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市民オペラに参加するということ 7

休憩時間になると、会の人たちが話しかけてくれる。懐かしい、戻ってきてくれてうれしい、とみんな口々に言ってくれる。もちろん私のほうも同じ気持ちだ。コロナ禍で、も大きく影響していると思うが、私が「カルメン」をやっていた頃に比べると、会員は減少してしまっていたので、みんな単純に、仲間が増えることがうれしいのだろう。私が知らない顔は一人しか居なかった。私より一ヶ月早く加入した、音楽高校在籍の高校生だそうだ。そんなに若い子が、どうして加入しようと思ったのだろう。今度聞いてみよう。

会員は60代が中心だと思う。男性は女性に比べるとかなり少ない。演出上それでは問題があるので、前回は本番近くになると、音大の学生や駆け出しのプロなどの男性が、助っ人として加わっていた。「カルメン」をやっていた頃は、現在40代後半の私より若い人も何人かいたが、若い人たちはほぼ消えていた。逆に90代の人も居たのだが、その人もいらしていなかった。前回、年だからもうやめる、とおっしゃっていた80代男性は、まだ元気に通ってきておられたので、なんだかうれしい。そんな中、高校生は珍しい。そんな状況だから、会は会員を増やしたいのだろう。

休憩が終わると、合唱祭で歌うという歌の練習になる。会員のリクルーティングも兼ねているのだろうが、欅の会は今年から合唱祭に参加するのだという。合唱祭は一ヶ月後だそうだ。私は今日は見学だし、もし加入するにしても、入ったばかりなのに果たしてそんなところに出られるのかどうか不明だが、とりあえず歌は練習する。

合唱祭の歌をやってくれればいいのに、先生が練習を始めたのは、オペラ「カルメン」の中の「ハバネラ」だった。私が以前この会でやった歌だ。3月にやる、別のイベントで歌うのだそうだ。歌詞もまだだいぶ覚えているし、この曲については問題なく歌える。いい曲だが、合唱祭が迫っているのだし、個人的には新しい歌のほうをやってほしい。

次にやったのはオペラ「椿姫」の中の「乾杯の歌」だ。これは合唱祭で歌う歌だ。椿姫はやったことのあるオペラなので、当然曲は知っているが、私が前回やったのはイタリア語だったのに、今回歌詞は日本語だ。歌詞がわからない。曲を知っているのだから、歌詞を日本語に変えるだけのはずなのに、それが意外に難しいのだ。通しで2回しかやらなかったので、歌詞をうまく捉えられないうちに終わる。

3曲目も合唱祭用の曲で、オペラ「ナブッコ」から「行け、我が想いよ黄金の翼に乗って」だった。ナブッコはやったこともなければ曲も知らない。それなのにこの曲に限っては、イタリア語で歌うらしい。メロディも知らなければ歌詞もイタリア語の初見なら、歌えるわけがない(イタリア語の読みは、以前イタリア語講座をラジオで聞いていたので、だいたいわかる)。それなのにこの曲は、会の人たちはもう歌い慣れているらしく、一から教えてくれたりはしない。私は付いていくだけでも精一杯なのに、先生は音楽的表現まで求めてくる(当たり前だ)。こんなことでは、合唱祭には間に合わないかもしれないな、と私は思う。そうこうしているうちに、この日の練習は終わった。「ナブッコ」はまるで歌えないが、でもまあなんとかなるだろう。なんとかならなかったら、その時にどうすればいいか考えることにしよう。私は見学参加したその日のうちに、正式に会に復帰すると回答していた。

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