BOT2巻の狂い感想
2022年に書いた2巻の感想を公開します。各チームについて書いていますが、MJに関する内容が多めかもしれません。オタクによる感想文なので偏りがある前提でお読みください。
はじめに
2巻の刊行は2021年の7月中旬。
1巻発売以降の動きとしては、新しいアルバム『BATTLE OF TOKYO TIME 4 Jr. EXILE』の発売や、展示イベント、『BATTLE OF TOKYO OFFICIAL STARTING GUIDE』の発売があった。コロナ自粛で展示イベントに足を運ぶことができなかったが、イベント開催期間に発売されていた『BATTLE OF TOKYO OFFICIAL STARTING GUIDE』と、この書籍の再編集版は購入済みである。そのため、キャラクター設定については本編情報に加え、この本で明らかにされている設定にもふれるものとする。
新しいアルバム楽曲のPVの内容は各チームの1巻での動きを描いたものとなっている。BOTのプロジェクト自体がマルチに展開するものなので小説だけで完結するわけではなく、PVで再構築された小説の場面を見た結果新しく発見できる要素もあり面白かった。
視線や表情の情報が加わったので、JBがハッキングで乗っ取ったドローンに気づいてるキャラクターがいることに気付けたのが収穫。
スマッシュ、チャッター、ゴエモンは監視に気が付いている模様。2巻でJBはMJ以外のチームのその後の動きを確認しているが、MJの本拠地は特定されていない。RSは本拠地が企業の本社みたいなものだし、別にやましいところがないのでドローンの破壊の必要性がないと判断したのかななどと推測してみた。あとゴエモンの居合斬りのシーンめちゃくちゃ良い。解釈に合う。『UNTITLED FUTURE』のPVでは各チームの日常の何気ない場面が描かれているので短い映像ながらキャラクターの解像度が大幅に上がる。MJは探偵事務所のオフィスで集まってるところだと思われる。ゼロが話している横にどっかりと座って眠ってるスマッシュに、ちょっと焦ってる様子のパルテ(たぶんスマッシュが寝てしまってるのを気にしてる。身体が大きいのにコンパクトに座っている感じが可愛い)。みんな好き勝手にしてるなかで、最後まで気を抜かず真面目に話を聞いてくれそうな最年少。ロッソは反対側のソファを丸々使って堂々と爆睡してるようなのに放っておかれているのが面白い。チャッターはノリノリでゼロに応えていて、その隣にはマサトがいるのだが、2巻まで読んでおくとこの2人が並んで座っていることの味わい深さが増す気がする。そして少し後方からチームを楽しげに見守るシャーロックの器の大きさ。各々好きなように振る舞っていても成立するチームの在り方が見て取れる。
RSは大人数なのもあっていくつかのまとまりができている感じ。みんながご飯を食べているのは2巻で登場する料理屋か。ベイリーがルプスを仲間の輪の中に導いているのが良い。トラヴィスが2人が来たのに反応してジョッキを掲げてるところからも仲の良さを感じる。それぞれ仕事してきて合流したところなのかもしれない。プロフィールからベイリーは一人きりの寂しさというものを理解していて、ルプスは仲間を想うが故に巻き込まないように離れる選択をしがちだということが推測できるので、こういう場面があるとすごく安心できるし、あたたかい気持ちになる。ゴエモン、キサラギは画面奥でお酒を飲んでいる。この2人は賑やかな仲間たちの姿やRSという居場所がこうして存在することを静かに見守るタイプのよう。
A9はショーが始まるまでの時間を自由に過ごしている。とてものどか。ハジメが料理をしているのをテクウがスキルで手伝いながら雑誌を読んでいる。スキルを攻撃の手段としてだけでなく、ショーや人助け、日常のことなどいろいろな目的で使用しているのはA9のチームとしての個性かもしれない。武器というより特技みたいな受け止め方をしているように見える。ハジメの横でガツガツご飯食べてるカグラの表情に笑った。ハジメが料理する横にずっとはりついてて「わかったわかった。もうすぐできるから先に食ってろー」となったのかもしれない。
JBはゲームで対戦したり、露店で怪しげなもの買おうとしたり、ハッカー集団の色が出てる。やはり年長組のユキが見守り枠のようで、それ以外のメンバーはだいたい自分の興味あることに夢中な様子。クロードが一人で黒猫と遊んでいるのは2巻を読むとさらに納得できる。黒猫なのも何か理由があるのか気になるところ。バタバタしつつも楽しげに過ごしているJBのみんなに対して背景は電柱が倒れ瓦礫が積み重なった廃墟・池袋なのがとんでもなく切ない。『Alternate Dimension』はジュニエグで歌っている楽曲で、BOTの世界観全体を描いたような楽曲。アニソンのOP的雰囲気も感じられるサウンド。『UNTITLED FUTURE』はED色がある。ところでアニメ化して劇中で各グループの楽曲のピアノアレンジとかが流れたら泣く気がする。平行世界にGENE、RMPG、FANTA、BBZが存在するならやってくれないだろうか。
アルバム収録の『LIBERATION』、『CALL OF JUSTICE』、『PERFECT MAGIC』、『VIVA LA EVOLUCION』の4曲のタイトルは2巻におけるキーワードなので、これらに関しては後述する。仕掛けとして『VIVA LA EVOLUCION』のカタカナ歌詞は他のチームの楽曲の歌詞と一致しているのでハッキングでデータを引っこ抜くとか、スキルを簒奪して自分達のやり方で使用することを示しているようで素晴らしい。カタカナなのは単に取ってきた歌詞だということの強調かもしれないけれど、この歌詞全体に上手く溶け込めていない不気味さがあって良いなと思った。
幕張ライブや1つ目のアルバムのことは2巻よりも3巻と直接の繋がりがありそう。
2巻での流れ
A9のパートで出てきた日付の手がかりをもとに考えると1巻からたいして日数が経過していないことが分かり、やや意外だった。(MJが飛行船でダヴィンチの新作を盗んだ時点か2巻までで1ヶ月くらいしか経過していない)以下のような流れと思われる。
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4月6日:
・MJがダイヤを盗むため、グランドセントラル美術館に侵入(マスコミ報道なし)
・RS、ファイナルファクトのオークション会場の警備にあたる。
・シャーロック、オークション会場から混沌の書の一冊を入手する。
・JB、各チームの観察を開始する。
