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藤原ちからの欧州滞在記2024 Day 34

木曜日。朝の振り返りのあと、オンラインワークショップ「町を旅する読書会」。今回は「食事」と「市場」がテーマで、初参加の人も多かった。からっぽ、という概念についての話が印象に残る。終了後の雑談タイムでは、スペインやバスク地方の複雑さについての熱い意見交換。もしかしたら今回の滞在制作では、うちらにしかやれないようなことをやろうとしてるのかも、という手応えを得る。
 
軽くシエスタしてから、リサーチへ。今日は東の方を攻めてみる。ここは実里さんがすでいくらか掘ってくれていて、うーん、興味深いのだけれども、全体のバランスからするとこのエリアを含めるのは難しいかもな……と考えながら進む。面白い構造の階段があるけど、ホームレスの人がひとりそこを完全に住処にしていて、物理的に通行不可能な状態になっている。旧市街まで戻ると、喧嘩発生? パトカーがけたたましくサイレンを鳴らしながら何台か乗り付けて、渦中の人物を取り押さえる。小さな子供も巻き込まれているみたいで(直接暴力を受けたわけではなさそうだけど)かわいそう……。ビルバオに来てから警官の姿を見ない日はなく、たまにコミュニケーションをとることもあるけど、彼らがどんな気持ちでそこかしこの路上を取り締まっているのか、気になってもいる。
 
バスに乗って西のほうに抜けてみようかと思ったら、あれ、バスが止まってくれない……。無視された? 今たしかに運転手と目が合ったはずなのに。乗ります!という意思表示が足りなかったのだろうか。しょぼんとした気持ちになり、もう今日はやめだ、と思って、サンフランシスコのバルにしけこむ。いつもの3人組のおじさんがいて、ちょっと元気をもらう。すると、あれ……キアラさんが入ってくる。えっと、今日ここで待ち合わせしてましたっけ、というくらいの自然さで、彼女との会話が始まる。プロフェッショナル旅人である彼女によると、今日はストライキが発生していたらしく、そのバスはストをしていたのではないかとのこと。なるほど、そういえば乗客が誰も乗っていなかったから奇妙だった。バスは走らせるけど誰も乗せない、というストをしていたんだろうか……。
 
キアラさんはゆうべわたしたちと解散した後もさらに別のバルに行ってたし、今日はサイクリングなどを堪能したらしく、かなりお疲れの様子。一杯だけ飲んで帰るわと言うので、ガンビアバルに移動して飲み始めたら、スペイン語堪能なキアラさんはさっそくひとりテーブル席でちびちび飲んでいたおじさんに話しかけてしまい(それが彼女のサガなのだろう……)、そのおじさん、アンヘルさんとのにぎやかな会話が始まる。萌さんが合流。Familiaかと訊かれ、少し迷ったのち、casi familiaと答える。ここまでの滞在の経験からすると、amigoやcolegaと称するよりもなんとなくそのほうが安全性が増すというか、いざという時に守りやすいような気がする。さらに実里さんも合流。エクアドルに家族を残してひとりで25年前にこのビルバオに来たんだよ、というアンヘルさんは、わたしたちにまあ飲め飲めと次々に奢ってくれる。疲労困憊でフラフラになっているキアラさんに、スープを飲むならこの店がいいですよと送り出したあと、3人で隣のバルへ移動。わたしとしては、深夜に脳みそを動かす(動かさせる)ことをためらってしまうのだけれど、実里さんのたっての希望で、「演劇クエスト」の作戦会議。いくつかのモチーフ候補が浮上してきた。少しずつ、作品へのイメージが生成されつつある。でもまだまだ、確信と呼ぶには程遠い、もやっとした状態のまま、わたしたちは歩いている。

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