パスカルの言葉

人間はひとくきの葦にすぎない。自然のなかで最も弱いものである。だが、それは考える葦である。彼を押しつぶすために、宇宙全体が武装するには及ばない。蒸気や一滴の水でも彼を殺すのに十分である。だが、たとい宇宙が彼を押しつぶしても、人間は彼を殺すものよりも尊いだろう。なぜなら、彼は自分が死ぬことと、宇宙の自分に対する優勢とを知っているからである。宇宙は何も知らない。

だから、われわれの尊厳のすべては、考えることのなかにある。われわれはそこから立ち上がらなければならないのであって、われわれが満たすことのできない空間や時間からではない。だから、よく考えることを努めよう。ここに道徳の原理がある。

(パスカル「パンセ」第6章 哲学者たち 三四七)

このパスカルの言葉は、死の陰の谷を歩いていたとき、虚無の淵で支え救ってくれた言葉の一つでした。

「蒸気や一滴の水でも彼を殺すのに十分である」

人間は実に脆くはかないものです。死とともに、虚無の深淵とともに生きている。それが、与えられた限りある時間の中で生きる人間存在の真実です。けれども「蒸気や一滴の水」でさえ殺すことのできる弱くはかない人間が、それにもかかわらず自分を殺す死以上のものだと、パスカルのこの言葉は語っているのです。

人間には、「神」が与えてくれた人間存在そのものの尊厳があり、死さえもそれを打ち砕くことはできないこと、たといこの世での存在は滅びても、考え、迷い、悩みつつ生きる「人間」であることによって、人間はその存在そのものが死以上のものであることを知るのです。

たとい死がいつ訪れようとも、人間は、《考える葦》であることの尊厳によって、存在そのものがすでに死を超え救われているのです。

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