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『八十日間世界一周』読んでみた!

人間のみなさん、こんにちは。
大浮藻です。

『八十日間世界一周』を読んだので(そしてとっても面白かったので!)、概要と感想を交えつつ物語の大まかなところをまとめていきたいと思います!(自分用の読書メモです)

ネタバレばかりなので「これから読むんだ〜」という人はページを閉じるか覚悟を決めるかのどちらかでお願いします。150年くらい前の話なので、ネタバレには配慮いたしません。


【八十日間世界一周ってどんな話?】

★謎に包まれたお金持ち『フィリアス・フォッグ』氏が80日間で世界一周できるかどうかの賭けに挑む話。

★1872年が舞台。日本でいうと廃藩置県(1871年)があったくらいのころですね。

★日本で鉄道が初めて走ったのも1872年だそうです(横浜ー新橋間)。


【八十日間世界一周の主な登場人物は?】


☆フィリアス・フォッグ:素性は謎に包まれた、なんだかすごいお金持ち。『改革クラブ』というロンドンでも有名な社交クラブに名を連ねている。とても几帳面であり、毎日真夜中12時ぴったりに屋敷に帰るなど、時計のように正確な一日を過ごす。ホイストというゲームが得意で、ホイストで勝った賭け金は慈善用の資金にそっくり回す。常に冷静沈着でまるで機械のよう。

☆ジャン・パスパルトゥー:パスパルトゥー(合鍵)というあだ名を持つくらいに「大変なことがあってもすり抜けられちゃうほど」器用なフォッグ氏の召使い。フォッグ氏の召使いになるまでは歌手をしたり、サーカスの軽業をやってみたり、体操の先生、パリで消防士などもしていたりした。落ち着いた生活がしたくて几帳面なフォッグ氏の召使いになるべくやってきたのだが……?タイトルからわかるようにそうは問屋が卸さない。旅の中でおそらく一番苦労したひと。手が早くて色んな人をボコボコにしているが、いい人。

☆アウダ婦人:インドで殉死させられそうになっていたところをフォッグ氏に助け出される。容姿も心もめちゃめちゃ美しいことが描写からうかがい知れるが、そんなアウダ婦人に熱心にお礼を言われても特に心を揺さぶられるわけでもないのがフォッグ氏。いい人。

☆フィックス刑事:5万5千ポンドの盗難事件の犯人を追っている。人相書きの男がフォッグ氏にかなり似ていたため、フォッグ氏が犯人だとしてフォッグ氏を逮捕しようと世界一周の旅について回ることになる。思い込みがすごい人。



【八十日間世界一周、感想】

・作者のジュール・ヴェルヌが『12歳の頃に未知の国への憧れと、従姉妹へサンゴの首飾りを買おうとしたことから密航を試み、捕まる』というとんでもないエピソードを持っているのですが、そういう逸話があるのに納得がいくくらい『旅』に関しての描写の密度が濃いですね。『八十日間世界一周』では鉄道に乗ったり、船で嵐に遭ったり、象に乗ってみたり……と様々な乗り物を乗り継いで世界一周を試みるわけですが、たぶん作者のヴェルヌがそういう旅をやってみたかったんじゃないかなと思って読みました。

・フォッグ氏の旅行記のような作品なのかな〜。と思いつつ読み始めましたが、パスパルトゥーが終始良い人だし災難に見舞われがちだし、いいキャラです。もはやパスパルトゥー奮闘記。この作品の中で一番頑張ったのはパスパルトゥーかもしれない。

・パスパルトゥー、あまりに機械的なフォッグ氏の生活をみて「よかった。まさに望みどおりだ。(中略)旦那さまは決して旅行をなさらず、毎日規則正しい生活をなさる。まるで機械のようなお方だ。おれは機械に仕えるのが望みだったんだ!」と喜ぶシーンがあるんですが、この作品のタイトル、『八十日間世界一周』なんですよ。のっけから可哀想で笑ってしまう。

・『謎のお金持ち』と『その召使い』で世界一周してもそんなに盛り上がらないんじゃないのお?と斜に構えておりましたが、『インドで美女を助ける』、『刑事に事件の犯人として追われる』など、別のイベントを絡ませて盛り上げていく手腕がすごい。何もかもが淡々と書かれていくんですが、その一方で次々に起こるイベントとその伏線回収が凄まじい。

