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オープンプラットホーム通信 第180号(2022.2.22発行分)

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喫茶去 第79回 死ぬということ 願わくば上手に(18)


前々回にギリシア神話にみえる「死の主題」をいったん整理しました。1)冥府との往還 エウリュディケ プシケ 2)不死にする試みと失敗 ヘラクレス アキレウス 3)不死ゆえの苦しみ プロメテウス ケンタウロスのケイロン 4)不死と永遠の眠り セレネとエンデュミオン 5)不老 エオスとティトノス 6)別離 アフロディテとアンキセス。その後、この主題はややふくらみをみせて、あらたに二つの項目を設けました。

7)蘇生の禁止 アスクレピオス
8)対極の生あるいは過度の生 ディオニュソス。

このうち 7)のアスクレピオスは医療の神として知られています。アスクレペイオン(神殿かつ施療院)がペロポネソス半島のエピダウロスやエーゲ海のコス島に残されていて、そこでは医療にあたる神官が外科的治療や催眠療法(夢見)を施していたようです。2世紀後半のパウサニアス『ギリシア案内記』には、エピダウロスの神殿のかたわらにアバトン(歎願者たちのオコモリ堂)のあること、境内の六本の石碑には治癒した人々の氏名とその治療法が記されている由が記録されています(第二巻27章、これはさいわい岩波文庫で読めます)。このアスクレピオスに帰される医療は呪術とそれなりの経験的知識による「医学以前の治療」ですが、科学的な医学の父とされるヒポクラテス(前460-370頃)はその生まれ故郷がコス島であり、医療の技を島のアスクレペイオンで学んだとの伝承があります。史実かどうかはともかく、呪術的な医療から科学的な医療への展開点をあらわす話として興味深いものでしょう。象徴的には、アスクレピオスからは「ヘビのまきついた杖」を、ヒポクラテスからはその「誓い」を現代医学は受け継いできました。

さて、うえのパウサニアスの案内記には、つづけて次のようにあります。イタリアのアリキアの人々の伝えるところでは、として「テセウスの呪詛にかかって死んだヒッポリュトスをアスクレピオスが蘇生させた。生き返ったヒッポリュトスは…イタリアのアリキアへ赴き、当地の王となるとともにアルテミスに神殿領も寄進したというのだ」。突然の人名・神名・地名にめんくらうかもしれません。それぞれ掘り起こすと長い話になるので、ここではかんどころだけを書きます。アスクレピオスは治療のみならず、蘇生をもおこなったという点です。この間の経緯をアポロドロス『ビブリオティケ』は次のように伝えています。

「アスクレピオスはケンタウロスのケイロンのもとで育てられる間に医術と狩猟の技を教えられた。そしてかれは外科医となり…ある者の死を妨げたのみならず、死者をもよみがえらせた。アテナよりゴルゴン[メデゥーサ]の血管から流出した血を得て、左側の血管より流出せる血を人間の破滅に、右側よりのを救済に用い、これによって死者を蘇生させた。…ゼウスは人間がかれより治療の術を獲得して互いに助け合いはしまいかと恐れて、かれを雷霆[らいてい ゼウスの武器である激烈な雷]で撃った」(第三巻Ⅹ-3)。

ここで奇妙な一節は、おしまいにあるゼウスがアスクレピオスを雷霆で撃った(殺害した)という点です。死者を蘇生させた医師を殺したということは、死者の蘇生を禁じたということです。人間が治療の術を獲得して互いに助け合いはしまいかと恐れて、というのも奇妙です。神の嫉妬? そういえば聖書の「創世記」でも、知恵の木の実の禁忌を破った罰として死と出産と労働が人間に課せられる物語のなかで「さあ、かれが手を伸ばし、また命の木から取って食べ、永遠に生きることがないようにしよう」(3:22)と、はっきりと神の意志としての人間の死(有限の人生)が宣告されていましたね。でも、こちらの創世神話の場合は、のちにキリスト教が「原罪」の理念をうちだす基礎になるような、ひとの罪と神罰の物語になっているので、意味づけ・理由づけがはっきりしています。だからこそ、ユダヤ・キリスト教の聖書の線上では、ラザロの復活のようなイエスによる死者の蘇生には「奇蹟」という超人間的な価値が与えられるわけでした。ギリシア神話ならゼウスの雷に撃たれるのだがなあ。もとい。不謹慎な感想でした。

アスクレピオスに話をもどします。テキストによってはゼウスの怒りは冥界の神ハデスにおきかえられることがあり、その場合、ひとの生死を管轄する神ハデスの領分をおかしたからという説明が付されます。生殺与奪の全権能がハデスにあるという描かれ方ではないので、不徹底な印象が残りますが、神々の不死と人間の死という、この世の秩序のかんどころをゆるがせまいとする神々の意志を読みとることはできそうです。世界の創造が「渾沌から秩序へ」というラインでおこなわれるとするなら、その「秩序」の要が「人間の死」にあることをこの物語は主張しています。ここまで「蘇生」と述べてきたものは、やや宗教味をおびたコトバにすれば「復活」です。復活は神と神々の独占物であり、これを人間は侵すことができないという物語…。

このことは、8)のディオニュソス譚にみられる異様なまでに謎めいた生命力のあらわれと照らすと、ある程度は分かってくるように思います。次回はこの難物にかかります。あ でも アタマがくらくらする。

☆☆筆者のプロフィール☆☆
関 一敏
勤務先:NPO法人ウェルビーイング・ラボ


感じ考え組み立てる 第56回 プチプチと対話2


前回からの継続で、プチプチと対話について書きます。

昨年末、2021年12月24日、第13回目の授業後、出席票の代わりとして、毎回の授業後に提出してもらっている「質問・意見記入用紙」に、ある学生(aさん)が以下のような質問を書いて来ました。

