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ゲランの感想2

去年末にゲランで神接客を受けてからというもの、精神がとりあえずゲラン買っとけになってしまった。ゲランちゃんは天然だけどマメなところもあり、購入履歴を見て「〇〇買われたんですねー♡」「どれもゲランにとって大切な香りでございます♡」とドンペリ開ける客を扱うようにちやほやしてくれる。同じ香水屋でも例えばジョーマローンなんかは、履歴が残らないどころか、新宿店で買ったときと横浜店で買ったときでその都度会員登録を求められ「俺のこと、忘れちまったのかヨ……!?」と悲しい気持ちになる。ディプティックはそもそも会員制度があるんだかないんだかよく分からない。ラインは繋がってるけど、俺たち付き合ってるわけじゃないってコト……!?

というわけで、お買物履歴をもとにトークしてくれるので、あんまり正規ルート以外(中古とか)で入手しようと思わなくなる。あわよくばこのささやかなお金が巡り巡ってワッサーのもとへ届き、柴犬の投稿がもっと増えてくれたら嬉しい。

シャリマー オーデパルファン

年が明け、絵の締切が終わったと思ったらまた締切、4月まで何やかや色々重なって忙しく、とても香水どころではない。買ったけど試しきれていないディスカバリーも沢山あるというのに、なーんもやる気が起こらん。今か今かと出番を待つ香水がキラキラとしたパッケージで誘惑してくる棚、それを見てピクリとも動かん疲弊しきった心。何も考えたくないけど最高に気持ちよくなりたい……そんな自堕落な期待に必ず応えてくれるのがシャリマーEDPだ。

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シャリマーEDPのいいところは、廃盤の心配がないから、体調のせいで香りが感じられなくても「ああ、貴重な一滴が……」とケチくさい気持ちにならなくて済むところ。その点、フィルトルやミレジムバニラは「余すところなく香りを吸い込んでやるぜ」という意気込みがある時しか使えない。ピタパンに似た半月型の可愛いボトルを遠慮なくシュッすると、黄金色の霧からランプの精のごとく白衣の女医が現れる。

「今日もお疲れのようですね……インド舞踊をご覧に入れましょうか?」華麗に翻した白衣の裾から、正露丸のような気難しい薬の匂いが香ってきた。それと同時に、弾けるような爽やかな甘さ……この親しみを覚えるシュワシュワ感はなんだろうか? 彼女のデスクには、金属製の筒に立てかけられた棒状の器具、クリアファイルに入ったいくつかのカルテ、真っ黒なコーヒーが注がれた白いマグカップ……ってこれコーヒーじゃなくてコーラだ! 仕事中にコーラ飲むな。

いつの間にかバックダンサーの医者も加わり、薬臭いながらもどんどん賑やかになってくる。財前教授の総回診インド編。踊り疲れると、たまにコーラで休憩する。また踊りだす。この漢方スメルとシュワシュワな甘さを行き来する感じがなんとも気持ちいい。さすがに5、6時間経つと踊り疲れてくるようで、コーラ休憩の頻度が上がり、炭酸が抜けて甘さが増していく。次第にバニラが現れ、ドクターペッパーやルートビアっぽく変化していくが、医者の清潔感が香り全体の品位を保っている不思議なバランス。

ゲランのカウンターで初めてシャリマーを試させてもらったとき、店員さんが申し訳無さそうに「バニラとか出てくるのはもっと後の方なんですけど……」と吹きかけてくれた。育ちよし気立てよし、医学部時代から真摯にお付き合いしてきた彼女と初めての夜、「ごめんね、おっぱいが小さくて……」とクソくだらないことで謝ってくる彼女を、俺は「馬鹿野郎!」と叱りつけ、それから強く抱きしめた。お前の魅力はそんなもんじゃないだろうが。それと同時に、過去の男に一体どんなひどいことを言われたのかという怒りが、俺の脳を揺さぶっていた。バニラが欲しけりゃ油すましのようにバニラエッセンス啜ってりゃ良い。俺はシャリマー、お前自身が欲しくてここに来たんだ……。

しかし、レイジーサンデーモーニングが売れるこの世の中で、シャリマーの魅力を説明することは簡単ではないだろう。軽さと重さ、さわやかさと甘さ、歴史と新しさ、全てを備えた香りが欲しいならオススメ。

