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ペンハリガン ポートレートセントライブラリーの感想

先日のサロンドパルファン2021でめでたく購入に成功したポートレートセントライブラリー。最初は10人もいたら区別なんてつかないよ~と教育実習に来た大学生みたいな気持ちだったが、公式の説明を見ながら一つずつ試していくと、フワフワのフレーバーテキスト故にいくらでもアホな解釈ができてしまうことに気づき、深読みをしすぎていつの間にか自分の手首が昼ドラの舞台になってしまった。やめて! 私の肌の上で争わないで!

ちなみにポートレートを試している期間中に副鼻腔炎と診断され、鼻がバカであることが公的に証明されてしまったので、「そんな香りじゃなくね?」という部分も大目に見てください。あわよくば皆さんのポートレート感想を聞かせてください…お願いします(懇願)

ザ トラジェディ オブ ロード ジョージ オードパルファム

イカれたメンバーを率いるトップオブトップにふさわしく、角がシャキーンと尖ったボトルが超かっこいいんだけど、中古市場ではだいたい折れてて家族から見放された中年男性の哀愁を感じる。苔っぽい苦味の中に歯磨き粉のような清涼感。お酒の香りが申し訳程度に深みを与えている。ボトルの見た目ほど香りに重厚感がないのは、身分の高貴さに対して威厳が足りないことをほのめかしているのか。毎朝ニシンの燻製を食べながら「やる気があっても、肉体が弱いと何もできない」と体力の低下について愚痴ってくるらしい(公式)。そういや昔ブラック企業で働いてたときパートの婆達が病気と葬式の話ばっかりしてたな~と思い出したけど、彼の「体力ないとなんもできないわ~」はそういう老人のうわ言ではなく、なんとストーリーの伏線らしい。

ザ リベンジ オブ レディ ブランシュ オードパルファム

レディブランシュ(ジョージの奥さん)は一体誰にリベンジしようとしているのか? その謎の鍵となるのが「秘密の女、クララ」なんだけどクララこのセットにおらんやんけ! ジョージとの不倫がバレてばっくれた感。そう、ブランシュ夫人は毎晩姿をくらましクララとよろしくやってるジョージをブチ殺そうとしている訳ですね。毎朝言ってくる「やる気がない」ってそっちのヤル気かーい。ちなみにフランス語でmariage blancは「性関係のない結婚」という意味があるそうです。それにしても、正当な法的手続きで攻めるより殺したほうがお金いっぱいもらえるって判断すごいな。

香りの方はブランシュという名前の通り、球根系の白い花の凛とした佇まいを感じる。ただ、世間一般の色んな花を取り入れた明るいフローラルと違って、あまりにも白い花ばかり集めすぎて、どこか葬式っぽい寂しさもある。そして、つけた部分に鼻を近づけると、ユリの花粉のように濃厚な香りがムワッと押し寄せてくる。この花粉の香りが親密な距離でしかわからないというところに、このレディブランシュというキャラクターの特徴が出ているなと思う。もう生殖なんて一生しませんよなのか、誰か私の寂しさに気づいてなのか。両方かもしれない。

あと鼻がバカだから当てにならないけど、全然表記にないシトラスの気配があり、サウザンドカラーズのM1971(ホワイトネロリとジャスミン)にも若干似てる。同時につけるとレディブランシュが早々にどこかに行ってしまうので、やはりペンハリガンは拙者の鼻に厳しいでござる。

ザ コヴェテッド デュシェス ローズ オードパルファム

酸味とグリーン感がほどよく、みずみずしい気品のあるローズだが、それ以上でもそれ以下でもない。ジョージとブランシュの間に生まれた家柄・容姿ともに申し分ない娘だけど、「上品でいなさい」「バラの香りさせときなさい」と親に言われるまま諾々と従い続けた結果、個性も意思もないつまらない人間になってしまったというストーリーを感じる。世の中に魅力的なローズ香水が山程ある中であえてこれを選ぶ理由がない悲しい香り。1ボトル36300円もするのにこんなキャラ設定で大丈夫か?

