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君はパイロットになれるか

 次男が小学生の時、妻がお友達のお母さんから「パイロットってどういう人が向いているの?」と聞かれたそうだ。なんでも、その次男の友達はパイロットになりたいらしい。そこで妻はこう答えた。「嫌いな人をずっと密室で二人きりで仕事しても耐えられる人」と答えたそうだ。
 素晴らしい回答だ
 パロットはすごい能力が必要だと思われている。特別な訓練をして誰も出来ないような事をやっている、スーパーマン?のように見られているのかもしれない。確かに訓練は厳しい。これまでたくさんの訓練を受けてきたが、楽な訓練なんて何一つなかった。でも、まだいい。知識や操縦技術は訓練を頑張ればどうにかなる。訓練がどんなに厳しいかはおいおい書く。
 頑張ってどうにもならないのは人間関係。機長と副操縦士の関係は、普通の仕事の上司部下の関係より、もう少し厳しい。機長というポジションは一般の人が思っているよりも偉い。仕方ない。
 機長の業務はPICと呼ばれる。パイロット イン コマンド。機長はコマンダー、つまり指揮する人なのである。機長の判断は現場の最終判断として尊重される。天気が悪かったり、機体の整備状況が万全でなかったりする時、運航するかしないかの最終判断は機長がする。それだけではない。上空で雲を右に避けるか左に避けるか間違うと雷雲に突っ込んじゃうかもしれない。視界や地上風が限界ギリギリの中、どの進入方式を採用するかで着陸出来たり出来なかったりするかもしれない。機長は常に判断、決断に迫られる。だから、機長に権限が集中してしまう。機長が陣頭指揮して、副操縦士はそれにくっついていく。どうしてもそんな図式になってしまう。
 副操縦士は一昔前まではFO、ファーストオフィサーといった。ファーストオフィサーって日本語に訳すると副官。よく映画とかで偉い将軍の横に侍ってお茶持ってきたり、肩を揉んだり、将軍の愚痴を聞いたりしているような人、あれがファーストオフィサー。機長と副操縦士の関係は将軍と副官の関係に近い。
 上空では機長が食べるまで、弁当に箸をつけない副操縦士が多い。「先に食べて良いよ」と言われても「いえいえ、機長が先に食べてください」といって、「いいんだよ、先に食べて」と言われても、さらに「いえいえ、機長こそ先にぞうぞ」と食い下がる。コントか?。これを三回やっても先に食べることを勧められたら、先に食べるようにしている副操縦士もいた。そうすると、その後の機長が優しくなるそうだ。ちなみに僕は、機長の了解を得ずに先に弁当を食べて、すごい目で睨まれた口だ。当然、機長のあたりはきつく、厳しい副操縦士時代だった。
 要はこの世界は機長が偉い世界。機長と副操縦士の関係はフラットにはなり得ない。
 もちろん機長には良い人も悪い人もいる。しかし、どんなに良い人柄の機長でも、なんでも言い合える関係にはならない。しかも機長という人たちは変人が多い。たとえいい人であっても、一緒にいると変人はきつい。合わせるのが大変だ。そういう人は操作のやり方も特殊だ。コックピットの作業とは高速餅つきのようなもの。機長と副操縦士が、「えい!」「やっ」「はいっ」とやっていて、いきなり「そこで水だろ!」と怒られる。副操縦士としては「そこで水ですか、他のどの機長もそんな操作してませんよ」と言いたいけどグッと堪える。副操縦士は常に厳しい立場にある。どんな変人がいるかはおいおい。
 副操縦士は、すごく偉い変人と毎日朝から晩まで二人だけで、コックピットという密室で過ごす。副操縦士にとって、これはきつい。だから、この地獄のような副操縦士から逃げ出したい。気楽に自由に空を飛びたい。この大空に翼を広げて飛んでいきたい。もうあんな機長とはもう乗りたくないんだ。そうだ、機長になればいいんだ。そしたらあの人と乗らないで済む。そうやって副操縦士は機長昇格へのモチベーションを高めていく。
 でも、機長になるためには、会社の中での人間関係が大事。多分一番大事。操縦技量よりも大事。その辺はサラリーマンの昇進と変わらない。だから機長になろうと思えば思うほど、さらに気を使う。副操縦士は機長になるために、さらにゴマをするようになる。
 と、ここまで書いて気持ちが塞いできた。辛い過去を思い出してしまった。もっと楽しい事を書きたいのに。
 僕は、明るく楽しくが僕のモットーです。次回はもっと楽しい事を書きたい、でも嘘は書きません

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