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20240330(下)

↑からの続きです。

 愛媛教育会館。国に登録された文化財との事。電話の地図アプリで住所で引いて、その辺りの写真を調べてみると、何やら今風のマンションが出て来て、ここでは無いだろうと思っていたマンションが見えて来た。遠くは無いだろうと、暫く探してみると、少し歴史のありそうな建物が見えて来て、前まで来ると、やはりそれが愛媛教育会館である事が分かった。

愛媛教育会館

 愛媛教育会館の場所は分かったけれど、開演の時間までまだまだ時間があって、どうしようかと考えていたところ、教育会館の入り口が開かれている事に気が付いて、少し探検をする様に入ってみる事にした。
 玄関から入ると、これまた懐かしい様な、良い雰囲気のの建物で、以前に寺尾紗穂さんを拝見した、幾つかの良い佇まいの会場を思い出した。
 そうして、感慨深い気持ちになって。
 ライブ会場は2階と案内する看板が目に入って、木造の階段を上がる。上がりきった踊り場には大きな窓があって、差し込む光が春。

案内の看板の佇まいに味あり。

 外l全く講堂がある様には思えなかった外観。講堂の入口に受付があって、入場の受付も始まっている様子だったので、済ませて会場に入る事にした。
 昨日、滑り込む様に予約をして、早々に入場する事に少し恐縮しながら、ライブの代金を支払って、能登半島の地震の募金箱があったので幾らか。
 受付で自分の整理番号が書かれたカードを貰って、講堂の中に入って見ると、建物の外観からは想像出来ない広さで、少し驚いた。
 天井が高くて、ここも外から春の光が差し込んで、土曜日の午後の佇まい。

 同時開催されているマルシェが、客席を囲む様に出店されていて、並ぶお店の雰囲気が愛媛の柔らかさの様に思えた。
 ここに来るまで、些か、訳も在らずばたばたと過ごしていた様な気もするので、気持ちを落ち着けて、マルシェを回る前に先ず書き物など。ライブの予約が遅い割に、見通しの良い席に着く事が出来て、少し恐縮。
 書き物のキリが良くなって、小腹も空いたので、マルシェで補おうと思い端から端までお店を回る。一周して心に飛び込んで来たのが、カルツォーネ。と言うのが包みピザという事を理解するまで暫く時間が掛かってしまった。
 大洲のピザ屋さん、F.O.Gさん。それならそれで早く言ってくれれば良かったのにと思いながら、マルガリータと共に愛媛で採れたみかんを使ったであろう、みかんジュースを頂いた。

カルツォーネ。

 これなら、もう1セット行けると思ったけれど、開演時間も近付いていたので、泣く泣く諦めた。

 そうして、開演時間を席に腰を掛けて待っていると、近くの席の妙齢のご婦人の姿が目に入って来て、大切に持っているのは、何やら物販で購入しただろう寺尾紗穂さんのアルバム「風はびゅうびゅう」のCD。開封すると帯が落ちてしまって、即座に拾ってCDのケースの歌詞カードが収められている部分に戻した。戻したと思ったら、次に歌詞カードを取り出して、頁を開いて、一頁、一頁、丁寧に。紙に穴が開く位とはこの事だろうと思える様子で、歌詞カードを何度も繰り返す様に見て居られた。
 中でも特に「魔法みたいに」の歌詞を熱心に読み込んでいる様に見えて、この「風はびゅうびゅう」の愛でられ方はCDの本望だろうと思ったのと同時に、こんな、CDの触れ方を最近した事が無い事に気が付いて、何か大切なものを失っては無いだろうかという気持ちになって、そのご婦人の姿勢に異様に心が打たれた。

ステージ。

 開演時間の15:00を迎えて、主催の双海町のカトラッチャ珈琲焙煎所のご主人のご挨拶で、今回の「愛よ、届け。」が催された経緯を知った自分は、ひょっとすると大変無礼者かと思ったけれど、聴くは一瞬の恥、聴かぬは一生の恥。という事で、それはそれで良しとした。
 ご主人の思いが広い講堂に放たれた様にも思えて、寺尾紗穂さんが会場の拍手で迎えられた。