シャリマー ミレジムヴァニラプラニフォリア

やはり貧乳がコンプレックスだったのか、バニラマシマシでモテを狙いに来たシャリマーちゃん。代々医者という厳しい家系(脳内設定)でありながら、前年のフィルトルといい、この娘なかなか貞操観念が危ういようである。一体どんな甘々な香りが飛び出すのかと思ったら。

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あーそっちの薬できたか! トップノートは懐かしの茶色い咳止めシロップの香り。甘苦~い中に、ベルガモットのシュワシュワと、消しゴムっぽい粉感(これがアーモンドなのか?)、少し距離を置いたところではすでにバニラの香りも感じられる。つけて10分くらいでラム酒っぽい深みのあるバニラが全面に出てハッピータイム。今夜は白衣を脱ぎ捨てて、ビター&スイートなエンドレスナイト。

気を抜いていると、普通のシャリマーEDPとあんまり区別がつかないときもあるが、とにかくバニラのコクがひときわ豊かで、孔雀の扇子で嗅覚細胞を撫でられているかのよう。それからその辺の量産型バニラ香水にはない深み、香ばしさ、華やかさが展開する複雑な香り……ラストはカスタードプリンのようにホッコリした甘さに。まさか君がこんなにグラマラスで、官能と母性を兼ね備えた大人の女性だったなんて。でもやっぱり、白衣でインド舞踊を踊る君の姿が忘れられない。

ウイエ プールプル

初めてゲランを訪れた日、「シニアフレグランスアドバイザーの方が来店しますので、フレグランスコンサルテーションをお受けになりませんか?」とお誘いを受け、照れますね~こんな新参がフレコンだなんて照れますよ~とホイホイ乗ってしまった。

フレグランスコンサルテーションとは、香りのプロが一人ひとりの嗜好を分析し、ピッタリの香りをいくつか絞っておすすめしてくれるというもの。ゲランにはアクアアレゴリア(75ml9900円)のようにまあまあ買える(?)お値段のシリーズから、最高峰のラールエラマティエール(100ml42600円)まで様々な種類の香水があるが、シニアの方が直々に見てくださるとあっては、何も買わずに帰るわけにはいかない。しかし、最近のゲランちゃんは「ラール売るぞ~~!!!!」という意気込みがダダ漏れなので、万が一おすすめ候補4つをラールで固められ黒一色、俺の財布が熱烈歓迎わんだーらんどになってしまっても耐えられるよう、しっかり予算を確保した上で参戦した。

フレコンの流れについては花子がすべて書いてくれてるが、まず最初にどんなテーマで香りを探すのか聞いてくれる。例えば春につけたいやつだとか、単純に嗅覚に身を任せて探したいとか。それからiPadで自分が好きなイメージの画像を選び、さらに蜂の巣模様の優雅なフラスコを何度か嗅いで、どちらの香りが好きか答えていくという流れ。この何度も同じものを出して順位をつけていくやつ、東方キャラソートじゃん! 天文部なのに部室で東方以外の活動を何もしていない最悪のオタクだった頃、毎日のようにソートしては秘封倶楽部が至高であることを再確認していたことを思い出し、急に死にたくなった。何度も嗅いでるとこれはシトラスだな、オリエンタルだな……とかわかってくるのだが、深く考えると予想通りの答えになってしまうので、知能を一旦ゼロにして嗅覚に身を任せるのがオススメ。 

普段フローラルばかりなので、たまには30代にふさわしくキリッと渋い香りが欲しいのだわとお伝えしていたが、やっぱり身体は正直なもので、「パウダリーフローラルとグルマンがお好きなんですね」とフローラル食いしん坊であることを普通に見抜かれた。でも最近太り気味だし、グルマンつけてたらシャレにならないところあるじゃん? あるんですわ。

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そんな感じで最終的に出してもらったムエット8点の中から、自分の好みで残したのが「ウイエプールプル」「イリストレフィエ」「モンプレシゥネクター」「ミツコ」の4点。みつこはどの店舗でも買えるし、モンプレシゥネクターはラールに比べると少し個性が足りない(そして高い)し、スパイシーなカーネーションのウイエと、アイリスとコーヒーの共演イリストレフィエで散々迷った。

最終的にイリスはちょっと鉄っぽさが出てきたので、ウイエに軍配が上がった。ここまで絞るのに超汗だくになった。値段のプレッシャーがすごいからね。ラールエラマティエールのお楽しみポイントとして、ボトルのカスタマイズがある。せっかくの紫色なので、ナスっぽく緑の紐にしてもらった。