4月10日:
・A9、アストロパークにて事件解決。ギャングから女性(アカリ)を救出。
4月11日:
・A9の団長が誘拐される。
・JB、隠れ家にてブルーシールドと交戦。
・RS、MJに対抗するための調査を開始。オークションに関わったファイナルファクトの情報を得る。異能犯罪対策部隊のイヌイと接触する。
4月12日:
・MJとRS、カジノホテルにて交戦。シャーロックがRSによって拘束される。残りのメンバーは一旦撤退し、計画にシャーロック奪還を加える。
4月13日:
・A9、団長誘拐に関する手がかりとして、「ブルーシールドのアストロパークへの入場記録」、「JB侵入の痕跡と思しきスプレーアート」を発見する。
・アストロパークを出て調査をしていたA9のハジメ、ディル、カグラ、ケインが新宿にてイヌイと接触する。(イタル、テクウ、カラス、アリアはアストロパークに残り、調査を継続する。)A9、ブルーシールドと一時協力体制をとる。
・A9とJB、池袋にて交戦。JBは一時撤退し、二手に分かれてアストロパークを目指す。
・リブラ、フローリー、Xはリニアレールで移動中にA9の追跡を振り切る。フローリーの姉に車を手配してもらい、アストロパークを目指す。
・地下鉄で退避していたユキ、スキート、フューチャー、クロードの4人がRS拠点にてRS所有のヘリを奪取。RSと交戦(スキルを用いて遠隔攻撃を受けたため対面はしていない)の後、ヘリを破壊しアストロパークの中心地へ向けて移動。
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ただ、1巻エピローグで同時に起きているであろう出来事と2巻での各チームの動きが噛み合わないことが気になる。(自分が読み違えている可能性もある)
1巻ではまだチーム同士が今後深く関わっていく可能性が示されただけであり、どちらかというと個々のチームの紹介を中心とした内容だったように思う。2巻では1巻での流れを受けて各チームの動きがより活発になり、チーム間での戦闘が起こるだけでなく、各登場人物の描写が格段に増えた。1巻に比べてかなり厚みのある内容になっていると思う。会話や独白、回想パートだけでなく、スキルや戦闘スタイルなどを通じて登場人物を描写しているところが良かった。
スキルのこと
スキルにはコピー、プロテクト、コンバージョン、スキャニングというベースが存在するが、そのスキルを使ってできることには得意不得意があること、スキルの細かい特性とパーソナリティには結びつきがあることが物語の中で説明されている。MJの場合は自分が得意とする対象であれば素早く大量にコピーでき、精神消費(スキル使用時に発生する。精神消費による負担が増すとスキルが使用できなくなったり、意識を失う場合がある)も抑えられるとのこと。チャッターは銃全般、マサトは爆弾の類のコピーを得意としており、パルテは衝撃波など、物体以外をコピーすることができる。スマッシュは元々の身体能力が高く、戦闘スタイルもいわゆる肉弾戦なので様々なガジェットを作り出して自身の能力を高めるといったスキルの使い方をする。はじめのうち、ハデスはスマッシュがコピーで鎧のようなものを作っているだけだと考えているのでコピースキルを「プロテクトの劣化版」とみなしているが、その後の戦闘でプロテクトによる防御力を上回る攻撃が可能であることや、敵の攻撃を回避する手段としても優秀な能力であることが描写されている。シャーロックの場合はおそらくコピー対象の多さと精度の高さが特徴。そのため怪盗としての仕事で行う工作面でも能力を発揮している。ゼロ、ロッソに関しては具体的なスキルの特性が判明していないところに底知れなさを感じる。RSは肉体にプロテクトをかけた場合、防御力が格段に上がる、打撃技の攻撃力が増す、身体能力そのものの飛躍的な上昇(筋肉などにスキルを作用させることで、身体の可動域を広げたり、肉体への反動を抑制して通常ならありえない動きを実現させる)などの効果が得られる。その他のスキルの使用方法には武器の強化や電子プロテクト(超強力なファイアウォール的なもの?エイノットの得意分野、あるいは固有スキルと思われる)があり、単純にプロテクト=防御特化スキルというわけでもない幅広さなのが面白い。A9のスキルは使用者ごとの独自性が強い。魔術と称されているだけあり、炎、風、磁場など自然を利用した能力や、硬度の変換や召喚のように物理法則を捻じ曲げるような不思議な能力を使用している点も特徴的。作中ではこれが「魔術とは混沌を引き出し世界のルールを変える業」と説明されている。想像力もスキル使用時に重要になっている様子。また魔術の説明の中に「混沌」という言葉が使用されていることは本編におけるファイナルファクトの謎との関わりを示唆していると思われる。現時点でA9だけ、団長という魔法使いの弟子のような存在であるため、スキルとの関わり方が特殊に思えるのでそのあたりにも注目したい。JBのスキルは他者のスキルを使用できるというもので一見チート級能力に思えるがその分スキル使用時の制約によって調整を受けている。制約はスキル使用時に受ける身体、精神への反動が大きいこと、1人が一度に使用できるスキルは1つまで、スキルを別のものに切り替える際にラグがあるといったもの。1巻時点ではスキルの威力はオリジナルに劣ることも説明されているので、単純に相手のスキルをスキャニングしてそのままぶつけるやり方だと互角にすらならない。これらの特徴を考えると、使用できるスキルは自由に選択できるので相手の弱点をつけるスキルを見極めて使用する、複数人で同じスキルを発動させて威力を上げる、スキルを組み合わせて使用するといったことを行ってスキャニングの問題点をカバーする必要がある。2巻ではA9やRSとの戦闘においてこの辺りが上手く描写されていた。またJBのメンバーはスキャニング以外にそれぞれが特殊技能を身につけていて(これらの技能はピッキングとか、銃火器の扱い、ヘリの操縦といったもので超能力の類ではない。)それを使って上手く問題解決をしている。
戦闘スタイルについて
ジュニエグのメンバーそれぞれが自身のキャラクターメイクに関与している(用意された質問フォーマットに回答するような形でキャラ設定のベースを作ったらしい)ので、キャラクターの性格だけでなく戦闘スタイルにも中の人ネタのようなものが含まれている模様。例えばハデス(LIKIYAさん)やベイリー(RIKUさん)は格闘技を使用しているし、ミーヤ(カミケンさん)は琉球唐手を使うのでここに沖縄要素が出ている。グスク(ルイさん)は名前の由来が沖縄で城塞をあらわす言葉である「グスク」であることと、口調に沖縄の訛りがあるあたりに中の人のルーツとの関連性が見てとれた。
