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痕跡の連鎖

弱い文脈同士をつなぐものをつくる。それが私のコンテクストデザイン企画だ。

弱い文脈とは、コンテクストデザインにおいて強い文脈とともに説明されるものである。作り手によって作られる強い文脈があり、それを使い手一人ひとりが解釈することによって弱い文脈が生まれる。読み手それぞれが自分の物語を紡ぐための余白を作ったり補助線を引いたりするのが、コンテクストデザインである。

弱い文脈は、強い文脈からだけでなく、他の弱い文脈から生まれることもあると思う。今回は、自分と他の誰かの感じたこと、想像したことをつなげることによって、小さな誤読の連鎖が起こることを目指す。

そしてその連鎖を空間や時間を超えて起こすことに挑戦したいと思う。

まず考えたのは、弱い文脈を集めることだ。強い文脈から弱い文脈が生じるのを待つのではなく、弱い文脈を集めると言う強い文脈を作ればいいのではないかと思った。

そこでやってみたのは、片割れイヤリングという企画だ。

片割れイヤリング

イヤリングやピアスは対になっているものが多い。片方をなくしてしまうと、片方だけ手元に残り、捨てられずに、かといって上手く使いこなすこともできずに保存している。友人に聞いてみても、大抵片割れのイヤリングを手元に置いていた。みんなの片割れのイヤリングを集めて、何か違う意味を持たせることができないかと考えた。

薬指の標本」という小川洋子さんの小説がある。楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡……。人々が思い出の品々を持ち込む標本室が物語の舞台だ。捨てることは出来ないが、手元に置いておくこともできないものを標本として封印する。

イヤリング、ピアスではない物の意味を付与することで新しい物語が生まれるのではないかと思った。しかし、機能が停止してしまうと、弱い文脈の連鎖も停止してしまう。

片割れイヤリングから何かできるのではないか、と進めてみましたが、一旦この企画はやめて他のものを考えてみている。

古着に残された刺繍

PASS THE BATONでは、物品とそれにまつわるストーリーがセットになっている。しかし、文字として表れているストーリーは解釈を生むというよりも理解するという受け取り方になりやすいように思う。伝えようとストーリーを残すのではなく、痕跡が残ってしまい積み重なっていくような、そんなものができないだろうか。

古着屋で買ったシャツに、生地の薄くなった部分を刺繍で繕った跡があった。そこには、どんな風に使っていたのだろう、大切にされていたんだろうなと想像する余白があった。そして、使用しているうちに破ってしまったが、自分も治そうと思った。前の持ち主の刺繍と、自分の刺繍が、時間を超えたレイヤー状に存在している。


図書館の本

図書館の本の貸出カードからも、時間を超えた誰かの存在を感じる。膨大な量の本の中から同じ本を手に取るというのは、なんだか運命的だ。私が生まれる前の日付が刻まれていたりもする。耳をすませばを見てからずっと、図書館の本から恋をはじめたいという願望がある。それは置いておいて。

一部の本を書き込み可能にするという実験をメディアセンターで行なっていた。ある部分に引かれたハイライト、角が折られたページ。その人がどんな風に本を読んだかに思いを馳せることができるが、その人には辿り着けない。だからこそ、自由に想像できる。恋をはじめるには、その人と出会う仕掛けをしなければいけないのだけど。

痕跡の連鎖 - まとめ

服を修繕する刺繍や本に引かれた線は、その痕跡自体の解釈をしてもしなくてもいい。だからこそ、自分が発見したということを喜べる隙間があり、小さな文脈の連鎖を生む気がしている。何か共有する形ある物がカギになる。使うこと、読むことによって痕跡ができてしまうような強い文脈を作り、痕跡の連鎖を起こしたい。

本の貸出カードをアップデートするのか、そのような概念を他のものに応用するのか。アップデートだとしたら、香りを本に残こすことをやってみたいなと思っている。応用だとしたら、公共の場所などに働きかけてみたいなと思っている。

痕跡の連鎖を起こすために。

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