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おナスの香水~~♪♪ トップはスパイシーで、限りなくレザーやウッディに近いフローラル。カーネーションの赤くて薄い繊細な花弁から、ほんの僅かに発する香気を見事に捉えた感じ。少しコーヒーのようなスモーキーさもあり、食いしん坊はここで甘みが欲しいな~とよだれを垂らすことになる。つけて2、3時間すると、だんだんラズベリーチョコのようなグルマン調の香りに。ただし、甘みがほとんどない。あくまでスパイシー、カカオ96%の大人のチョコレートだ。経年で茶色く焼けた書物のような雰囲気もある。公式には「エレガンスと獣性のスキャンダラスな関係」とあるが、グルマンでありながら全然甘くないもどかしさに、自分の中の腹ペコ大怪獣が大暴れしている。今現在、ここには獣性しかない。この物足りなさを飼いならせるかどうかが、エレガンスとおデブの境目になるだろう。

トンカ アンペリアル

これウィスパーインザライブラリーだ! ウィスパーインザライブラリーだこれ! ただし値段とトンカビーンの解像度はぜんぜん違う。ウィスパーはオーケストラ音源をAir podsで聴くようなもので、これはこれで良い。トンカアンペリアルは、自分の部屋にいきなりウィーン・フィルハーモニー管弦楽団がやってきて生演奏するような、セレブリティかつ爆音の驚きがある。

【ウィスパーインザライブラリー】100ml 18150円(税込)
トップノート:ペッパーエッセンス、オレンジフラワーペタルファーナト、パチョリプリズマ
ミドルノート:キプリオール、トンカビーンアブソリュ、ベンゾインサイアムレジノイド
ベースノート:バニラアブソリュ、セダー、アントレインとベチバー

【トンカアンペリアル】100ml 42600円(税込)
トップノート:アーモンド、ベルガモット、ローズマリー
ミドルノート:トンカビーン、タバコ、ジャスミン
ラストノート:インセンス、シダーウッド、パイン

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被ってるのトンカビーンとシダーだけだな……いや、結構香りが似てると思って……副鼻腔炎患者のうわ言と思って聞いていただけますか? トップはどちらも甘いなかに枯葉っぽい酸味があって、秋に小石川植物園を訪れたときの気持ちいい空気を思い出す。しかしつけて2,30分ほど経ち酸味が落ち着くと、ウィスパーがトップのアルコールの余韻をもった甘さであるのに対し、トンカは劇画調の紳士がカールした口ひげを指先で弄びながら「こんにちは、トンカビーンです!!!!」とミュージカル的抑揚で挨拶してくる。ここはもうトンカ帝国劇場。トンカビーンの実物なんか見たことないけど、ゴツゴツとしたアーモンド型の豆が、FFのクリスタルのごとく脳内でゆっくり回転し始める。

ウィスパーのミドルは、ウッディバニラオリエンタルの中にセピア色の酸味を維持して、小石川植物園から歩いて東大へ、それから神田川を超えて神保町の古本屋街といった知的都会デートのときめきを感じさせる。一方トンカは、植物園からのいきなり帝国劇場、ミュージカルの盛り上がりが最高潮。シルバーの盆を携えたボーイが忍者的身のこなしで、淹れたてコーヒーと最高級の葉巻を差し入れてくる始末。いや、こんな贅沢はちょっとびっくりするっていうか……ラストで劇場は炎上し、木造建築がほろ苦い煙をくすぶらせとてもスモーキーな香りに。

香りの系統は似ているけれど、表現している世界がぜんぜん違う。自分は古本屋デートのほうが好きだけど、トンカの驚きの超展開は他の香水で代替できるものではない。自宅で劇場を味わいたいときに。

アクアアレゴリア ハーバフレスカ

最近ゲランばっかりだったし、たまにはラルチザンでも見ようかなとラトリエデパルファムに。ラトリエデパルファムは、どのお店も大体狭くてうっすい棚壁に香水が陳列されていて、商品を見るには棚の前にゲートガーディアンの如く突っ立っている店員さんとコミュニケーションしないといけないので何となく気が重い。ゲランのようにこちらが何か言わなくても魅力的な説明をサラサラしてくれるお店なら良いのだが、ラトリエのスタッフは無言で立って見ているだけなので、「何か質問したほうがいいのかな……」とこっちが気を使うことになる。