「先生はプチプチと話せるようになるのに、何年ほどかかりましたか?」

では、現在、私による系統講義(疫学)が進行中のクラス、先ほどの質問をしたa さんも含む 49 名の中では、a さん以外にもプチプチとの対話にふれている学生がいるのでしょうか。回収したばかりのコメント用紙を見直し、対話に関連の記述を抜き出したところ、a さんの他に以下 13 名の学生が対話に言及していました。

学生b「今回プチプチと話す機会があったのですが、私の力不足で理解ができなかったので、これから頑張りたいと思いました。」

学生c「プチプチの気持ちは、まだ分かりませんでした。」

学生d「プチプチの声を聞くという非人間的な能力が身についた、いい授業だった。」

学生e「今回プチプチと対話してみて、プチプチにも個性があるということに気づきました。ちなみに、私の選んだプチプチは恥ずかしがり屋で、心を開いてくれるまで、何度も話しかけました。」

学生f「最初はプチプチを使ったり会話をしたりする方法や意味が分かりませんでした。ですが、講義を受けていく中で理解できるようになりました。プチプチを使うことで、触覚を使うため、対象が多人数の場合、状況をよりリアルに考えやすいです。今ではプチプチを様々なことに活用できるため、レポートにも活かしていきたいと思います。」

学生g「私のプチプチはおこりっぽく、言い合いになりました。彼はあまり疫学を大切にしていませんでした。私は疫学が大好きなので、仲良くなれそうにないです。」

学生h「プチプチを家に帰って触りながら、どんなことをレポートに書くか、決めてきます。」

学生i「プチプチを使用して考えることで、自分が教科書や資料を使うだけでは感じられない考えを、持つことができました。レポートに生かせるように、自宅でも考えたいです。」

学生j「プチプチの数で『人』を感じ、触っている際(過去に潰したものと、今潰したものとで、比較しながら、時間や場所を感じる)「時間」と「場所」を感じることができる。」

学生k「プチプチは手で触れるという点で強いと感じました。プチプチと仲良くなります。大好きです。」

学生l「最初の授業から今日まで必ずプチプチを用いた授業を行っていましたが、プチプチを使用することで、手で触れて感覚をつかむことの大切さに、気づくことができました。」

学生m「プチプチの声は聞けなかったけど、プチプチを視覚に入れることで、人の多さをイメージすることができるため、大人数をイメージして物事を考える時に、プチプチは有効になるのではないかと思った。」

学生n「プチプチの声が聞けて、最高だった。」

第 1 回目の講義から気泡緩衝材プチプチに触れて考える問題提起を続けた結果、四分の一以上の学生が、プチプチとの対話について何らかのコメントをしていることが、分かりました。

とても興味深いことが起きていると感じます。
このような学修のあり方をどう説明したらよいのか,しばらく迷っていました。
今は,ポリフォニーという考え方で説明するのが良いと思っています。

ポリフォニーについての初歩的な考察は,先日の感性と対話の中で試みました。

今後も考え続けるつもりです。

☆☆筆者のプロフィール☆☆
守山正樹
勤務先:日本赤十字九州国際看護大学


ドクター・マコ At Home! (アット・ホーム) 第131回 不条理な事


<この世の中で不条理だと思うことを15個挙げ、理由を答えなさい>
<(そのうち)三つについて解決方法を示しなさい>

以上が、2021年度、慶応大学環境情報学部の入試・小論文の問題です。18歳の子たちが「フジョーリ」という言葉を知っているか分かりませんが・・・・。

さあ、皆さんだったら、どう答えますか?

よく、「学校の先生に従順な子より、反発する子がほしい」とか、社会に対し「これはおかしいのではないか」と疑問や違和感を抱く学生でないと、将来、社会を変えられない、などと言われる大学関係者もおられます。

川上が現役高校3年生の頃も、そのような大学側の意見がなかったわけではありませんでした。しかし、あの当時、社会の在り方に疑問を持ち、立ち上がっていった学生たちは、ほとんど無視されたり、大学+警察により、壊滅させられたりしました。なので18歳時の川上は、「向こうはまず学生を管理したいわけで、どうせ色々言っても変えられないんじゃないの?」と最後は斜に構えてしまいました。

現代の、中国やロシア、ミャンマー、香港、などでも、若い学生たちは、不条理に抗い、自由を守ろうとしていますが、「社会秩序を乱す者=場合によっては“テロリスト”と名指しされ」として捕縛されています。

難しいですね。

問題意識を持つことが許されない社会もあるのです。ここ日本でも。
この出題をした先生は、いったいどういう答えを予想し、期待したのでしょうか?

世の中が、自分の思い通りにはならないことは、自明の理であるので、おそらくこの出題者自身にも、「不条理な事」はきっとあるわけで、もちろん我々60歳台にも、70歳台にも、不条理は存在します。今後、WBにも不条理なことが続いてくる、と思われます。
→どうすればいいのでしょうか?

☆☆筆者のプロフィール☆☆
川上 誠
勤務先:川上歯科医院


編集者後記


今月もメルマガをお読みいただきありがとうございました。
今年に入って、総会に向けて話し合いが続けられてきました。そのなかで、今年のテーマは「かたちにする」に決まりました。去年まで中期将来構想を3年間かけて話し合いや組織の見直しを行ってきたものを、見える・使えるかたちにするのが目標です。
このメールマガジンでも進捗状況を報告していきたいと思っていますので、見守っていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

(いわい こずえ)

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ご意見、ご要望などお待ちしています。
編集:NPO法人ウェルビーイングいわい こずえ jimukyoku@well-being.or.jp
NPO法人ウェルビーイングホームページ http://www.well-being.or.jp/

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