・わたしの読んだ『光文社古典新訳文庫』の『八十日間世界一周』は上下巻に別れていて、後ろのあらすじを見たときに「アヘンと酒に酔ったパスパルトゥーはフォッグ氏とはぐれてしまい……」みたいな一文があって「呑気にアヘンやってるんじゃないよ!!」とツッコミを入れてしまったんですけど、パスパルトゥーは悪くありませんでした。本を読むと意味がわかります。彼は悪くないんです。本当です。

・フォッグ氏は終始冷静で、読んでても本当に「この人機械みたいだな〜」と思ってしまうんですが、パスパルトゥーがフォッグ氏とは裏腹に常に心配したり、ほっとしたりと表情豊かなので、臨場感があります。パスパルトゥーが嵐にキレて『猿のように身軽な動きでマストにのぼって水夫たちを驚かせた』シーンがあるんですが、ここであの凄まじい転職経歴が生かされるんかい!とツッコミを入れてしまいました。

・他にも色んなところでパスパルトゥーはその身軽さを活かして立ち回るんですが(芸は身を助くってこういう意味かも)、困難な状況でも切り抜けられるからこその【パスパルトゥー(合鍵)】、お似合いのあだ名だなと納得。初めてパスパルトゥーがフォッグ氏とあったときに、あだ名の由来(合鍵)と「もうパスパルトゥーは返上したい」みたいな話をするんですが、フォッグ氏は「返上の必要はない」って返すんですよ。旅程での様々な困苦とその切り抜け方を見るに、本当に「返上の必要はない」ので、フォッグ氏の先見の明たるや。

・嵐に3回くらい遭ったり、焼き殺されようとしている美女を助けたり、政治的集会に巻き込まれて殴られたり、鉄道に乗っている間に現地の住民に襲撃されたり、80日間でこんなに濃い旅行をしたらもうしばらくは旅行しなくてもいいかな……と思えるほど盛りだくさんの旅行。よくこれ80日でやりとげたなあ。

・鎖国をやめて開国したばかりの日本の話も出てくるんですが、お歯黒(既婚女性が歯を黒く染めていた習慣)に「流行りなのかわからないが、日本の女性はだいたい歯を黒く染めている」みたいな一文があって、外国の人から見たらそんな感じだったんだなあと面白く感じました。確かに歯を黒く染めるって事情が分からなかったらよくわからない風習(?)ですもんね。

・1872年が舞台の話なので、当時の生活なども垣間見れて面白かったです。アメリカ大陸横断鉄道とか、今(2023年)だとあんまり想像付かないところもあるんですが、ドレスに燕尾服で鉄道に乗っていた時代はロマンありますね。

・物語が進むに連れて、フォッグ氏の誠実さを見たフィックス刑事がフォッグ氏へ対する印象を変えていき、「本当にこいつは盗難事件の犯人なのか?」と悩むシーンも見受けられるんですが、ここが良かったですね。自分の目の前にいるのは悪人なのか?それとも……?という。最初は旅の邪魔をしてやろうとしていたりもしたんですが、旅が進むに連れて一行の窮地を救ったりと、人間臭くてよかったです。フォッグ氏が機械的に見えるからこそ、フィックス刑事の割り切れなさや、パスパルトゥーの感情豊かなところがより引き立つなと。お互いに引き立てあってていい感じ。最終的にフィックス刑事がフォッグ氏を捕まえたかどうかは本を読んでご確認ください。なんかいい感じに終わるので。

・登場人物たちが何らかの「義務」に誠実に向き合っているので、(主人としての義務、使用人としての義務、刑事としての義務……)本当の意味でずるい人間がいないのもストレスなく読めていいかなぁと。純粋に冒険物語として楽しめて良かったです。

・元々が連載小説だったこともあってか、細かく章が区切られているので、通勤途中の電車の中でも読みやすいです。「ちょこっと読む」を繰り返すのにちょうどいい文量で、気付いたら読み終わってたって感じでした。

・ラストが本当に「そうきたか!」という興奮で終われるスカッとした終わりなので、ハッピーエンドが好きな人におすすめ。そこに至るまでにはハラハラとドキドキがついて回るんですが、最後まで読むと本棚の一角にこの本をおいておきたくなることうけあい。



 最後まで穏やかには進まない物語で、フォッグ氏は盗難事件の犯人なのか、賭けに勝てるかどうか、本当に先が読めない話になっているので、ぜひ読んでみてください!

読み終わったら旅に出たくなってきました。


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