の『ヨコハマ買い出し紀行』を読んで、ほぼ水没してしまった三浦半島のことをイメージしながら、自分が住んでいる横浜の近所の尾根を散歩しながら着想した、滅びのイメージにも近いような気がした。帰りの電車の中で、奈緒子さんは、必然性、という言葉を使った。その言葉もまた、わたしの遠い記憶に繋がっていた。

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