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松橋萌の欧州散歩伝2024其の33

あきこさんから貰った演劇クエスト。赤の上品な感じの表紙が個人的には好みだったが、「手作り感」だという。中を開くと、2010年代の二次創作全盛期のあの感じの地図イラストが出てきて、それもまた好みだった。あの頃は、皆絵が上手でなくて、とても楽しかった。

それを遂にプレイした。初っ端からその道は無かったんだけれど、(赤と白のポールが無くなっていて)引き返したりして見つけることは可能だった。デュッセルドルフに来てからはよくケーキを食べている。8年経ってもまだ赤い滑り台。まだある落書き。8年経っても消さないんだなあと思った。

途中でお使いとして、紙を買いに行った。そこの店員さんの英語はとても聞きやすく、こちらの意図もかなり汲んでくれた。そのため、レシートはその店員さんのサイン入りとなった。よくわからないガラスを買ってみた。割れないで持って帰れるとは思えなかったが、こういったものが部屋の中にあったりすると面白いかもしれないと思った。大きな紙を入れるついでに、人生初のエコバッグを買ってみた。エコバッグのどの辺りがエコなのかわからず(エコバックにだって寿命もあるだろうし、汚れたら洗う必要があるし、エコバックの生産にも様々なコストはかかるから)しかし、真っ赤なシャガールの絵が描かれたバッグは流石に魅力的だった。こんなカバン下げていたら素敵だなと思った。クレーの柄でそれを想像したが、それだと良過ぎて洒落過ぎてつまらなかった。何故これがバッグなのか?とわからないようなプリントであるのが良かった。

そのバッグは、幸運を引き寄せているような気がしている。バス停で待っているときに、恐らく赤いバッグが目についてこちらをじっと見ているおじいさんがいた。ニコッとしているのでこちらもちょっとだけニコッとした。おじいさんは言葉を話すことはなかった。バスを待ち、バスが来ると、別々の席に座った。そして、デュッセルドルフの中ではそこは中心でない街である。しかし、よく栄えていて、中心街よりもより高い密度でカフェやら化粧関係の店やらが続いている。二駅ぐらいでおじいさんは降りた。そして、降りてから私に手を振った。だから私も手を振った。おじいさんはオレンジ色の、工事現場などで交通整理をするような人が着るベストを着ている労働者だった。夕方だから、仕事帰りだろうか。

散歩を人とする作品を作っている自分にとって、それがまた一つ別の課題だった。誰かと散歩がしたかったが、言葉などによって挫折が続いていた。あとは、男性であるとか女性であるとかそういった壁が急に高くなってしまった。そのような時に、あの時一緒にバスで二駅移動した人がいる、という経験は心に残った。言葉を交わしたわけでもないし、でも一緒に移動していた。そこには緊張感は発生している。そういったことを忘れないようにしたいと思った。

また、家に帰る時に寄ったスーパーでは、パンをおまけして貰った。シャガールの絵は宗教的なテーマを扱ったものが非常に多い、何か引き寄せているかもしれないと思った。食べ物を良い形で手に入れたから、その日は美味しいスープを作ることができた。それをアパートのテラスでひっそりと食べた。

おじいさんの後には金色のライン川を見ることができた。

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