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意思決定支援にかかる架空事例検討(私家版)1

はじめに

成年後見業務における意思決定支援の論点を検討するための題材です。
「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」の存在を前提として、ガイドライン運用に関する課題抽出を試みるものです。

事案は全くの架空です。細部の不自然な点はご容赦ください。書かれていない部分は適宜想像で。

問題

自宅建物につき、火災保険の加入をどう考えるか。

事案の概要

80歳代女性。自宅で独居。
このたび保佐開始の審判を受け、親族でない第三者が保佐人に就任した。
アルツハイマー型認知症の診断を受けている。

本人(被保佐人)は在宅生活を希望しており、支援者も介護サービスの利用があれば可能と判断している。

自宅は一戸建て、自己名義。 現在火災保険に加入していない。過去の加入歴は不明である。

夫とは数年前に死別。子はいるが疎遠。

保有流動資産は数十万円程度。 収支はほぼ均衡している。
火災保険料を支払っても当座の家計を直ちに圧迫することはない。
※保佐人の報酬は考慮しなくてよいものとする。

本人は、保険料がもったいない、自分で火は使わない(調理はヘルパーが行っているようである)等の理由により、加入には消極的である。
火災保険がどのようなものであるか一応理解していると思われる。

これまで火の不始末につき問題になったことは(支援者の知る限り)ない。 ただし近隣住民から不安の声が寄せられたことはある。
仮に火災が発生した場合、隣家に延焼する可能性はそれなりにある。

火災保険加入に関する代理権はあるものとする。
※本人が加入に消極的なのに代理権が付与されている問題についてはひとまず考慮の外に置いていただきたい。

考えられる主な論点

(1) 火災保険の加入について、意思決定支援を行う必要があるか。

「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」では「後見人等が直接関与して意思決定支援を行うことが求められる場面は、原則として、本人にとって重大な影響を与えるような法律行為及びそれに付随した事実行為の場面に限られる」としている。これをどう考えるか。

(2) 火災保険に加入しないリスクをどう評価するか。「本人にとって見過ごすことができない重大な影響が生じる」といえるか。

本ガイドラインにおける意思決定支援及び代行決定のプロセスの原則
第5
①本人の意思推定すら困難な場合、又は②本人により表明された意思等が本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずる場合等には、後見人等は本人の信条・価値観・選好を最大限尊重した、本人にとっての最善の利益に基づく方針を採らなければならない。

「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」より

「重大な影響」といえるかどうかについては、以下の要素から判断する。
① 本人が他に採り得る選択肢と比較して、明らかに本人にとって不利益な選択肢といえるか
② 一旦発生してしまえば、回復困難なほど重大な影響を生ずるといえるか
③ その発生の可能性に確実性があるか

「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」より

(3) 仮に、本人の意向に従い火災保険に加入せず、その後火災が発生し、隣家が類焼した場合、保佐人が責任を問われる可能性はあるか。


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