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きみのしずかな体

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  • ぼくたちのかわかないみずたまり

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  • 2013年に発行した詩集「0」(私家版)より数点ピックアップしました。

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最近の記事

予感っぽい冬の終わり

春の気配に耐えられなくなって空気清浄機を買った。目と喉がいがいがするし、起き抜けに鼻血が出る。花粉症って本当に意味がない。その分、体がつらいことがそのほかの病気を上回ってみじめ。小さいけど12畳くらい清めてくれるらしい。なんだか空気の張りが違う。それで楽になるなら別にプラシーボ効果でもいい。親が絶対に必要なのに買おうとも思っていないもの第一位の空気清浄機を買ったので、次は食洗機、その次はドラム式洗濯機を買って、みんなでなんだか生活が楽しくなったという気になりたい。 生活、た

    • うれしい通知

       昨日昼寝をしてしまったせいか、今朝は5時に目が覚めた。お弁当にするスープをつくって、家族と飲むコーヒーも入れて、朝食を食べて、身支度が済んでもまだ家を出るまで一時間くらい余裕があった。LINEの通知がきて、開くと私の短歌にひらがなでルビを振っている写真がある。うれしくて笑ってしまった。 平日の朝に声を出して笑うなんて滅多にないことだから、元気づけられた。これは、私が短歌の本をつくっていると言ったら強く「買いたい」と言ってくれたSakuraに、いや、あげるよって言って、EM

      • 雪に見惚れるようにあなたは

        誰に頼まれてもいない日記を書こうと思って、冷たいノートパソコンを撫でる夜が本当に大切だと思う。この夜を守るためなら私は狭いバスルームの1Kにいつ戻ってもいい。すぐに他人の部屋の匂いがする安っぽい薄い壁の部屋。それを思い出しながらも、実家の大きなバスタブで両足を伸ばしきって温まった私の体は本当に贅沢だ。 正月に引いたしつこい風邪がほとんど治って、雪の積もった森の中を歩いてみた。私の散歩道には一応コンクリートで覆われた部分もあるんだけど、ほとんどが土だから、森と呼んでもいいと思

        • いつかあなただった

          新しく買ったMac bookのデスクトップを、インドネシアの海の写真にしている。インドネシアには行ったことがないけど、インドネシアの海の写真は手元に4枚ある。もうわかった と言われそうだけど、オンラインゲームで知り合った友人が送ってくれるから。その子が送ってくれる写真はいつもその子がつくったご飯かお菓子か海。大福の写真を送ってくれたこともあった。英語の言葉遣いがすごく明朗で無邪気で可愛い子。友達とhang outするときも落ちこんだ時もあの子は海に行く。写真の海はいつか新潟の

        予感っぽい冬の終わり

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        記事

          追いかけちゃいけないたましい

          人に会うと会った時間×2倍 寝ないと頭の疲れが解消されない。頭が疲れていると好きな趣味が何もできないので体を持て余す。でもしばらくはこうだろう。思い切り眠ると起きた世界が明るい。 今月から思いもよらない部署に異動になって、「なんで?」と思いながら出社したんだけど、意外となんとかなるかもしれない。なんとかなるならいいや。今までの勤務先とは何か問題が起こる度に気が済むまで揉めたらすぐに辞めていたけど、賭けてみて良かった。 数日前、すごく久しぶりに東京に行った。大学の先輩がグル

          追いかけちゃいけないたましい

          金木犀は東京の花

          夏の終わりかけに金木犀のワセリンを買った。銀色の平たい可愛い缶に入っていて、蓋をツルツル撫でるだけでなんだか嬉しい。ただ、今それを使おうとしてよく見たらワセリンじゃなくて「きんもくせいバウム(化粧用油)」と書かれていて、何それ?どこに使うの?と混乱している。金木犀を嗅いだ気分になりたいだけだったから、とりあえず手の甲に塗る。 以前、付き合っていた人と車に乗ってるときに不意に「金木犀の香りってどんなの?」と聞かれてびっくりした。「金木犀の実物を見たことがない。」「周りが秋にな

          金木犀は東京の花

          子どもがいなくても幸せになれてしまうかもしれないということについて

          近所に弟の家が建った。厳密に言うと弟夫婦の家だけど、私にとって、より身近なのが弟なのでそういう書き出しにしておく。私には弟が二人いる。家を建てたのは真ん中の弟だ。彼は小さい頃から赤ちゃんが好きで、5つ歳の離れた末の弟が生まれた時は、彼のことを溺愛していた。それはもう頬いっぱいにキスマークができて赤ちゃんとは思えない肌荒れを常時引き起こすレベルだった。私は引いていた。義理の妹も子どもが好きなようで、子どもの話をしていると一層柔らかい眼差しになる。なので、実家で両親と弟夫婦と食卓

          子どもがいなくても幸せになれてしまうかもしれないということについて

          春色日記

          ヤマシタトモコの違国日記に、「アサガオの観察日記なんか大人になってからやった方が楽しいに決まってる」というセリフがある。それを思い出して、今年は春になったらチューリップの観察日記をつけようと決めていた。先のセリフは、小説家の主人公が姪に日記をつけるよう促す意図で発せられたものだけど、今の私に自分に起こる出来事をただただ率直に記していくことは難しく、植物を見ていて思いついたことを書く方が、かえって自分の気分を理解できるのではないかと思ったのだ。チューリップは、つい先日、芽を出し

          春色日記

          どのトキメキを守りたい?

