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長野県の5月に地獄と夢を見出した

長野県の畑は、土色から緑色に急激に変わった。
どこかでカッコウが鳴き、そよ風にのって草刈機のエンジン音が聞こえてくる。

長野県への移住を考えているあなたは、ここに人間の生活の原風景を見出しているのかもしれない。

緑に囲まれて、心身が健やかになって、感謝の念が芽生えると言うのかも知れない。

またそうすると。
「だって、そうでしょ?」と、あなたは念を押してくる。

否!
断じて否!

いかん、さっそく取り乱してしまった。
移住ジャーナリスト(自称)として暴言であった。

このレポートは、長野県を批判をするものではない。
安易な移住をしないように考えて頂くのが目的である。

いずれにしても率直に謝りたい。
申し訳ない。

お詫び代わりとして、私は告白する。
長野県に移住してからこのかた、どんどんと心が腐ってきている、と。

その証拠に、先だってタマネギの苗を植えたときもそうだ。
早々と嫌になりかけて「今年もタマネギが不作で高く売れますように!」と祈りながら2000本もの苗をせっせと植えてしまった。

もちろん、自分のタマネギだけは豊作で、他人のタマネギだけは不作になるという破綻している祈りである。

人々はタマネギを食べたくて食べたくて仕方がなくて、貯金をおろしてまで買い求める、という妄想にまで至った。

そうではないのか?
作ったものは高く売れてほしくはないか?

でも、なんと楽しく2000本の苗を植えれたことか!
なんと心が腐っていることか!

そもそもが、あれって。
しゃがんで屈んで作業するから、小太りにはキツい。

かつては、和製トム・クルーズとまでいわれた私なのに。
タマネギの苗ごときで苦戦するとは情けない話である。

え?

ありますよ。
トム・クルーズっていわれたこと。

東京の錦糸町で、30年前に。
今よりも、30キロも体重が軽いときに。
ルーマニアパブの1晩だけだけど。

「アナタ、トムクルーズミタイ!」ってコマネチみたいなルーマニア女性にキャッキャッされて、気がつけば生活費まで全て飲んだ次第である。

まあ、そんな過去の称賛などどうでもいい。
話を戻して、移住希望者には問いたい。

あなたは、草刈りが好きだろうか?
もしくは、草刈りを無心になってできるだろうか?

もっといえば、草刈りに喜びを見出せるだろうか?
草刈りがしたくてしたくてたまらないだろうか?

唐突な質問ではない。
長野県に移住すると、草刈りの時間が膨大に増える。

庭の草刈りをして、その辺の土手の草刈りをして、やれ、墓場の草刈りをしてくれないか、用水路沿いの草刈りをしてくれないか。

あそこの草刈りもしなければだ、草刈り当番がどうだ。
1年に1回刈ればいいのに、3回も4回もやる。

長らく東京でビジネスマン(端くれ)をしていた私は、これほど草刈りに悩まされるとは思ってもみなかった。

そのビジネスマンの30年の間、草刈りのスケジュールなど1秒も考えたことがなかった。

そうすると、また、あなたは。
「でも、草が刈られていると気持ちがいい」という。

ふーん・・・
そう・・・

もう、やめてくれない?

その、草の乱れは心の乱れ、みたいな言いかた。
草刈道三段、みたいな念の入れかた。

年寄りがそういう態度だし、それでも放っておくと92歳が草刈りをしようとするから、集落では超若手の私がやらなければいけない。

親切からではない。
どうせ、92歳はすべって転んで骨折して寝たきりになる。
ちょくちょい聞くパターンである。

そんなこんなで、草刈りで5月が終わってしまった私はとしては「草が生えすぎて死んだ人間はいないですから」と説いて回りたい。

すると、この前も先手を打つようにして。
「勉強中にわるいけど、お寺の草刈りをやってくれないか」と86歳の区長が杖をついてやってきた。

去年に、お寺の草刈りを「司法試験の勉強をしているから」と断ったから、勉強中にわるいけどと区長は言っている。

え?
司法試験?

