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意思決定支援にかかる架空事例検討(私家版)3

はじめに

成年後見制度の利用者からの贈与について、以前は善管注意義務の観点から原則として認めない取扱いであった。
近年は本人の意思尊重の観点から柔軟に判断されるようになってきたが、相続税対策としての贈与についてはやはり慎重に扱われるようである。
本人による意思決定を原則とした場合、贈与についてどう判断すべきだろうか。

なお、事例は架空の創作事案である。

事例1

事案の概要

70歳代男性。脳梗塞で倒れ、成年後見制度利用に至る。専門職後見人が就任。
妻とは死別。2人の子(B、C)がいる。

本人は過去4年間、毎年孫2人(いずれもBの子)に対して110万円ずつ金銭の贈与を行ってきた。ただし贈与契約書は作成していないようである。

Bは専門職後見人に対し、今後も引き続き贈与を行うよう求めている。

もう一人の子は贈与について了承している。

本人に意思確認を試みたところ、これまで贈与してきたことは認識しており、今後も贈与を続けたいことは(かろうじて)意思確認できた。

本人の保有流動資産額は約5000万円。収支は安定している。負債はない。

考えられる論点

まず、相続税対策としての贈与を認めるかどうかが問題となる。
従前はこうした行為は成年後見人等の善管注意義務に反するおそれが強いとされてきたが、本人の意思をどう扱うべきか。

次に定期贈与の問題がある。税務当局より定期贈与と認定された場合、贈与の合計額に対して課税されることになる。
仮に今回贈与を行う場合、定期贈与に該当するだろうか。
また本人の意思確認や記録作成を行うにあたって、留意すべき点はあるだろうか。

参考:タックスアンサー No.4402 贈与税がかかる場合(国税庁)

事例2

事案1の応用。
次の事案について、保佐人であるBから、贈与について自治体の中核機関に相談が寄せられた。 中核機関の担当者としてはどう対応すべきか。

事案の概要

本人は認知症を原因として成年後見制度利用に至った。

妻とは死別。2人の子(B,C)がいる。 Bが保佐人に選任され、司法書士が保佐監督人に選任された。

上記事例と同じく、過去4年間Bの子2人に贈与を行ってきたが、次の点において事例1と異なる。

・本人の意向は未確認である。 ・Cが過去の贈与の事実を知っているかどうかは不明である(少なくともBからCに対して知らせていない)。Cは定期的に本人を訪問しており、中核機関もCの連絡先は把握している。 ・保佐監督人である司法書士は、贈与については財産を一方的に減少させる行為として反対しているとのことである。

本人の財産・収支状況は事例1と同じ。

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