中の人ネタ的なものだけでなく、キャラクターの過去や経歴をふまえると納得できる戦闘スタイルが設定されているなと感じられる場面も多くあり、楽しい。ゼロはMJ結成前から戦闘経験が豊富であり、殺しの技術を身につけているという設定なのでCQC(近接格闘。軍人などが用いる。)を使用している。専門的かつ無駄がない印象。同じくJBのユキもとある組織で暗殺者をしていた過去があるため、コピースキルを使用して出現させる銃がアサルトライフルだった。アサルトライフルとされるものには89式5.56㎜小銃(自衛隊で採用されている銃)や、AK-47(ソビエト軍の正式採用ライフル)などがあるが、コピースキルは触れたことのあるものをコピー生成するというものなので、ここでそういった実戦向きな武器をコピーしていて良かった。(AK-47については様々な環境で使用できることや故障の少なさが特徴として挙げられている。)対してチャッターは銃を武器として使うが、おそらく大嵐が起きる前はごく普通の青年だったと思われる。また、チャッターチャンネルでモデルガンの紹介をしているところでマニア的な面も描かれており、チャッターのパートで登場する銃にもそういった設定が反映されているように思えた。たとえばチャッターチャンネルで紹介している「コルト・ピースメーカー」はコルト社によって1873年に製造開始された民間向けの回転式拳銃「コルト・シングル・アクション・アーミー」のこと(ピースメーカーは通称)でこれは西部劇とかに出てくるような撃鉄の付いている拳銃。「P24ニードルガン」が具体的に何の銃なのかは不明だが、SFに出てくるような架空の武器でないとするとAPS水中銃みたいなものかもしれない。一応陸上での使用も可能のようだが射撃精度が落ちたり、銃身の消耗が激しくなるようなので、ゴエモンに対して何の銃なら効くのかを試すために、弾薬の形状を変えてある程度連射できる銃を使ってみたといったところだろうか。(ニードルガンを出す前にショットガンで撃って大量の散弾で包囲するような攻撃が効かないことを確認している。)プロテクトを破ってダメージを通した「M500マキシン・カスタム」に該当するのはS&W M500か。一応片手で持てる銃ではあるけれど高威力のため、それだけ撃つ側への反動も大きい。実際の射撃動画を確認してみると、数メートル離れた位置から撃った弾が鉄板を貫通してその先にあるコンクリートブロックを粉々に破壊していたので、改めて完全に敵を殺すつもりで攻撃していたんだなと思った。骨折程度で済んでいるゴエモンは間違いなく強いのだが、こんな威力の銃を2挺持って連射しているチャッターの腕の強靭さが怖い。(装弾数はS&W M500と同じ5発なので、この銃は威力を上げるために銃身かなにかをいじっている可能性もあるので余計に扱いづらそうである。それだけ高い技術を持ってるということなのかもしれない。)このようにチャッターの使用武器には使える場面が限定的だったり、総合力よりもどこかのステータスが突出してるようなものが登場していて、同じタイプの武器を使用する場合でも登場人物ごとの個性が見えてくるので読みごたえがある。
バトルシーンと決着の付け方
各々のスキルや設定盛り盛りな部分を上手くまとめるのも大変そうだが、やはりBOTの登場人物≒ジュニエグメンバー的なところがあるので強さ設定やバトルにどう決着をつけるかも重要だという気がしている。シャーロックが拘束された(連れ去られたわけではなく、RSに捕まえられることに同意したような形)ことを除くと一方がもう一方を取り逃すような形で戦闘が終了しているものの、このことでそれぞれの小目標達成のための各チームの動きが妨げられるといったこともなく今のところ違和感なく区切りが付けられている印象。
単純に攻撃力勝負という形にしてしまうとバトルシーンの描写も単調になるので、先ほどスキルや戦闘スタイルの箇所で触れたような要素で変化を持たせている。また、マサトの目(赤外線や電磁波を視認できる。視認可能な対象の範囲、条件は不明)のようなベースのスキル以外の特殊能力も作戦と戦闘に活かされるのでここも注目すべき点だと言えるだろう。
・MJ vs RS
お互いに相手のスキルのことを知らない状況での戦闘。シャーロックはカジノホテルでの仕事の作戦を立てているが、「特殊な能力を使用するRS」が障害となることを2巻の段階では想定していない。RSは2巻前の調査パートでスキルに関する情報を手に入れているのでここでもMJは分が悪い。シャーロックは1巻でRSのいるオークション会場から古書を入手することに成功しているが、ここでRSのメンバーと接触することはなかったためこの流れは自然だと思う。そのためRSの不意打ちと包囲を受けることに。RSのスキルは攻撃力、防御力を共にあげるタイプのものなので特にひねった使い方をしなくともかなり強力なので、スキル面でもRSの方が有利に見える形でバトルパートが進行していく。マサトが奇襲を受けて一時戦闘不能状態に陥るため、チャッター(銃)vsゴエモン(日本刀)、スマッシュvsハデス(共に格闘。ハデスはボクシングをベースとしたスタイルで戦う。)という1対1の形となり、ホテル内に残っていたシャーロックとゼロもルプス、ベイリーとそれぞれ戦う。メインとなるのは屋上で戦っているチャッターたちの方という感じ。ゴエモンがチャッターに対してプロテクトというスキルの情報を明かすが、これは単に本来通るはずのダメージが通らないことのタネ明かしにすぎず、チャッターはここから敵にダメージを与えるのに有効な手段を武器の切り替えと、観察によって探っていく。ここで彼がゴエモンだけではなく、スマッシュとハデスの戦闘の分析をしてプロテクトの穴とも言うべき「大きすぎる衝撃はスキルで防ぎきれないこと」を見抜いているのがすごい。ゴエモンとハデスは共にRSのトップであることを考えると、それほど強力な敵の猛攻(ゴエモンは素早いうえに、急所を狙ったり動けないように足を攻撃してくる点でも厄介)を受けながらこのような推測を立てているということでチャッターの冷静さや能力の高さが描かれていると思う。スマッシュもチャッターのこの助言を受けて優れた対応力を見せている。RSのスキルはベースが強力なものの、弱点が明確なためスキルでカバーしきれない威力を持つ武器でひたすら攻撃し続けるという方法で倒される危険性がある。