松橋萌の欧州散歩伝2024其の41(人と散歩をした話,朝)
彼女はベンチに座って待っていた。初めて会う時と同じでサングラスをかけていた。分厚いジャケットも、靴もきっと同じスタイルだった。それは用意されたものだ。
ZOOパークで集合で、それが気になっていた。
彼女は最初に、倒れた木を紹介した。あのね、あそこに倒れた木があるでしょう。どうして倒れたのかは忘れた。私、アパートの近所の人と仲良くなったのね。それで、教えて貰ったの。倒れちゃったんだって。でも、ずっとそこにあったの。倒れているのに、木からは新緑が生えている。でも、撤去されることが決まったのね。それでみんなで木の周りでピクニックをしたりして、お別れをしたんだって。撤去は中止になったの。そしたらね、新しい芽が生えてきたの。
ここは、戦争の時までは動物園だったんだって。そっか、動物は逃げられない。それでね、その名残で動物がいるみたいなの。私そこで、ヒナを見たの。本当に可愛かった。私もみたよ。でもヒナは珍しいものらしい。
彼女が見つけたものの写真を撮った。あ、ここから教会が見える。
オレンジ作業服のおじさん達が、休んでる。「ナンパしてきてるみたい」そうか、こっち来なよってジェスチャーか。「なんて言ってるんだろ、わからない」
そこはとても印象的な線路で、そしてその横にはユダヤ人が強制送還された線路が残されている。線路を踏んでいると、聴き覚えがあった。Jewish museumで聞いた音だ。高くてガラスが割れるような鋭い音。
彼女は調べてくればよかったんだけど…と言ったけれど、私は今彼女と一緒に見ていることが良かった。
でね、落書きがあってね。これは、ロシアね。…これほら、ユダヤ人の。1984というのが気になる…と言って二人で携帯で検索したりした。
少し、言葉を教えてくれる。ドイツ語って男性名詞と女性名詞と中性名詞があって…
この辺りみんな戦争で焼けちゃったの。なんで知ってるかって?私の(仕事の)家族が、不発弾が見つかって、おばあちゃんの家に避難することになったの。私も。何か建物を建てたりする時の調査で見つかるみたい。
彼女は珍しい外車を見て初めて写真を撮った。
ここが私のアパート。石でできている。古いみたい。その通りをずっと行ってカフェに入った。カフェの店員はコーヒーにしろケーキにしろ、運んでくるのは遅かった。カフェには黄色の光が差しつつも、どこか薄暗さがあった。いや、明確に影になっているけれど、温かく感じた。私たちはそこで色んな話をした。楽しいってあまり感じないの。考えるってことはするけど。そういったら彼女はうんうん、と頷いて興味がありそうだった。彼女はお父さんが好きなの、と言った。私も彼女の気持ちが理解できた。彼女にとって大切に決まってる。“寒くなっちゃったね”牛乳で具合が悪くなったと彼女は言った。会計の列も、なんだか遅くて、彼女はコップのプロダクトを見て、多分日本、と当てていた。セルフィーの時、“ニコニコ〜”と言うのが口癖。
もうそろそろ彼女は仕事だった。寂しいな〜〜と正直な気分を伝えてみた。薬局に行って、“肌をどうにかしなきゃ”と言って入ると、おじいさんが私が選びます、と言って、どこもそうなのかなあ、そんなの見たことないけど、などと言った。彼女は行かなきゃ、としつつも通りを一緒に歩いてくれた。おばあさんが道を尋ねて“多分そう”という表現を彼女はしたという。逆方向のバスが来て、気まずい、と言いながら私と通りを歩いた。幼馴染に憧れる。男の子としか遊んだことがなかった。それは面白い視点だね。着ぐるみに女の子達がびっくりして、悲鳴をあげた。
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