マッチ アド アバウト ザ デューク オードパルファム

こちらのネルソン公爵だけ、何回つけても全く匂いがしない。レビューを見ると皆ローズでウッディって言ってるのに…皆には一体何が見えているというの!? 5回目くらいで、やはり全く臭わない腕をスンスンしながら、これは自分の鼻がおかしいんだなと思い耳鼻科で鼻水を吸引してもらった。(もっと早く病院にいけ)

うおおーーーー!!!ローズでウッディ!男性のワキにも似た、スパイシーで酸味のあるローズッッ。同じペンハリガンのハルフェティもこんな男の薔薇♡♡だった気がする…と思って比べてみると、ハルフェティの方は超お酒が効いてて、酔っ払いがレストランのドライフラワーを勝手に持って帰ってきちゃった感じ。ハルフェティの感想を書いたときルラボのローズ31に似てるといったけど、ネルソン公爵の方がシラフで落ち着きがある分もっと近い。これまでのレビューは一体…? 鼻詰まりの戯言は一切信じるな。

しかしオードパルファムのくせに2時間で何事もなかったかのように消え去る。奥さんのローズちゃんが「ねえあなた、今夜は…」と話しかける前に「じゃっ俺桜木町にお芝居(意味深)見に行くから」と風のように飛び出していく様子を表現しているようである。きれいな奥さんをほったらかして夜な夜な通う劇場なんかもう一つしかないんですわ。

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ザ ビーウィッチング ヤスミン オードパルファム

ビーウィッチングって何やろ…蜂を観察したりするんか? と思ったがbewitchingで「うっとりさせる」という意味らしい。アラブ商人ソーハンの妹ということで、スパイスを煮詰めた系かまたはヤスミンという名前的にチュベローズ官能系フロリエンタルを想像していた。ところがつけてみると、優しいバニラにカルダモンが爽やかさを添え、コーヒーという身近なフレーバーが合わさって親しみやすい印象。ペンハリガンにしては珍しくちゃんと香りが鼻に届いてくる。自分(の鼻)に優しくしてくれる美女というだけでポートレートシリーズNo.1決定です。

チェンジング コンスタンス オードパルファム

塩キャラメルッ! 香水ってこんなに塩の匂い出せるんだ…と驚くくらい塩。ウッドセージシーソルトとかもうソルト名乗っていいレベルじゃないよ。キーノートにあるタバコはあんまり見当たらない。コンスタンスちゃんはタバコとか言いたいお年頃なんだけどキャスターみたいな甘くて軽いやつを1日1本って感じだよね。前項のヤスミンがラトリエデパルファムにいないのは何でだろうと思ってたけど、同じグルマンでキャラ被りしててコンスタンスちゃんのほうが売れそうだからかな。フルボトルを買わないと出れない部屋に閉じ込められたらこれを選ぶと思います。

ザ ブレイジング ミスター サム オードパルファム

説明に「情熱的なアメリカ人」とあるように、ほの甘いコロン臭にスパイシーな汗の香りが加わってザ・アメリカ人の体臭という感じ。アメリカ出身のルラボのサンタル33にも似ていて、サムのほうがタバコ抑えめでマリンっぽい爽やかさがある。

公式ポエムの最後に「これから彼は、先日会ったばかりのローズ公爵夫人の手ほどきを受けるのです」って書いてあるけど、ローズちゃんはネルソン公爵と結婚してるわけで、まーた不倫か…上流階級とか言いながら貞操観念は動物並ですわいと半ば呆れながら、折角なのでローズと重ね付けしてみる。すると、あの無個性なローズちゃんが、ついさっきまで間男といたけどそんな素振りも見せず夫に微笑みかけるエロ同人のオチみたいな妖艶さを漂わせるではないですか。こんな遊びをするためにボトル2本買わせる気なの!? ペンハリガンのエッチ! 人でなし! たんぽぽ野郎!!

ハートレス ヘレン オードパルファム

トップノートは果汁グミぶどう味を思わせるお菓子っぽいフルーティー。果汁グミおいしいよね、わかるわかるとグミを追いかけているとすぐに違和感に気づく。いやこれはグミではない…我々もよく知るあのチュベローズではないか!! まあ魔性の香りと言うからには当然出てくるでしょう(チュベローズへの風評被害)。ところが今回は全然官能の気配がない。ドソンなんか開幕からサンバカーニバルなのに、ヘレンは夕ごはん一緒に食べたら「ごめん、このあと語学教室があるの」とか真面目っぽい理由でサラッとかわしてくるタイプ。ええっそっちから誘ってきたのに…! まあ焦っても仕方あるまい。締めのオレンジソルベを食べながら、次会えるのはいつかなー、それとももう諦めた方がいいのかな、と何だか盛り上がりに欠ける香り。

運良く手をつなげたり、猛アタックの末同衾に成功し、体温が上がってくるとチュベローズもそれなりにハッスルしてくるが、底にあるセロリっぽい冷たい苦味が「私は本気じゃありませんよ」と一線を引いてくる。

それでも官能官能じゃないチュベローズの新鮮さ、柑橘のさわやかさに、またつけてみようかなと思わせる良さがある。今日こそいつもと違った表情を見せてくれるかもしれないという期待もある。ヘレンという女の子の、本気にはなれないけどつい何度も会ってしまうキャラをよく表している香りだと思う。

テリブル テディ オードパルファム

トップは畳のようないぐさの香りがして、テリブルテディは茶人だった…!? と驚くものの、すぐに胡椒やベチバーといったハーブっぽい辛味が「俺はワルだぜ」と言いたげにツンツンアピールしてくる。しかしムスクのおかげかそれほどキツい印象はなく、ユニクロでメリノウールセーターを買ってすぐ着るときのような羊毛のほっこり臭にも似ている。

公式によると「テディはついに理想の女性に出会ったと思っていました。(中略)テディが本気で恋に落ちてしまった相手は、ヘレンではなく、ネルソン公爵だったのです!」ということで、はーまた不倫…ん?