MJのスキルでは気力が持ちさえすれば強力な武器を用意することは簡単なので、そういった意味でシンプルに力をぶつけ合う真っ向勝負では不利になりそうだと感じた。(MJが特殊なだけで基本的に相手となるものと実力に開きがあるはずなのでプロテクトが手強いことに変わりはない)MJはシャーロックの手による装備やコピーで出現させる武器を使用するので、世の中に存在しないレベルの攻撃力や防御力を実現させることはおそらくできない。(技術力で威力を上げることができても、人体の構造上の限界を考慮する必要があるため。ゼロは性質上他メンバーよりも攻撃力を上げることができそうだが、この点については3巻感想で触れようと思う)かわりにコピーの対象は武器に限定されないためスキルの使用方法の自由度が高い。スキル発動時の精神力の消費が一つ問題となってくるが、今回のチャッターとマサトの場合のように完全な単独行動にならなければ動けるメンバーがスキルを使って相手を足止めしてその隙に離脱することが可能なのでチームとしてそれほど致命的な弱点ではなさそうである。チャッター自身も今回の戦闘時にマキシン10発を超えたスキル使用はできないことを分かっていたが、それでもゴエモンをどうしても倒し切ろうとして気絶したので使いすぎでいつ倒れるか分からないというようなものでもない。
シャーロックは武器を使ってルプスに応じてはいるものの、檻を出現させて動きを止めようとしたり、RSによる拘束を素直に受け入れている時点で真剣にRSと敵対するつもりがそもそもないように見える。また、ゼロとベイリーの戦闘はシャーロックが拘束されたことによって中断されるが、お互いにこれまでにないほど強い相手に出会ったという印象を抱いており、これは3巻に影響してくる。
ところでカジノホテルでのダイア入手について話している場面でシャーロックはチャッターとマサトがこの作戦の鍵を握るというような発言をしたのが気になる。RSが出てきたことで作戦が崩れてしまったが、本来はどう作戦が進行する予定だったのか。単なる予想になってしまうのだが、1巻で偽物のブラックダイアモンドをコピーした時にチャッターとマサトは一緒に行動しており、その後スマッシュと合流していたので2巻でもこれに近い形でダイアを入手しようとしていたのではないかと思う。マサトの目がセキュリティ突破のために必要なため、ペントハウスに侵入する前にセンサーを破壊したのと同じ要領でマサトが指示を出してチャッターが対象を狙撃、戦闘になった場合はスマッシュが中心となって対処するようなイメージ。(どうでもいいがセンサーに気づいたマサトがチャッターに声をかけつつ袖を引いて止まらせているのがなんとなく可愛い)
1巻とMVを見ていると2巻での過去回想での情報がなくともマサトのコピースキルの耐久性がそれほど高くないことが予想できる。それに対してチャッターは自分と家族を守りながら7日間大嵐に耐えている。スキルが使えない状況=スキル使用者へ身体的、精神的に大きな負担がかかることだと考えると、銃の重さや撃った時の反動の影響を受けていなさそうなところを見てもチャッターの場合、身体にかかるダメージがそれほどないのかもしれない。ただし使用武器によってはかなりの精神力が必要なため、消耗が激しくなる。マサトの2巻での台詞によれば爆弾のコピーなら種類に関係なく精神力を消費せずに量産できるようなので、2人は互いに補い合うことのできる能力を持っているといえる。マサトがコピーする対象には焼夷弾や、スモーク弾も含まれているので物理攻撃以外の使い道ができ、RSの数の包囲を破って脱出することに繋がっていて良かった。チャッターがスナイパーなら、マサトはスポッター(狙撃目標の情報を伝えたり、狙撃中のスナイパーを守る)の役割を担っているようなので2人が同じ場所に配置されることは多いのではないかと思った。作中でスキルの特徴とパーソナリティの関係が示されているので、チャッターとマサトのスキルの相性が良いのは2人の性格が正反対でも長い間お互いに支え合ってきたからなのではないかと考えるとエモすぎる。今後他メンバーのスキルの特性や相性から内面が分かるような描写が増えると嬉しい。
・A9 vs JB
MJとRSは1対1の勝負をしつつ、お互いに情報を渡し合う形でチーム戦をしていたが、こちらは分かりやすく複数対複数のバトル。スキルの要素はA9が自然、魔術なのに対して、JBは人工的な技術であるという対比が面白い。戦闘以外ではハジメが磁気嵐を使ってJBの光学迷彩を破る場面や、JBが服に軍事用身体強化デバイスを仕込んでいてこれにより怪我を治療している場面からも2チームの性質の違いが見て取れる。
JBのスキルにはいくつか縛りがあるものの、同じスキルを同時に複数人で発動して威力をあげるスキルの重ねがけのようなことや、各チームのスキルを組み合わせて使うことが可能であるという強みがある。ハッカーらしくスキルをその場に適した形に改良して発動させており、スキルとパーソナリティの一致を感じる。またスキルの特性を活かし、問題点をカバーできるため、チームで動いているのだが戦闘以外の場面を見るとJBのメンバーのほとんどが一人で自由に行動することを好んでいそうな雰囲気であるところも読んでいて楽しいポイントだった。全員間違いなく優秀ではあるものの、チームとしてのまとまりを重要視していないので、関心があることを優先したり、緊急事態を面白がったりするメンバーがいるのでそのあたりのバタバタ加減にかなり笑える。
持ち前の対応力でスキルを使いこなすJBに対し、A9は全員がどのチームよりも長くスキルの訓練を受けているという経験値の強みを持っている。A9のメンバーは自分のスキルをマスターするために他のメンバーのスキルを相手に戦う練習をしているので、その成果によってJBにA9のスキルを発動されても対処することができた。先ほど挙げたハジメの磁気嵐だけでなく、カグラがスキルを使って広範囲の探索をしたり、ケインが炎攻撃を大気変換で無効化したりとスキルの描かれ方が独特かつ派手で画になるのも特徴の一つだろう。ディルの能力はかなり強力で、物理法則を捻じ曲げるスキルの特性が良く出ている。防御力を高めるという点はRSのプロテクトでも同様のことができるが、壁などを水のようにやわらかくしてすり抜けるといったことができる独自性があるので、障害物を完全に無視して追跡や攻撃ができてしまうのが強い。JBはディルの剛性・弾性変換のスキルの影響を受けないやり方で追跡をかわす。ダメージを与えることができなくともスキルの弱点を見抜けたのでこれ以降再戦するにあたっての分析に役立ててきそうである。