          長期的な努力をつづけていると、初期衝動を忘れてしまう。「できるようになりたい」「やってける自分になりたい」という柔らかい気分を、そのままの形で手垢をつけずとっておく方法は少ない。たとえばいい感じの音楽を聴くことくらいしかない。それすら、他者の言語であることには変わりないので、気分の丸い輪郭はすこしずつすこしずつ損なわれてしまう。だから何というわけでもないのだけれど、この気分くらいは言葉で書き残してもいいかと思う。今の私が好きになった仕事、好きになった人、好きになった場所、そう

          どのトキメキを守りたい?

          宇宙人とは友達になれない

          宇宙人の話をしたときに まあ自分達だって 他の星から見れば宇宙人だからと すっとぼける そういうお愛想 いけ好かない けど 嫌いになれずに笑ってしまう これは何回目? 使わずにとっておいた ひとりの人間を壊せるだけの正義 パワー 無駄だね こんなに明るいのに冷たい夜がある 五年前からここにあるベンチに 座っている しずかに ここが星だとなぜわかったの?

          宇宙人とは友達になれない

          下ネタとミニブタ

          ミニブタを飼っている人に会うと、微妙な気分になる。実家に住んでいたころ、近所にミニブタを飼っている家があって、庭に柵をつくって放牧しているのを見たことがある。黒くてコロコロしたシルエットを見て、「かわいいね」と、母の運転する車の後部座席に乗りながら話した。後に聞いた話だが、その人はミニブタをとても可愛がっていて、そのせいか餌をやりすぎて、ふつうのブタと同じサイズにしてしまい、困っていたらしい。 なんとなくなのだが、対面している男性に下ネタを言われると、自分がミニブタを飼って

          下ネタとミニブタ

          職場から脱走した話

          その日がどんな天気で、空の色が何色だったのすら、もう思い出せない。最近の私の身体は泥水をかためたように重かった。 3ヶ月前に、都内の小さな会社に正社員の面接を受けに行った。サインデザインと図面制作の仕事だと聞いていた。デザインを仕事にするかどうか最後まで迷っていたけれど、サインという媒体でデザインをしていくのは、おもしろそうだと思った。グラフィックと座学をメインに大学で勉強していた私は、「まったくの異分野なので勉強させて頂きながら頑張ります」と言って入った。試用期間は3ヶ月

          職場から脱走した話

          きみが僕を好きなのは、僕になにか期待しているからだろ

          告白をはぐらかしてしまう。弁明すると、悪意からではない。ただ、人から性欲を向けられることに嫌悪感があり、そういったムードを忌避してしまう。友人だと思っていた人に、友人になれると思っていた人に嫌われたくない。このままの関係でいたい。やさしくされたい。でも、それをはっきりと言えない。だから好意をほのめかされても、「気のせいじゃない?」と笑っていた。残酷だっただろう。ただ、それの何が悪いのか。ピンとこねぇ。と、ふと思った。 「好きです」「つきあってください」という言葉をはっきりと

          きみが僕を好きなのは、僕になにか期待しているからだろ

          友人

          あなたが 「もう疲れたよ」と言うかわりに 一つきり 砂のような溜め息をついたので わたしは今夜 やむにやまれず 西と東の窓を開け 部屋が水色に変わるのを 見ているのかもしれません 捨てるものと捨てられないものとで構成された この部屋の むこうでゆれる金木犀と その背後でこぼれた壁を 夜通し走っていたトラックがふるわせる 尖った音さえ ひとごとのように 聞いていた虫が さっきまでただよっていたコンビニの はるか 奥までつづくコンクリートの道が途切れた 丘の先 わたしにとっての

          ゆめのなかで逢ったひと

          ゆめのなかで、たしかに   に逢ったことがある。けれど   の顔を忘れてしまった。ゆめのなかで、たしかに   に逢ったことがある。けれど   の声を忘れてしまった。ゆめのなかで、たしかに   に逢ったことがある。けれど   のことを忘れてしまった。やさしいまどろみのなか 、誰かに手をひかれて、天井のない白い家の  をくぐった。たしかにそのときまで、   のことを覚えていたのに、もう忘れてしまった。   がくれた優しさのすべてをしまいこんで、氷みたいに固めてとっておこうと思って

          ゆめのなかで逢ったひと

          風を見ていた

          そのとき、私のからだはいくつもの場処で目覚めた。 緑の葉が、目の前で5月の予感に揺れていた。 静けさが、私の足下を固く踏みしめていくのがわかった。 夢の中に、聞いておくべき有り難い話の数々を置き去りにしてしまったことに気づいた。 それは、大事な約束のようなものだったのかもしれなかった。 でも、私は何も対処せずにゆるやかなあくびをひとつした。 くちの中の空気と一緒に、すべて逃がしてあげたかった。

          風を見ていた