青春ブタ野郎という呼称って、本当に的を得てる?「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」作:鴨志田一

高校二年生の主人公:梓川咲太は、ある日の図書室で、バニーガールに扮した芸能人の先輩:桜島麻衣を目撃する。目を疑う咲太だったが、周りの図書室利用者達は、そんなにありがたいコスプレに身を包んだ彼女に気づく様子もない。そんな出会いから、咲太は、桜島麻衣が、周りから存在を認識されないという、「思春期症候群」と呼ばれる現象に悩まされていることを知る。

咲太自身も、過去に似た体験があったことから、徐々に周囲から認識されなくなっていく麻衣さんを助けようと決意する。咲太のことを「ブタ野郎」と罵る、頼れる友人:双葉のやり取りを通じて、麻衣さんのおかれた状況の原因に迫っていく。子役時代から有名な麻衣さんは、麻衣さんや咲太が通っている高校では浮いた存在だった。クラスメイトたちは固定化された人間関係や周囲の目を気にして、麻衣さんに話しかけられず、麻衣さんもそんな学校全体の空気を感じ取って、自ら「透明人間」を演じていた。そんな、学校全体で麻衣さんを無視する風潮、雰囲気、空気が、学校に留まらず、町全体、そして日本全体にも広がっているのではないか、と双葉は推察したのだった。

ある日、双葉と咲太は、自分たち以外の生徒が、麻衣さんのことを忘れてしまっていることに気づく。その日、双葉と咲太が訳あって一睡もできていなかったことから、一度寝てしまうと、自分たちも麻衣さんのことを忘れてしまうのではないか、という仮説も立てる。翌日、咲太は栄養ドリングを買い込んで二徹をしたが、ちゃんと寝て麻衣さんのことを忘れてしまっている双葉を目撃して、仮説を裏付ける。

その日も、そのあくる日も寝ずに一日を過ごす咲太だったが、そんな疲労困憊の咲太の身を案じて、麻衣さんは、勉強会を装って咲太の飲むコーヒーに睡眠薬を混ぜ、眠らせることに成功するう。翌日、すっかり麻衣さんのことを忘れてしまった咲太は、机の上に広げられた、記憶を失う前に予め書いてあった麻衣さんとの思い出を記した日記に目を通すものの、本気で書かれているものだとは思えず、軽く流して学校へと出かけてしまう。

こういう、自身の異能や、憑りつかれているものや、症状に悩まされているヒロインを、主人公が助けるみたいな構図、好きなんだよな。Sっ気が入っているんだけどちょっと初心なところもある麻衣さんと、Mっ気があるんだけど麻衣さんの初心なところを揶揄う余裕のある咲太の、お互いの力関係が強くなったり弱くなったりする関係性が、結構いいなーって感じで好き。

最終的に、「空気なんてクソくらえだ!!」というモノローグと共に、咲太はあるとんでもない行動に踏み切る。その解決策が全然スマートじゃないんだけど、めちゃくちゃ格好よくていいんだよな。普段の緩い雰囲気とは裏腹にアツい部分が垣間見えるシーンが結構好き。いい主人公だなーと思う。


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