A9の攻撃はスキルによるものだが、JBの方は各々が持つ技能や装備を使ってピンチを切り抜ける場面も多い。スキルについてはまだ分析中かつ蒐集中のため、未完成なものととらえているようなイメージ。A9は役割を決めて連携して動いているが、今回巻き込まれた形のJBはメンバーの性格も手伝って成り行きまかせな行動も多くとっている。時にリスクのある選択をしたり、謎の思い切りの良さを発揮したりしており、そのことがRSに打撃を与えたのでこの2チームの接点も示されたことになる。
古書の解釈
1巻でシャーロックが入手した古書の記述について。古書、混沌(バラル)の書には真実の歴史が書かれているがなぜこれが絵物語の形式をとっているのかは不明。「分断された各街区」、「砂漠化した郊外」が描かれていることが示されているが、分断された各街区というのは作中の超TOKYOにも通じるものとして、砂漠化した郊外の方は幕張ライブ以前に出た最初のアルバムのMVに出てきた砂漠とも関係がありそうなので覚えておきたい。最初期の設定は東京(現代、ジュニエグのいる世界線)、新TOKYO(近未来)、超TOKYO(新TOKYOと同時期くらいの未来で平行世界)みたいなイメージでとらえているのだが、最初のアルバムの映像はどの世界線の話なんだよと思ったのでここからその答え合わせも進んでほしい。
最初の詩句『神の怒りは、真実の調べ。希望はその混沌の中にて生まれる。滅びを超えて残るは、旧き世界の欠片。偽られることのなき、まことの光』についての分析は作中で語られている通りの話だと思う。神の怒り=5年前の嵐、旧き世界の欠片がまことの光、すなわちファイナルファクトで、これはコピーができない品であるということが書かれている。
2番目の詩句は『禁断の地、バビロニウム。其は真実に至る門、光と闇が交わる場。かの鍵を開くは、黒き石。過去と未来の可能性は、其の扉の彼方に在りーー』である。ここは混沌の書に描かれている絵、バベルの塔、BOTの設定を使って解釈してみる。
描かれていた絵は黒い宝石と巨大な塔。宝石はブラックダイアモンドで、塔の方はBOT世界でいうバビロニウムを示していると予想。バビロニウムの語源はおそらくバベルの塔なので、バベルという語について考えてみる。バベルという語がなにをもとにしているかには複数の説があり、その一つにはヘブライ語で「混沌」を意味する「バラル」という言葉を語源とするという説がある。混沌の書はここから取っていると考える。またアッカド語で「神の門」を意味する言葉が元であるという説もあるので、詩句にある「真実に至る門」はここから取っているのかもしれない。
バベルの塔の物語は旧約聖書の「創世記」に登場する。人間が協力して街をつくり、高い塔を建てていたが神がそれを見て人間たちの話す言葉をバラバラにしてしまったため、塔は完成せず人々は各地にちらばってしまったという話。街や塔をつくったのは人間が散らばらないためだったのだが、この行動が混乱と人々が離れ離れになるきっかけを生んでしまう。タロットカードのXVI「塔」はバベルの塔がモチーフになっているそうで、そのメッセージは「崩壊」とそこからやり直す「再生」、逆位置が意味するのは「混乱」。
BOTでは平行世界の可能性のようなものが示されているので、過去と未来の可能性というのはジュニエグのいる世界線なども含めた他の平行世界のことを言っているのではないかと推測している。そのため、今の段階では「ブラックダイアモンドがバビロニウムの力を解放するための鍵で、バビロニウムは別の平行世界へのポータル的な場所」というような解釈をすることにした。バビロニウムに至るということを通じていろいろな可能性が1箇所に集合するという、バベルの塔で起きたことの逆をやろうとしているようなイメージ。まだ情報が少ないのでなんとも言えない箇所。
チーム、キャラクターについて
戦闘パートである程度書いたので、ここではメモ程度に思ったことを並べていくことにする。
・MJ
同じ建物で暮らしているものの、それぞれ表の仕事を持って自立しており、仲の良い仕事仲間といった雰囲気。(マサト、チャッターは元々友人なのでこの2人の距離感は近め)
チームとしての目的に世界の真実を解明することや、革命的な要素がある。覆い隠される前の過去の世界の姿を求めているだけではなく、自分自身に大きな影響を与えている過去の出来事に決着をつけることも重要となってきそう。前進しつつ、何かを取り戻したいという思いも感じられる。世界を変えて自由になること、過去を乗り越えることによる解放(Liberation)。
MJは互いになんでも全部打ち明けるというわけではなかったり、それぞれが自分らしさや信条を貫いている面がある。お互いに状況を見てその場の判断で助けに入ったりする戦い方からもバラバラに見えて不思議とまとまっている感じがうかがえて面白い。スマッシュの格好(半裸)を残念に思いつつ結局は目を瞑ることにするチャッターや、RSに攫われたシャーロックを心配しつつも何か計画があるだろうから特別焦らずに助けに行こうと決める場面が微笑ましい。癖の強さを理解しつつも受け入れている感じはGENERATIONSの在り方にも通じるところがあると思う。
今回はMJの住んでいる場所についての描写や表の仕事の場面があって良かった。ゼロは戦闘の経験も豊富で真面目で落ち着いているイメージだが、シャーロックが本当に自由でたいていのことを気にしない豪快な人間なのでゼロがこれに振り回されている風なのが良い。猫にひっかかれるゼロはかわいい。そもそも探偵事務所というのはシャーロックがそう呼んでいるだけで、何か大きなことを解決するわけではなく基本的に近所の小さいお悩み解決サービスのようなものなのではないかと思っている。ロッソは歴史学者ではあるものの、論文発表だけでなくなにやらあやしげな都市伝説系の雑誌か書籍の原稿も引き受けている様子。『ムー』のようなものだろうか。この仕事は歴史関連というよりは民俗学よりの分野な気がする。作中でロッソは出版社に頼まれて書いていると話しているので、彼の活動はブルーシールドから目をつけられるわけでもなく世間にもそこそこ受けているのかもしれないと考えると実にうまくやっているなと思う。チャッターも眼鏡をかけているとはいえ、ある種有名人なのでなかなか大胆。今後どこかのチームのメンバーがチャッターチャンネルを見たことがあると話す場面が描かれることに期待してしまう。チャンネルのトピックとされている寺巡りは公式ガイドのプロフィールにも記載あり。ギャンブルは正直小森さん要素だと思う。(宝くじエピソードがとにかく多いため)