 グランドピアノとエレクトリック‧ピアノが並べられたステージ。譜面立てに譜面などを置いて、一曲目が「風はびゅうびゅう」。
 JR四国、予讃線の伊予市駅での光景や、先のCDを愛でるご婦人の姿勢が頭の中で過って、涙腺の決壊。同じ様に心を打たれた人が多かったのか、涙腺の結界は講堂の中のあちらこちらで発生していた様に思えたのは、鼻を啜る音があちらこちらから聴こえたので。
 土曜日、午後三時の広い講堂に響く、紗穂さんの歌とグランドピアノの音色。贅沢な時間を、今日、ここにやって来る時間と共に過ごす。

 頭の中に焼き付いた、今日の光景が何度も繰り返される。

 それから、会えなくなってしまった誰かを思う様な歌詞が印象的な「反骨の人」で二度目の涙腺が決壊した。涙を流し過ぎて脱水症状にも注意をせねばならない位だと思った。
 紗穂さんが松山でのワンマンは初めて(だったでしょうか?)との事で、そんな場所に立ち会う事が出来て嬉しいと思いながら。
 映画「転校生 さよならあなた」の主題歌「さよならの歌」で歌と後半の奏でられるピアノの旋律と音色に惚れ惚れして耳を傾けた。
 から、NHKのテレビ番組「Dearにっぽん」のテーマ曲となっている「魔法みたいに」に、またうっとりとしながら、アルバムに収録されている大熊亘さんのクラリネットの音を頭の中で鳴らした。
 ライブは続いて、この時間が終わって欲しくないと何度と無く思う。そして、アルバム「北へ向かう」から「心ままに」から、塩田で働く労働者の歌という解説があって「浜子うた」。大三島や伯方の光景が頭の中で浮かんだ。
 そして曲の前の解説が心に焼き付いてしまった「アジアの汗」。通り掛かりの道路工事や建築現場で働く、どこの国から働きに来てくれているのだろうか、誰でも無い、様々な人の顔を思い出しながら聞いた。
 それから当時はどんな光景が広がっていたのだろうと、想像を頭に巡らせながら。特攻隊と疎開に浅間温泉にやって来た学童の歌。この歌が歌われてから世界平和がやって来る事はあったのかと考えながら拝聴した「浅間温泉望郷の歌」から、このライブのタイトルにもなっている「愛よ、届け。」で一部の幕が降りた。

 あぁ、何と言う贅沢な土曜日の午後だろうと思いながら。何となく、感慨深く、休憩時間を過ごして、第二部。

何ともな佇まい、隅に置かれたグランドピアノ。

 カシオのエレクトリック‧ピアノの音が何とも言えないウーリッツアー加減で演奏された「迷う」で幕が開いて、またグランドピアノに戻って、最近のアルバム「余白のメロディー」一曲目の「灰のうた」。そして和訳にジョニ‧ミッチェルのカバー「a case of you」と続いて、いつかはこんな日を迎えるのだろうなと思うと、少し胸が締め付けられる様な気持ちで拝聴する「骨の姉さん」
 そして新曲、先日の岡山では冬にわかれてのバージョンは拝聴したけれど、ソロでは初めて拝聴する「愛のありか」とは続いた。
 愛媛県は松山まで来て、こんな土曜日の午後を堪能出来るとは思って無かった。
 それから拝聴していると、目の前の光景がモノクロームになってしまう様な「富士山」で、また、飛行機の中から見えた富士山の頂を思い出したりもする。遠い富士山。
 本編の最後は、アルバム「余白のメロディー」の最後に収められている、西岡恭蔵さんのカバーで、「グローリー‧ハレルヤ」。
 歌の力強さと同時に、何故だか儚さも少し感じながら。それで本編の幕が降りた。

 そしてアンコールに歌詞が微笑ましくて、年齢的に、そんな時代に戻りたくなる「リアル‧ラブにはまだ」が最初に演奏されて、2曲目、リクエストをした人のセンスが良過ぎと思った「夕まぐれ」でまったりとした、土曜日の夕暮れ近くの講堂、何とも清々しい気持ちになれた寺尾紗穂さんのライブの幕が降りた。

 開演前にCDのブックレットに穴が開く位の勢いで見ていたご婦人は、松山駅からの電車の時刻表も見ていたので、乗ろうとしている列車に間に合うだろうか。そんな余計な事も考えながら。

 今日の1日が「愛よ、届け。」の様な1日でした。

印象深い土曜日の午後で、忘れがたい一日をありがとうございました。

 また伺います。

忘れ難い一日をありがとうございました。

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