「ラペルトワという香りはありますか?」「ラペルトワは廃盤です」「あっ、そうなんですね!」「……」しばしの間。というかラルチザンのボトルは見た目がほぼ同じなうえ、ラベルがフランス語なので、一見さんにはどれが何の香りなのかタイトルから予測することすら不可能。俺はオタクだから大体読めるけど、初めてで右も左もわからん客が来たときも、お前らそうやってボーッと客のアクションを待っとるんか?「この『しゃっせおパピヨン』というのは、どんな香りですか?」「シャッセオパピヨンですね」ムエットに3,4プッシュ気前よく吹きかけ、差し出す。「……」互いに無言。グリーンフローラルな中に繊細な花の可愛らしい雰囲気、甘すぎず、少し冬の冷たさを残した初春のイメージ……でもこれを客の方が言語化するのおかしくない? 店員はこちらを見ながら無言で立っている。これがどんな香りなのか説明してくれ、頼む……。次の指令を待っているのか、それともアホみたいな面して嗅いどるなあwと思っているのか。陰キャ特有の勘ぐりが発生し暗い気分になってきたので、「ありがとうございます」とだけ言って店をあとにした。これが月給17万の接客ッ……(何度でも言う)

被害妄想で勝手に傷ついた心を癒やすため、露天風呂に吸い寄せられる猿のごとくゲランのカウンターに逃げ込む。前に一度買っただけにもかかわらず顔を覚えられていたようで、「今日は何をお探しですか?」と暖かく迎えてくれる。はあ、ここで1ヶ月くらい湯治したい……

「ジッキーという香りを試したいのですが」「ジッキーはこちらの店舗には扱いがなくて……オリエンタルな香りをお探しですか?」「いえ、とりあえず人気の香りをと思って……」「うーん、人気の香り。少々お待ち下さいね」ミーハー丸出しの問答にもかかわらず、こちらの言葉をきちんと拾って考えた上で返してくれる。これだけでもう泣きそう。今度はこちらがボーッと突っ立っているだけになってしまったが、その間にも、アクアアレゴリアをいくつか吹いて用意してくれた。「こちらの『ココナッツフィズ』と『パッシフローラ』と『ジンジャーピカンテ』は廃盤になってしまうので、もしお好きであれば今のうちがオススメです」アクアアレゴリアは正直若い人向けの薄味香水だと思っていたのでノーチェックだったが、いざ目の前に出されるとテンションが上がるものである。しかしどれも甘くて透明で、夏なら良いけど通年はな……(わがまま)そういえばフォロワーの皆がやたらハーバフレスカ持ってたな。試してみると、すっごい白詰草の野原がムエットから飛び出してきた。

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「アクアアレゴリアは『庭』をテーマにしておりまして、庭の中にも甘い香りの花や、果実を実らせる木、草が生い茂る場所があるように、いろいろな香りが合わさって一つの庭を構成しています。そのため、それぞれの香りを『ミクソロジー』といって重ねて楽しめるようにも作られております」そういえば、何気にジョーマローンのコンバイニング概念よりこっちのほうが古いんだっけ……ていうかエルメスもグッチもゲランも皆香水で庭を作ってるな。一緒に枯山水やったら盛り上がりそう。「ハーバフレスカはまさに芝生の上を歩いているかのような清涼感で、他の香りとも合わせやすく、1本持っているととにかく便利ですね」あえて冬にこの容赦ないミントを浴びたら気持ちいいだろうなーと思い、購入。何より、香水の説明をしてくれることが嬉しくて……(コスメカウンターをキャバクラみたいな使い方するな)

刈り立ての芝のようなグリーン、レモンとミント、肌にスーッとくる冷たさが期待以上のリフレッシュ効果をもたらし、家で作業の日はファブリーズ感覚で朝から夜までに10プッシュくらい使う。生まれてはじめて香水1ボトル使い切るかもしれない。ハーバフレスカは、パンプルリューヌと共に1999年の初代アクアアレゴリア発表時からずーっと廃盤にならず残り続けている香りだそうで、個性と使いやすさを両立している納得の実力。次はパンプルを試しに行こう。ラルチザンは通販で買います……(ゲランの話をすると何故かラトリエの悪口になってしまうが、自分の最寄りのお店がトレーニング不足なだけで、ちゃんとした店舗も多分どこかにあると思います。)

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