マサトは物静かな美青年(本編に美青年と書いてあるので公式で美青年なことが認められてはしゃいだ)といった感じだが、ロッソの変な原稿に興味を示しているので真面目なばかりではなさそう。友達のチャッターとはどんな話をしているのか気になる。
スマッシュはマキナにきちんと気を遣えていたり、ショットガンで撃たれて地面に激突してもなお追ってくるハデスを見て焦ったり(ところで、とっさに敵の顔面をショットガンで撃つロッソの躊躇のなさも地味に怖い)と実はまともなリアクションを見せているところがなんだか可愛い。ただし己の肉体へのこだわりが強すぎる。敬語で話したり、慌ててかけ寄ってきたりとパルテの最年少感が良い感じ。メンさんは最初期から自分が一番年下の設定だったら面白いのではというような話をしていたのでおそらくパルテの性格の設定のベースもメンさんが作っていると思うのだが、正統派な後輩キャラが出来上がっているのがすごく面白い。過去にGENERATIONSには年上を敬うという概念がない的な発言が出たことのあるグループの平行世界の可能性に存在する、年上を敬ってくれそうな最年少である。
・RS
RSはきちんと組織されているが、RSを居場所にしてみんなが集まっている面もあるので家族的でもある。チームとして正義を貫き、みんなで強くなっていくことで居場所と街を守り、自分の理想に近づくという未来志向のイメージ。1巻でシャーロックが古書を盗みRSの仕事を邪魔して面子を潰したので、RSは団結して怪盗団に対抗する。RSはこの仕事を通して自分達の生きる場所を確立しているので、その信用を落とされるわけにいかないのだがシャーロックはそのあたりを特に意識していなさそう。MJとRSの対立自体はシリアスなのだが、全てを重苦しく描いてはおらず、RSのメンバー同士の何気ないやりとりからそれぞれの性格が見えてくるつくりなのが良かった。RSはビジネスとして対象を守ることをしているので、警備、警護の後で事務仕事が発生するという要素が読んでいて楽しいポイント。ここで事務仕事の得意不得意がわかりやすく出る。報告書が書き終わらずうだうだ言っているミーヤに対して、きちんと終わらせるように言うキサラギ、自分の仕事が終わったのでお構いなしに横で遊んでいるエイノット、見かねて手伝おうとするジョー。また別の場面ではA9になりすましたJBにヘリを壊されたエイノットがq-bに怒られると焦っている横でトラヴィスとサルトビが呑気に笑っていたりする。(実はエイノットがゲームで遊んでる隙にヘリが盗まれているという点も笑える)これらの場面から各メンバーの力関係も推測できるかもしれない。
ハデスがスマッシュを最後まで生捕りにする意思を見せているのに対し、ゴエモンは途中からチャッターを殺しにかかったり勝負に夢中になって楽しそうにしたりしているので実は危険な人かもしれない。しかしながらゴエモンの着物には「自未得度先度他」という禅宗に関わる言葉が入っており、このように自分よりも先にまず他人のことを、という忘己利他の精神を掲げているところにRSの副官にふさわしい精神を感じる。RSは和モチーフだからか、複数のメンバーの服に古事記の物語(国産みの話など)が書いてあることも気になる。日本神話の要素も本編に入ってくるのだろうか。
ところで、作中でミーヤが聖書を引用して『過去を顧みる者は、やがて過去に囚われる。人の子よ、今を生きなさい』という言葉を挙げているのだが、引用元がはっきりと分からなかったのでなんとなくもやもやしている。
・A9
一つの家族。2巻の段階では親であり、師匠のような存在である団長の行方を探すことに一生懸命なため他のグループのようにスキルを使ってなにか大きなことをしようとしているわけではない。アルバム曲『PERFECT MAGIC』は彼らのスキルを指している。ハジメの料理をみんなで食べてみんなが元気を出して改めて団長探しを頑張るという場面は映像化してもきっと楽しいシーンになると思う。テクウやアリアが作戦を立てるが、ハジメも穏やかなまとめ役であり、A9という家族を支える人である。よく意見交換をし、協調性もあるのでチームのメンバーの行動に振り回されることはなさそうに見える。勝手に動くメンバーがいないのでみんな同じタイミングで頑張って、同じタイミングでエネルギー切れを起こしてぐったりしている感じ。2巻においてキャラクターの関係性が見える雑談パートが少なく、基本的に団長探しについての話が進むのでまだ個々のキャラクターの分析がしづらい。公式ガイドに出ている情報で気になるのは、イタルが大嵐で死んだ妹を蘇らせる方法を探していること。マサトも同じく大嵐で家族を亡くしているため、今後MJとA9に接点ができた時に重要な問題となりそう。また、ケインの持ち歩いている女性の写真の謎も後々明らかになると思われる。アリアは父の形見として腕時計を持っているそうだが、おそらくこれはファイナルファクトだろう。A9のメンバーはもともと孤児であるということは共通しているがカラスの設定には愛を知らずに育ったという記述があるので、大嵐以前に親を亡くしているか、親の愛情を受けることがない家庭環境にあった可能性が考えられる。この設定についてもこれから掘り下げられることがあるのか気になるところ。
・JB
自分達が強くなっていくことがチームとしての目的なので、周囲との関わりは他のチームと比べて希薄。そもそもハッカーという立場上、他者と交流できる環境にいないということもある。強くなりたいという気持ちは一致しているものの、強くなった結果どうなりたいのかという部分についてはチームでも意見が分かれている様子。チームとしての立場を強めつつアウトロー集団のままで今の活動を継続していくのか、それとも隠れて生きていく日々から抜け出して広い世界でたくさんの人に受け入れられる生活を求めるのか。メンバーについて詮索しない主義のため、この先どうやって生きていきたいかということについてそれぞれが自分の考えを明かして話し合っているわけではなさそうなのでこの先JBの在り方がどうなっていくのかも気になる要素だといえる。今回対立するA9とはスキルの性質が正反対。またA9が家族的であるのに対して、JBは共通の技能を持ったメンバーが集まってつくった集団となっている。食事シーンについて言えばA9がハジメの手料理を食べている一方でJBがデリバリーのピザを食べている場面があるのも対比になっているのではないかと思った。余談だが1人別行動をしているクロードはRSを偵察しつつとんこつラーメンを食べている。とんこつラーメンといえば九州なので日髙くんが九州出身なことと関連しているかもしれない。(プロフィールでの好物もラーメン)
