見出し画像

【高専志望の中学生に贈る】高専に行くな

はじめに

 諸君は、高専を御存じであろう乎? 存じている。それは大変光栄である。そして諸君は偉大なる高専に通いたいだろうか? 通いたい。それは大変光栄である。では高専では恋人を作ることが非常に困難であることを御存じだろうか? ない。嗟乎ああ。そもそもこれが文豪坂口安吾の風博士のパロディであることは御存じであろうか? ない。於戯ああ……。

 今の私は高専を受験したことを非常に後悔している。中学生の頃の私は、発狂錯乱していたと云う他あるまい(今もと云う声は断じて受け付けない)。なぜなら高専になんの躊躇いもなく入学してしまったからである。もし、将来私がタイムマシンを作り、過去の自分を説得したとしても、狷介固陋たる彼は頑として靡かないだろう。タイムパラドクス以前の問題である。

 時に高専を受験しようとする諸君よ。君たちには未だ選択の余地がある。勉強の息抜きと思って、たまには話を聞いてくれない乎? 無料ただでとは云わない。後半には、当時私が推薦入試を受けた時に面接で聞かれた内容を教える。長年の高専生活で一種の禁句も分かってきたので、それも付け加えよう。因みに私は推薦入試に落ちた。

高専不適合者

いのち短し恋せよ諸君

「人生百年時代」と仮定してみよう。すると高専の五年間は人生の五パーセントにもなる。その生活が抵抗のカラーコードのように金色に輝くかは諸君次第であるが、五パーセントと云うのはあまりに大きい。失っては中々取り戻せないものである。

 基本的に高専生は、恋に現を抜かすことは出来ない。不本意ながらも禁欲を強いられるのである。
 ないとは思うが、諸君が尾崎豊の「I LOVE YOU」のような愛恋を夢見るのであれば普通科に行くべきだ。高専に入って軋むのは己の精神だけである。

夢なき子

「幼き頃より夢を持て」と云う現代の教育に私は断じて反対である。なぜなら私には将来の夢がないからである。

 ただし、高専を志望する者よ。諸君は夢を持て。しかもエンジニアになる夢である。

 まず、夢のない者は無難に高校に行って進路選択を引き延ばすべきである。なぜなら高専は、入ったが最後、工学の道から逃れられないゴキブリホイホイのような所だからだ。
 確かに高専の就職・進学は良い。私の知り合いも、大手企業や国公立大学に通っているから、それは認めよう。
 しかし、諸君に心境の変化が訪れて、「途中で夢が見つかった」「工学以外の道に進みたい」となってはどうだろう。
 編入学試験は万能ではない。まず、基本的に各大学の工学部にしか行けない。例えば、諸君が中学教員を目指したとしよう。すると、技術・情報の教員免許は容易く取ることができる。しかし、同じ理系でも数学や理科の教員免許は違う。数学科(辺獄)に編入するか、普通の大学受験を一からして教員免許の取れる大学を受験しなければならない。高専に入学すると同じ理系学部でも、進路転換にかなりの苦労を要する。文系学部であれば猶更である。
 経験からして高専は明らかに特殊である。大学受験に向けた勉強はしないし、勉強時間も与えられない、容赦なくレポートは出るし、学業を疎かにすれば留年もする。しかも、高専は五年制であるから、大学受験を機に辞めるとなっては中退となる。而して、高専を卒業してから大学受験は二年、浪人して三年の遅れとなる。如何にもムツカシイ選択をとらざるを得ない。
 工学の道を志すことは高校生になってからでも遅くはない、どころか一般である。夢なき諸君が踏みとどまることを祈る。

 次に、極く稀にゲームを作りたいから高専を志望する輩がいる。諸君は該当していない乎?
 昨今行われなくなったが、高専祭ではゲームの展示が学内に一つか二つあった。中身はテトリスにボンバーマン、果てはWii Partyのミニゲームめいたモノまで千差万別である。
 不幸なことに、高専祭での姿を見てゲーム制作ができる学校だとホイホイやってくる純真無垢な中学生が後を絶たない。高専は校門に「ここではゲームを作れません」と書くべきであると思うが、書かないのは、留年を平気で行う血も涙もない薄情な機関であるからだろう。
 真個ほんとうにゲーム制作を仕事にしたいならば、高校卒業後に専門学校に通うべきである。

 最後に、高専に入学してしまったが、工学以外にやりたいことがあるならば、一年の内か三年の節目にキッパリと辞めるがよい。若しくは、両立しながらやりたいことを楽しめ。否定されても構うな。私はこれが楽しい、これだけで高専以上に価値あるものだろう。そうでないと読書ばかりの私が死ぬ。

高専生がツンデレ過ぎて困る

 ここまでずっと高専の悪口ばかり書いてきたが、高専にも良い所はある。
 まず、自由。これは外せない。学校の休み時間にスマブラをしようが、遊戯王をしようが怒られない(因みに賭け麻雀は禁止されている)。
 次に、就職・進学が(工業に限って)強い。その分、卒業までの難易度が他の高校よりも高いが、概ね心配することはない。
 最後に、高専生は大抵いい奴である。というのは教授が因業薄情吝嗇の権化のような人物ばかりで基準が歪んだからかも知れん。それでも優しい奴ばかりだ。

 諸君は願書提出〆切までに、これら良い所と悪い所を天秤にかけて判断せねばならない。面倒くさいからとサボると私みたいになる。気をつけよ。

受験対策コーナー

 濾過したつもりであるから、ここまで辿り着いた者は受験情報が欲しいのであろう。まさかこれだけを目当てに来たのではあるまいな。私なら屹度そうするが。

面接

 必ずこの4点は抑えるべきである。
①高専を志望した理由
②中学で頑張ったことは何か
③高専に入学して何がしたいか
④高専卒業後どのようなことがしたいか
 特に、私の時は「①(②や③、④についても同様に)について一分程度お聞かせください」と言われた。①と③が重なる場合は、半ば繰り返しで良い(①での情報を補足できるとなお良い)。

 また、ここまでで分かると思うが、禁句の一つ目は"ゲーム"である。「ゲーム作りたいから志望しました」「高専祭でゲーム作っている先輩が楽しそうで志望しました」は断固としてNG。
 二つ目は具体性に欠ける答えである。面接官は理系の教員であるため、具体的な数値・情報を欲しがる。特に、具体的な成果があると語り易い。「TwiitterやLINEのBotを作る」くらいなら中学生でも簡単に出来ると思う。私でも出来た。(これで受験生が皆、Bot作りを成果として答えたら噴飯ものだが。)

小論文

 ネットに過去問題が公開されている。

 小論文入試は今見ても明らかに難しい。当時の私は、うんうん唸って書き始めるまでに30分もかけた。そして見事に落ちた。そうやって悩んだ理由は明らかに練習不足である。
 練習のやり方の一つは、とにかく書くこと。今の内から国語の先生(塾の先生がオススメ)に相談して、何度も添削してもらうと良い。受験前は先生方も忙しいので早めに相談するべきである。私のように受験二週間前に行くのは止めた方がいい。

さいごに

 中学の先生は「高校受験で人生が変わるようなことはない」と諸君を安心させるように声高に語るかもしれない。しかし、高専に至ってはその特質が故、異なってくる。

 この駄文で、高専に迷い込む者が一人でも減れば幸いである。

蛇足

坂口安吾 風博士 十五分くらいで読めるオススメ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?