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後見人が先に死亡したときの手続

はじめに

成年後見等の利用が開始されるとき、通常は後見人等が本人(成年被後見人等)より長生きすることが想定されている。しかしながら不幸にして後見人が先に亡くなってしまうこともある。
なんとなく「家庭裁判所が後任を選んでくれる」と考えがちで、それで大きくは間違っていないが、いくつか注意を要する点もある。

類型別問題

任意後見

任意後見は委任契約の一種であるため、受任者である任意後見人・任意後見受任者が死亡すると任意後見は終了となる。
本人にとって後見制度の利用が必要であれば、改めて後見等開始申立を行うしかない。
任意後見監督人は任意後見の終了により地位を失うため、申立て手続をとることができないことに注意が必要である。
※なお後見人の生前であれば、任意後見監督人は法定後見開始の請求権者である。「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に限り、任意後見から法定後見への移行が可能である。
※受任者(任意後見人)が複数であるときの処理は若干複雑であり、ここでは解説を省く。

複数後見の場合

後見人等が複数いる場合、残った後見人等が職務を遂行することになる。
死亡した後見人と権限分掌の定めがある場合、職権で権限分掌の取消しがなされる(民§859の2-II)。
必要があれば新たな後見人等を選任することができる(民§843-III)が、法律上当然に補充されるわけではない(後述する民法843条2項は適用されない)。

監督人がいるとき(法定後見)

後見監督人は、後見人が欠けた場合、後任の選任を遅滞なく家庭裁判所に請求することとなっている(民§851②)。
また急迫の事情がある場合は、監督人自ら必要な処分をすることができる(民§851③)。

後任者の選任手続

ここでは、法定後見(成年後見・保佐・補助)において単独の後見人が死亡した場合における、後任者の選任手続について述べる。

選任申立て

後見人が欠けたとき、関係者は後任の選任を家庭裁判所に請求することとなる。
申立権者は、本人・親族・利害関係人である(民§843-II。このほか上述のとおり、監督人も請求ができる(民§851②))。
ここでいう親族は民法一般における範囲、すなわち6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族である。(なお開始申立ての申立権者は4親等内である。)
利害関係人は、債権者、債務者などである。つまり家主や入所施設なども申立てが可能である。
もっとも後任の選任は職権で行うことができる。このため実務上は、後見人の関係者が後見人の死亡を家庭裁判所に連絡し、職権による選任を促すことが多いと思われる。

陳述の聴取

家庭裁判所が選任の審判を行うにあたっては、開始申立ての場合と同じく、本人の陳述を聴くことになっている。
本人の心身の障害により意思疎通が不可能な場合、後見類型であれば聴取を省略することができる(家事法§120-I)。
これに対して、保佐・補助類型の場合は省略ができない(同§130-I、139-I)。最悪の場合、改めて後見開始の申立てを行わざるをえないこともある。

代理権付与の審判

保佐・補助の場合、代理権付与については当初選任時のものが引き継がれる。改めて審判を経る必要はない。

審判の確定

新後見人が審判書を受領した日が効力発生日となる。
選任審判については即時抗告が認められていないため、2週間を待つ必要はない。

登記

新後見人の選任については、審判を経ているため、家庭裁判所からの嘱託により登記がなされる。
これに対し、前後見人の死亡については、嘱託がなされない。したがって、新後見人等が東京法務局に変更の登記を申請する必要がある。

前後見人の相続人が負う義務

前後見人の相続人は、法律上次の義務を負う。いずれも現実には対応が困難であり、批判が多い規定である。

応急処分義務

急迫の事情があるときは、必要な処分をしなければならない。

管理の計算義務

清算事務である。後見人就任中に生じた一切の財産上の収支を計算し、その間の財産の変動と現状を明らかにする必要がある。
通常は新後見人に対して報告をすることになる。

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