チームメンバーの過去としてはユキが暗殺者であったことと、リブラが警察でホワイトハッカー(自身のハッカーとしての技術や知識を良い目的で使用するハッカーのこと。海外ドラマなどでは元々は犯罪行為をしていたハッカーが今は警察と協力関係にあるという設定もよく見る)をしていたことなどが明かされている。公式ガイドのプロフィールで先に公開されているところでいうとクロードに凄惨な過去があったらしいことと、嫌いな言葉が「父親そっくりだな」であることが関連しているのではないかという気がする。BOTがどこまでシリアスな設定を入れてくるのかは分からないが、ここには父親殺しの物語の可能性があるかもしれない。見捨てられた街に潜伏しているJBのメンバーたちだが、騒動にまきこまれたこときっかけに別の地区へと逃げていく過程は意外にもコメディタッチに描かれている。二手に分かれた際に心配性なユキと行動をするメンバーがチームの中でも突飛な行動をするタイプの面々であるところも笑いどころだろう。ユキは内心動揺しつつもメンバーを叱らずにそれとなく誘導しようと1人奮闘しているので応援したくなる。
チャッターとマサト
ファイナルファクトを巡る戦いはBOTの主軸であるが、2巻においてチャッターとマサトの過去回想場面は重要な要素の一つだと考える。というのも、この過去の出来事がチャッターがMJにいる理由、戦う理由となっているからである。Chapter2、MJとRSを中心とした章の冒頭は配信を行うチャッターの場面から始まり、その後MJのメンバーが集まってくるような流れになっており、物語の視点が明らかにチャッターに寄っているように感じた。ここでは2巻におけるチャッターとマサトについて考えたことを整理する。
・チャッターの二面性、道化の仮面
チャッターは口が達者でいつも笑顔で明るく振る舞う青年である。Chapter0でシャーロックから作戦における役割を与えられ、これに二つ返事で応じるチャッターの「無鉄砲」な様子を見て、マサトは苦笑する。チャッターとマサトが以前から友人であることを考えるとマサトのこの反応は自然なものであるため、常に楽しそうに振る舞い、深く考える様子を見せずに行動するという面はチャッターの元々の性格であることが予想できるだろう。この場面は初めのうち、どうということのないやり取りのように見える。
しかしながら、Chapter2にはチャッターの『(そう約束したもんな……そのためなら俺は、いくらでも道化になるぜ)』という独白がある。道化とは「人を笑わせるような言動をする人」を指す言葉である。ここでチャッターの明るさにはもう一つの面、なんらかの目的を持って楽しげに振る舞おうとしているという可能性が見えてくる。しかしそれは本来の彼の性格と溶け合って見えにくくなったものである。チャッターがした「約束」とはいったい何か。チャッターは何故いつも楽しそうに振る舞うのか。
・大嵐が奪ったものと約束
5年前の大嵐は現在の超TOKYOを作るきっかけとなった出来事である。各チームの青年たちはスキルを使えるようになり、その力によってこの災害を生き延びた。
チャッターがスキルを使い、自分と家族を大嵐から守ったのに対し、マサトはこの災害によって自分の家族を失ってしまう。
チャッターは嵐がおさまってからすぐにマサトを探しに行っている。大嵐が吹き荒れる間も、親友であるマサトのことが気がかりだったのだと思う。
家族を亡くしたマサトは力無く笑いながら『「……護れなかった。オレだけが生き延びてしまったよ」』と言った。チャッターは返事をしなかった。返事をしなかったというより、なんと答えてよいのか分からなかったのだと思う。「生き延びてしまった」というマサトの言葉には、「自分のせいで家族を死なせてしまった」というような響きがある。
その後チャッターはマサトを支えるために、なるべくマサトと一緒にいようと努めている。その甲斐あって、マサトは少しずつ元気を取り戻していくのだがそうして2人が過ごしたのは1年という長い時間だった。チャッターは深く傷ついたマサトの姿をずっと見ていたのだ。
災害から1年が経ち、マサトはチャッターに大嵐の話をする。マサトは自分の身に起こった出来事についてたくさんの疑問を抱いたまま生きていた。何故あの嵐は起こったのか。何故自分はスキルに目覚めたのか。自分が生き残ったことに意味があるのか。チャッターはマサトに、自分も生き残った意味を探しているのだと答える。その答えをきいて、マサトは『「……オレはその答えを知りたい。この世界と、自分自身に関する真実を。協力してくれるか、チャッター?」』と問いかけた。この世界の謎の答えを探し求め、真実へ辿り着きたいというマサトの願いを叶えることこそが、チャッターが戦う理由、「約束」だった。
チャッターは大嵐によってマサトの身に起こったことを悟った時、マサトは自分とは「違い」、大切な人を失ったのだと思っている。チャッターは自分の家族を守ることができた。その点において、たしかに2人は違うのだろう。この違いもまたこの世における分からないことの一つであり、チャッターが考え続けていることなのだと思う。「何故マサトにだけこんなことが起こってしまったのか」。しかしながらチャッターが自分で気がついているにしろ、いないにしろ、チャッターもまたこの大嵐によって大切なものを喪失しているように思える。それは災害が起こる前の「チャッターとマサトの友人関係の形」である。これは大嵐が起こったことによって確実に歪められ変化してしまっているのだ。マサトに協力して欲しいと頼まれたことを、チャッターは『昔から何でもできて、誰にも頼る事がなかったマサトの、たった一度だけの本当の願い』として受け止めている。チャッターにとってマサトは対等な親友ではあるが、そこにはしっかり者のマサトに対する尊敬であったり、憧れのようなものがうかがえる。「冷静で一人で何でもこなせる親友」というのが、チャッターから見たマサトの姿であった。おそらくマサトは喪失感で不安定になっている間も、チャッターに対して何かをしてほしいということがなかったのだろう。だからこそ精神的に疲弊しきったマサトを見ていても、チャッターはマサトが変わらず強いということを確信しているのだと思う。それでも誰かに頼ることのなかったマサトはチャッターに頼り、チャッターは災害の後から今まで傷ついたマサトを支え続けている。渋谷の街が元通りになっても、チャッターとマサトは以前のように気軽に話すことができなくなっている。そんな風にいつも不安や緊張のようなものが纏わりつくようになってしまったことにチャッターは苦しみ、なんとか大嵐が起こる前の自分たちを取り戻そうとしているのではないだろうか。自分は、自分達は変わらないと伝えるためにチャッターはマサトに笑顔を見せているのではないかと感じる。Chapter2でマサトはファイナルファクトに関する詩句について真剣に語る様子を見て、チャッターは「あえて明るい声を上げ」て話題をブラックダイアモンド入手のための作戦のことに変える。ファイナルファクトを探し求めることはマサトの辛い過去と深く結びついている。回想場面をふまえるとチャッターが無意識に、マサトを過去の痛みから遠ざけようとしているようにも見えた。
