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藤原ちからの欧州滞在記2024 Day 44

日曜日。朝、まだ直接話すのは難しいだろうということで、実里さんが朝食会場で話す。朝食会場に来てくれてホッとした、ごはん食べられたかな、と心配してしまうのは、父親的マインドなのか、いや同僚でもそれはありうるのか。とにかくそういう言葉や概念にあまり引きずられないようにして状況を受け止めたい。そのあと彼女たちは散歩へ。わたしはホテルで借りた自転車で、町の中心部を目指す。雨が降ってきて強くなり、雨宿りをしてもやみそうにないので、そこで自転車を置いて傘をさして公演会場へ。
 
アント・ハンプトンの『Borderline Visible』。スイスのローザンヌからトルコのイズミルまでの旅について記された本を読みながら、ブースにいる彼のナレーションに従って、観客たちはそのページをめくっていく。英語のナレーションやテクストを100%理解できたわけではないけど、というか今のわたしの精神状態ではいけてても70%くらいだと思うけど、詩的に、しかもパロール(話し言葉)とエクリチュール(書かれた言葉)を行き来しながらつむがれていく言葉が断片的にイメージとして脳裏に着床していく感じ。ずっと夢か旅の中にいるような77分だった。

そのあと観た作品はわたしには響かなかった。もう体力的には限界というのもあったけど、植民地主義の取り扱い方についてもっと丁寧なアプローチが必要だったのでは、と思ってしまう。疲れ果てて劇場のロビーにいるあいだに、元アーティストで今は料理人であるというアレクサンダーさんが話しかけてくれて、興味深い人だったけど、しばしひとりになろう、と外へ。スーパーマーケットの出口から入ろうとしたら、入口はそこじゃない、こっちだよ、と声をかけてくれた老いた女性がいて、小銭か食べるものを持ってたらくれと言う。いつもは断るようにしているけど、わずかに持っていた小銭を渡す。自転車に乗って南の方へ。ラーメン屋を何軒か見かける。次にこの町に来れるのはいつだろうか。その時はラーメン食べてみたい。

ステファンが見つけてくれたインドネシア料理屋で4人で食事。ビルバオの打ち上げもできてなかったので、ここでできてよかった。萌さんにとってはかなり緊張するシチュエーションだったと思うし(わたしもだけど)、これで和解を果たせたということにするほど安易には考えてないけど、とにかく料理が美味しかったし(これももちろん植民地主義の影響だ)、チームにとって大切な時間だから、夜の観劇よりもこの食事会のほうを優先して、コース料理を4人で平らげた。

劇場に遅れて入れるかと思ったら無理とのことなので、アーティストのみなさんやもしかしてわたしたちのせいでチケット買えなかった人がいたらごめんなさいと思いつつ、ちょうどいたアントさんとステファンとフェスティバル会場に行ってみる。しかし今日はここは休みとのこと。近くのバーでその3人で、今日観た彼の『Borderline Visible』についていろいろお聞きする。アーティストとして先輩といっていい彼からお話を聞けてものすごく刺激になった。帰宅して、ホテルの部屋で話し込んでいた実里さんと萌さんに合流。さすがに明日は早いからそろそろ……というところでおひらきに。

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