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ペンハリガン レディースミニチュアコレクション2021の感想

ここはアメリカ、時はクリスマス。雪の夜空に奴の影。鼻がテカったサンタクロースが巨体の重力を活かしてドリフトを決めながらCRAAASHとかいう効果音とともに窓から投げ込んでくるのが、このペンハリガンのクリスマスコフレだ。いかにもアメリカっぽいバタ臭いデザインがたまらない(イギリスのブランドだが)。ただ、最初にラトリエデパルファムの店頭でこれを見た時は、全然買わなくていいなと思っていた。なぜなら、このミニボトルに関しては、アットコスメのレビューで「揮発する」「球体が取れる」と先人からの戒めが記念碑的にカキコされていたからだ。

ではなぜ購入したのかというと、クルジャンのミニフレグランスセット(6050円)を購入するにあたり、ラトリエデパルファムちゃんが「1万円分買ってくれたら1000円引いてあげるけど?」と言ってきたからである。パルファムちゃんがそういうなら…とお手頃なセットを探したところ、こちらのペンハリ缶は5ml×5本で9955円と大変お得。って何で金額合わせのアイテムのほうが高いねん。

届いたダンボールを開けると、緩衝材の奥にクリスマスカラーの缶が見えて「やった~」とめっちゃホリデー気分が高まってくる。って、これ保護ビニールの口が全開で缶がほぼむき出しなんだが…(神経質な消費者)缶自体もテープでの封やシュリンクが何もないので、一度開封してから返品された商品がそのまま回ってきたのではないかと勘ぐってしまう。

缶の蓋を開けると、この時点でいい匂いが溢れ出している。パッケージの香り付けならいいんだけど、これってただの揮発なんじゃ? 試しに瓶を一つ手に取ってみると、この栓にくっついてる球体、なんとやわらかシリコンである。クリスマスへの期待感で沖合へと押し流されていた先人の言葉が、現実という波に乗ってこちらへ揺り戻されてくるのがわかった。「キャップが恐ろしく脆い」「5本中3本取れた」何で一番負荷がかかる部分にこんな脆い素材を使ってんねん。

キャップを外そうとすると、かなり固かったり、逆にスルンと抜けるものもあって、キャップがちぎれる or 揮発どちらかを避けられない感じ。Death or Die。どっちを選んでも死ぬってFate stay nightの選択肢か。まあ容器がクソでも香りよければ全てよし。今この瞬間だけは、ブリテンの王室と同じ香りを共有しているのだから…

エリザベサン ローズ オードパルファム

まずはブランドの個性が現れやすいローズ系から。球体がちぎれないようにそっと栓を引っ張り、ボトルの口を手首にチョンチョンしてみる。すると、巻きつけてあるヒモに香水がじっとりと付着してしまう。これ何のためについてるん? タッセルに火をつけて火炎瓶としても使用できるってこと? 「15世紀の『バラ戦争』の終焉を象徴する赤いバラと白いバラを重ねた紋章からインスピレーション」って書いてあるけど。おじいちゃんもう戦争は終わったのよ。

つけ始めはJMのウッドセージ&シーソルトに似た塩っぽさと、ペンハリガン特有のジンの苦味。少しの塩感とパステルカラーのローズが優しく香るトップ。30分も経つとローズがどんどん咲いてきて、この六畳間にいきなりバラ園が誕生する。それくらいしっかり香る。全体を通して感じられる、薄めたシンナーにも近い塩っぽさの部分は、どうしても小学生時代のノスタルジーを呼び起こす。大量の色ペンと匂いつき消しゴムをつめこんだ、デニム地のペンポーチを開けたときの匂い。薬局の、ブルガリとサムライの亜種が棚を占めていた頃の香水コーナーの匂い。友達の家の、お母さんの寝室の匂い。ゲランのナエマが昭和のローズだとすると、これは平成初期のローズだなと思う。

ちなみにナエマは最初におばあちゃんの鏡台の香りがして、しばらくすると昭和時代の三越にトリップすることができます。大理石の階段、真鍮の手すり、豪奢なシャンデリア。まだそこら中に喫煙所があって、宝石売り場にも甘い煙がたゆたっていた頃。