チャッターはマサトの願いに『「もちろんだぜ。」』と二つ返事で応じる。Chapter0でチャッターはシャーロックに全く同じ言葉で答えている。ダイアモンドを盗むための難しい仕事をすぐに引き受ける。チャッターはマサトの願いを叶えるという約束を叶えるために躊躇わないのである。
・マサトにとってのチャッター
マサトがチャッターを頼ったのは、チャッターのことを誰よりも信頼しているからに他ならない。協力して欲しいと頼めば、チャッターを巻き込むことになることもマサトにはよく分かっていたと思う。これは推測になるのだが、チャッターは自分の家族を守ることができたのだから渋谷の街で家族とこれまで通り暮らしていくこともできるだろうということも考えていたかもしれない。困難な道、それも自分が1人で考えて決めた道をチャッターにも一緒に歩いて行ってほしいと話すことには大きな葛藤があったのではないだろうか。もしもチャッターが自分も生き残った意味を探しているのだと言わなかったら、マサトはその後どうしていただろう。チャッターには何も告げずに1人で危険な道を進んで行ってしまったかもしれない。チャッターの言葉を聞いて、マサトはかすかに笑っている。チャッターとこれからも一緒にいられることへの安堵がこの笑みにあらわれているような気がした。
チャッターはゴエモンとの戦いの中でボロボロになりながらも、この程度の困難に屈している場合ではないと、既に限界だった精神力をふり絞り反撃をしかける。結果としてゴエモンを倒しきることはできなかったものの、入れ替わるようにして意識を取り戻したマサトがゴエモンを気絶させ、屋上での戦いは幕を閉じた。戦いの後で、『「……チャッター、お前の戦果だよ。お前がギリギリまでダメージを与えてくれたから、手榴弾を当てられた」』とマサトは呟く。チャッターは道化を演じ、理知的なマサトに対してお調子者の自分という在り方を崩さない。しかし、チャッターが世界の真実を探し求めるマサトの気持ちをよく分かっているように、マサトもまたチャッターの真剣さや優しさを理解しているのだと思う。RSの追撃をかわしながら、マサトはRSのメンバーたちをきつく睨みつけて宣戦布告をする。MJとしてRSとどう関わるべきか、一切の議論がなされていない段階で、マサトはRSをはっきり敵と定めている。チャッターが死にかけるような事態となったこの戦いをRSの雇い主であるマダムがまるでショーを楽しむかのように見物していたことに明らかに不快感と怒りを示していた。
仕事を完遂するための冷静さ、深い洞察力はチャッターに後天的に身についたもので、これがスナイパーという役割や、スキルの特性と結びついているように感じる。大嵐による喪失を経て変化したチャッターとマサトの友人関係。チャッターの、マサトの支えになりたいという気持ちは具体的な形をなしてあらわれているといえる。その一方でチャッターの明るさや笑顔もまた、マサトを救っている。2人の関係性をマサトの視点から描いた場面もこの先描かれるのではないかと思うので期待したい。
また、チャッターとマサトの関係は小森さんと佐野さんの友人関係に非常によく似た部分がある。(2人の性格が正反対に見えるところや、お互いへの気遣いとリスペクトなど)BOTのキャラクター設定は一部、モデルとなるジュニエグメンバーが考えているのでこの2人が親友であるという設定が小森さんか佐野さんの案なのか、それとも著者の案なのかがものすごく気になっている。
文章の話
バトル描写はテンポが良くて映像になった時のことも想像しやすくとても読みやすい。しかしながら地の文や台詞の表記など、どうも自分にはあまり合わないなと感じる部分も多い。具体的に言うと、いきなり『相容れない二つの陣営が、じきに衝突しようとしている事をーー!』と漫画の煽り文のような謎の勢いの一文が出てくるところや、三人称視点で書かれているはずなのにいつのまにか地の文が特定のキャラクターの視点に切り替わってしまっている点、アリアの声が小さいという設定を文字のサイズを小さくして表現してくるところなど。せめてアリアの台詞のところだけでもなんとかしてほしい。「ぼそりと呟いた」とか、「そこまでを一息で、ほとんど独り言のように話すと」など他に表現のしようはあるのではないかと思う。アリアが口を開いたので聞き逃さないようにみんなが一斉に静かにするとかでもいい。
その他メモ(箇条書き)
・アストロパークは位置的に江東区っぽい。
→【追記】質問箱にてアストロパークは浦安にあるという情報が『月刊EXILE』の2021年6月号に載っていることを教えていただきました。本当に夢の国だった。
・MJもなにか食べてる描写が欲しいが、ないのはある意味ヴィラン的な立ち位置だからか。
・サイフィもBOT世界にやってくることが明かされたが、イヌイが指揮する部隊のメンバーという設定か、ブルーシールド側に協力するような立場だと面白い気がする。その場合、条件付きでスキルを無効化するとか、スキル使用時の精神力消費を倍増させるなどのスキル使用者との戦闘に特化した能力を使うイメージ。
・今さら言っても仕方がないのだが、今回マキナがいなくても特に問題なく物語が進行していたのでそこまで必要な登場人物なのかは
未だ疑問。
・描写から登場人物のことを知りたいので、仕事をしている様子や仕草、話し方などの描写は多めだと嬉しい。
・ファイナルファクトに関するヒントが出てきたが、1巻に1、2個の謎が解けるくらいのペースでゆっくり前進していく展開で良いと思う。伏線回収を1つの巻に詰め込みすぎると分かりにくかったり、雑な印象になるため。
・2巻はかなり理想的な内容だったので、今後もファイナルファクトに関する物語を進めつつ、各登場人物の過去が分かる場面を入れるという構成だと嬉しい。
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