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かなしい子どもの守り神。

この絵本の作者、オーパルは5歳です。
両親は亡くなり、木こりの夫婦の世話になっています。
オーパルは1900年頃に生まれた実在の人物で、キャンプをしながら森から森へと移動する生活の中で、5歳から6歳にかけての一年間、密かに日記をつけていました。


その日記が後に編集者の目にとまり、すでに世界的に名の知れた絵本作家であったバーバラ・クーニーが自ら望んで挿し絵をつけることを申し出、一冊のかなしくも美しい絵本になりました。

 ひとりの友達もいないオーパルが心を許しているのは、森の木や床下のネズミ、牝牛やブタ、犬、カラスなどの動、植物たちで、天性の研ぎすまされた感性で、オーパルはそれらのものと語り合うようになります。

それらのものたちにつけた名前がまた、オーパルのきらめくような才能を物語っています。
ローマの英雄・ホラチウスという名の犬、メンデルスゾーンと名付けたネズミ、大天使(ラファエル)という名の大木など、オーパルは純粋で賢いものと心を通わせることで生きる意味を見いだしているかのようでした。

 短いセンテンス、時制も曖昧な幼い日記の中に、宝石の原石を思わせるような光を放った表現がちりばめられています。

「オーパルひとりぼっち」オーパル・ウイットリー/作 バーバラ・クーニー/絵 ジェイン・ボルタン/編 やざきよしこ/訳 ほるぷ出版


「ときどき おもうのよ、かみさまが、てんごくの もんを ちょっと あけて、おとうさんとおかあさんを だしてくれると いいなあって。
ふたりが、しばらく、あたしの まもりがみに なるように。」 と、願っていたオーパル。
でも、継母はオーパルを使用人のようにこき使いました。


「かなしくなると、あたしの木(ラファエル)と いろいろな ことを おはなしするの。」
日記の通り、オーパルの毎日は、かなしいことで埋め尽くされていたのです。
 ご近所に越してきた若い婦人と心の通った日々を送るも、つかの間、またオーパルの家族は次の仕事場(森)へと移動していくことになります。

その間、ラファエルが切り倒されり、学校へついてきてしまったブタのルーベンスが先生に棒でたたかれりと、オーパルを苦しめるような出来事が次々と起こります。

オーパルの心がかなしみでいっぱいになればなるほど、オーパルの言葉は魂を宿し、その表現は年齢を超えて洗練されていくように思えます。

 幼い人の心が孤独とかなしみで震撼するとき、稀に奇跡のように、知覚の泉が湧き出すことがあるのだということを、私はこの絵本で知りました。

残念なことですが…もしオーパルが人に囲まれた幸せな幼年時代を過ごしていたとしたら、この絵本が世に出ることはなかったかもしれません。
残酷なまでの孤独と引き替えに、オーパルには自らの「守り神」を見ることが出来るという、稀少な力が備わったのかもしれません。


 子どもの感性は無限。
オーパルという少女の遺した日記は時を超えて、私たち大人が見過ごし、見逃している大切なものの存在に気づかせてくれるでしょう。


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