もちろんやってないですよ。
寝っころがって『相棒』の再放送を見てましたよ。
草刈りよりも、杉下右京のほうが大事でしょう。

それに、家にいるからって『暇でしょ?』といわんばかりに頼んできたから『そうじゃないんだよ』という嫌味も込めての司法試験だったのに。

だいたいが、あの血色がよくてスケベそうで、脂ぎって太っている住職がダイエットだと思って草刈りをやればいい。

とにかくも。
お寺を通じて「あの一平さんは、司法試験の勉強をしていて感心だ」と話が大真面目に回ってしまった。

それにしても、本当に冗談が通じない長野県人。
勉強さえすれば偉いと思う長野県人。

その小太りのどこが司法試験なんだという突っこみがあってもいいし、今から司法試験を目指してどうするんだという冷静な話から、なんでも頼めばいいってもんじゃないと、お互いに話し合うまでがあってもいいのに。

結局、どこかで。
カッコウが鳴いている。

読経も聞こえるお寺の境内で、草刈機を持つ私は「地獄だ」とつぶやいている。

そうではないのか?
ほのかに地獄を感じないか?

賽の河原のような。

あの賽の河原では、石を積み上げると鬼が来ては崩す。
また石を積み上げては鬼が来て崩す。
それを永遠と繰り返す。

ここでも、草を刈っても草がまた生えくる。
人々は、草刈りしなければと目を吊り上げて迫ってくる。

この気が滅入るエンドレスさ。
賽の河原の構図と似ている気がしてならない。

しかし。
私には夢がある。

いずれこの集落を草深い地にするという夢が。
草ボウボウがオシャレとなる時代がくるという夢が。

その夢を想う私は、なんと楽しく草刈りができたことか!
なんと心が腐っていることか!

ともかく、結論としてだ。
長野県へ移住すると、草刈りをめぐる人の争いに巻き込まれる。
草刈りよりも、争う人々のほうにやられてしまう。

事態は深刻である。

このレポート(ほとんど愚痴)によって、私は非常に厳しい状況に陥るだろう。
区長や住職の差配で、村八分は決定的になるかもしれない。

しかし、私はどのような村八分にも屈しない。
引き続き、移住の真実をレポートをしなければならない。
私の夢は、皆さんと共にある。

というわけで。
ここはひとつ。
今後のレポートの調査費を、お願いする次第である。

いや、正直にいう。
草刈りのしすぎで、ビジネスマンのマネごとをしたくて仕方がない。

そこで、今風にビジネスモデルとやらを考案した。
後払い式有料記事システム、である。
略して、AUS。

読んでみて役に立たったなぁ、と瞬間でも思った時点で有料記事となる。

斬新なビジネスモデルではないか。
すべての note の有料記事というのは前払いなのに、私だけがAUS。

しかも。
金額は自由につけていただいてかまわない。

もちろん10円とか50円でもいいけど一応こっちも大人だし、note の『サポート』機能は100円からとなってる。

なので、キリのいいところで500円とか、1000円とか、やっぱ1000円とか、草刈り問題を考慮してなかったという移住希望者は2000円とか。

まあでも、2000円もサポートされたら、タマネギのひとつでも返礼品として送らないといけないなという気持ちはある。

だけど、心が腐った小太りが、不作を祈りながら植えた苗のタマネギなんて誰も食べたくないだろう。
正直に告白して失敗した感がすでにある。

やっぱ、ああいったのは、心が澄んだトム・クルーズみたいな人がニコニコしながら爽やかに植えないと。

なんにしてもだ。
長野県に移住するのは、私の調査が終わってからでも遅くはない。

レポートの続きを待たれよ。

大俵一平


レポート作成に使わせていただきます。 ありがとうござます。