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痕跡採集

物に残る痕跡は、使った人と物とを取り巻く環境の間に生まれる小さな物語の印だ。そんな痕跡を集めてみたいと思った。

よく使うものには、人と物の関係が表れるだろうし、持ち運ぶものは物同士がぶつかったり擦れたりして、物と物の関係が表れるだろう。そこで、普段鞄に入れているものをコピー用紙で梱包し、物語を映し出す実験をした。

私の物を梱包する

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スマホ。最初は、手の水分によって背面の紙が波打つ。側面が茶色く色づく。次に、指を置く位置がだんだんと薄くなって、側面に穴が開く。背面にもスマホを支えるために置いている右手人差し指、中指、薬指の指先に穴が開き、使用するのに支障をきたし始める。

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財布。定期入れ。紙が外れてくる。私の梱包技術も原因ではあるが、複雑な作りや、開け閉め折り曲げなどの動作があるからだろう。初対面の人に会う際に、見られるのが恥ずかしくって外してしまった。

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メイク道具。使う毎の変化は大きくないが、気がつくと結構痕跡が残っているなと思う。ちょっと汚い。アイシャドウにアイシャドウの色が、中の色が外に付いているだけでなく、アイブロウペンシルにファンデーションの色が付いていたりする。順番や力関係みたいなものが現れている。
実験中、片方無くしたキャップや、ポケットに入れたまま洗濯してしまったリップがあって、コピー用紙に付いたものよりも強い爪痕を残している。

スマホは「常に」使っているので、痕跡は使用の度合いが現れる。
メイク道具やその他に鍵などは「1日1,2回」と使用のペースが決まっている。
この頻度がもっと少なくて「1年に1回」とか、例えばお節料理のための重箱なら、傷跡を見たときに「あのときのあの痕跡」と物語を思い出すこともできるかもしれない。

友人の物を梱包してもらう

私の痕跡採集の様子を友人に見せてみると、ただの消耗品だった物に表情が出ている、という感想をもらった。物が人化している様子に惹かれたようだった。彼女は痕跡が、物が身を削っている様子に見えて「かわいそう」と言っていた。
「やってみたい!」と言ってくれたので、メイク道具をコピー用紙で包んでもらった。

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愛着が湧くかもしれないし、汚れたと感じるかもしれない。
さて、彼女と物との間には、どのような物語が生まれるだろうか。

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