さすが上流階級、ジェンダーフリーなライフスタイルで恐れ入る。ネルソン公爵が通ってる劇場ってマジでどういう劇場なの? テディが踊り子説はまあわかる。問題はお互いに普通の観客である場合。「はあ今日のポールダンスも最高でしたね!」「ああ!」(ガシッ)(熱い握手)ってなるのか? 映画デートみたいなものなのか。しかし公式のオススメとあらばこちらも重ね付けせねば無作法というもの。ネルソンくんはトップノートはザ・清潔っぽいのにすぐに汗まみれになってしまうので、大方の予想通り、両者を重ねづけすると一人暮らしの大学生の部屋みたいになります。別に悪臭ではないけれど、テディが持ってるほのかなお米っぽさと、ネルソンのすっぱいローズが変な仕事をして「やっべまた皿洗いと洗濯忘れちゃった」的なだらしなさを感じる。それぞれ単体では強い香りではないけれど、同時につけるとネルソンがかなりオラついてくるのでテディが受け。

ジ イニミタブル ウィリアム ペンハリガン オードパルファム

無類のミスターペンハリガン! ポートレートライブラリーを試すにあたり、実は最初にこれを手にとった。ジョージとかは会ったことないからいきなり体臭を嗅ぐ距離感じゃないんだけど、ペンハリガンさんにはいつもお世話になってるし、ちょっとくらいご本人の香りをチェックさせていただいても差し支えないだろう。それに、まず初めに創業者にご挨拶するのは当然のこと。ホリデーのミニボトルのフタ何とかしてください。

ペンハリガン自体が理髪店から始まったということで、トニック系やシャボン系、もしくは白衣をイメージして清潔感をアピってくるんじゃないかと予想。でも調香師=白衣ってジャック・ゲランのせいでそういう印象あるけどジャック違いのキャバリエはユニクロみたいな服(下の写真)着てるしなあ…こういう日曜のパパタイプだと新聞とコーヒーの香りがしそう。

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よく見たらファスナーがヴィトンだ!! ユニクロとか言ってごめんなさい。で、ミスターペンハリガンはどういう格好をしていたのかというと。

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あーなるほど、いかにも英国紳士。シャーロックホームズの小説に出てきそう。上記のいかれたメンバーの痴情のもつれに巻き込まれて真夜中に泣きながらベイカー街の家を訪問してきそう。では、そんな紳士のスーツの内側はどんな香りがするのだろうか?

ジンジャーエールのような酸味と甘味、そこにミントっぽい一本通ったメントール感。しばらくするとマリービスケットのようにサクッと軽快なバニラが登場する。紳士どころか小学生のおやつである。これの正体はなんだろうと思い、公式HPで答え合わせをすると、ベルガモット、ジャスミン、ベチバー/ インセンス、シダーウッド/ サンダルウッド、アンブロックス。何一つ当たってないやんけ!! まあでも自分の肌では2時間もするとかすかなソーダとビスケットの香りに落ち着いてしまい、おやつを食べ残して帰っていくウィリアムの気配がそこにあるのみである。

こうしてみると、この10人の中でミスターペンハリガンが一番無垢でやましいところがない。「この人達をモチーフに香水作ったろ!」というヤバめの思いつきが許されたのも、少年のように無邪気な人柄ゆえなのかもしれない。いやその割にはバッチリ下ネタ入っとるがな。

10人は多いな~と思っていたのに、いざ全員書き終わると、ここにいないメンバーのことが気になって仕方がなくなる。ビッチのクララや、パステルカラーで可愛い二人のいとこ、今は亡きスコーン職人ドロシアおばあちゃん、早漏のラドクリフ…こうしてまた彼らに会うために店頭に足を運ばせることが、このあまりにもお得すぎるポートレートセントライブラリーという商品の真の目的なのでしょう。ボトルの実物をみるとあまりのかっこよさに驚く。本当の貴族のように首の剥製は飾れなくても、香水瓶一つくらいなら家に置いてもいいんじゃないかと思ってしまう。まあ値段を見て正気に戻るんだけど…

新作が出たらチェックしてしまうと思うので、しばらくこのメンバーだけで大人しくしていてほしいです。

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