エンプレッサ オードパルファム

甘くて軽やかなフルーティー。上品なボトルデザインと裏腹に、なぜか渋谷109の前でパラパラを踊る黒ギャルのイメージが思い浮かぶ。彼女たちの薄汚れたアルバローザの巨大カーディガンの内側からふわりと主張してくるのがこの香りだ。この懐かしさの正体は一体…? と思ってアットコスメを見たらイビザヒッピー(2003年廃盤)に似てると言ってる人がいて腑に落ちた。バイブルはピチレモン、コスメはキャンドゥかセイジョー、香水売り場を眺めては30分以上テスター瓶を吸い込んでいたJS時代の憧れの香り。でもペンハリガンにはそういうの求めてないからYO…

ハルフェティ オードパルファム 

ベリーのような酸味が濃い大人のローズ。香りは濃厚なんだけど、持続時間が3,4時間と短すぎるので、ルラボのローズ31の下位互換。ローズ31は12時間くらい残っているのでコスパ最強戦士。

ルナ オードトワレ

ロンブルダンローに似てるというレビューを見て、ロンブルダンロー好きな自分はちょっと期待しながらつけてみた。って全然ロンブルダンローじゃないじゃん!(キレ)(この流れ前もやった)JMのブラックベリー&ベイのベイ部分に似た、夜露に濡れた月桂樹が優しく香る。ロンブルダンローやBBBは晴れた日に雫をキラリと光らせているはっきりしたグリーンなのに対し、ルナはレースのカーテン越しに眺めた夜の庭のような、静かでシアーな印象。

ザ フェイバリット オードパルファム

なぜこちらのレビューが最後になったかというと、これだけ容器の溝にガチガチにはまっていて、全然取り出せなかったからである。ほじくるにも指を入れる隙間がないし、球体を引っ張るともげるし、もしかしてこのヒモはこういう時のためにある!? とオシャレタッセルを引っ張ってみると。

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取れーーーっ!?

これはもう擁護のしようがない。今日の説教部屋行き。5種類くらい入ってるセットだと、普段は1ヶ月以上試さないと香りに対する意見が定まらないんだけど、これに関してはもう香りとか言ってる場合じゃないよ。外装、缶の中敷き、瓶のフタ、意味不明なタッセル、全てが駄目。0点。グリフィンドール-1億点!! 開発したあと商品のテストとかしないんか? 見た目が良ければ売れると思ってない?(実際買った)

缶を買ってから知ったんだけど、11/24(水)から西武池袋で「ホリデー セント ライブラリー」が買えるそうです。スプレーがついてるし種類が豊富。値段も4400円とペンハリ缶の半額。完全にこっちが正解です。

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肝心のザフェイバリットの香りはというと、洋梨の芯を思わせるような、繊細で高音なフルーティーの中にかすかな渋み。調べたら、マンダリン、ミモザ、ジャスミンらしい。少しでも鼻がつまってたり、疲れて寝る前だったりするとつけても匂いが一切しない日もある。

自分の鼻の筋トレが足りてないせいもあるが、ペンハリガンは全体的に自分の鼻で感知しづらい音域で構成されてるなーと思う。頑張って鼻をかんだりするんだけど、かみすぎて血の匂いになるところまでがセット。実はゲランのラールエラのミニチュアセットもこのパターンで、買ったはいいが8種類の香りの差どころか、そもそも鼻粘膜に届いてこないものが多い。

2ヶ月前、香水にハマりたての頃はディプティックのオーローズの香りを全然知覚することができなかった。この2,3ヶ月で色々な香水を試すうちにいつの間にか嗅覚が鍛えられたのか、今は凛として力強い王道ローズの香りを感じることができる。今は苦手だったり分からないものも、数年後には理解できる日が来ると信じて、今は楽しみにとっておこうと思います。ペンハリ缶に関しては鼻が成長するのが先か、中身が揮発するのが先か…俺とお前の真剣勝負。

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