時間、梱包、リレー

周りを見渡して、痕跡を探してみる。

スマホの画面についた指紋、ノートの次のページに写る筆跡の溝、トーストを食べた机の上のパン屑。

痕跡をつくるのは、それまでの状態から変化させるものと、変化させられるものの存在だ。変化させるものが変化させられるものの元から立ち去ったとき、痕跡ができる。車が通り過ぎた後に轍ができるように。

痕跡は、誰かの物語の断片だ。この痕跡が、物語が、連鎖してもこもこと生まれて行くようなものをデザインしようと思っている。

移動すること、時間が経つことで生じる他者の気配。それを暫定的に、ここで言う痕跡の定義とする。

手始めに、生活の中で何か痕跡の連鎖を起こせないかと考えはじめた。
私は今3人でシェアハウスをしている。家の中に他者の気配が散らばっているのだ。まずはこの家の中で、痕跡をより濃く残してみようと思った。

一人が買ってきたお土産の小分けのお菓子。食べるときに、箱のそれまでお菓子がいた場所に日付を書いてみようと思った。たくさん食べたことが直接的にバレるのはちょっと嫌だったので名前ではなく日付で、図書館の貸出カードのようなイメージで、また、河原温が日付を残したようにそこに饅頭があったことを残そうというような気分だった。

が、家の中で会う機会がなく説明できずにいたら、あっさりと捨てられていた。

空き箱はそもそも捨てるものだ。痕跡を連鎖させていくためには、残し続けたいと思うようなものにしなければいけない。

そこで、自分の持ち物を使った痕跡を採取できるようにしようと、小説をあぶらとり紙で包んでみた。

手を置いた位置が残ると面白いのではないかという予測だったのだが、手形はなかなか付かなかった。手にはあまりあぶらがないみたいだ。

けれど冷静に考えると、もし手の跡がついたとしても、なんだか綺麗ではなくて気が進まないような気がする。他の人の手に回って連鎖して行くというなら尚更。

痕跡という言葉の一部には、劣化していくイメージがある。けれどもここで目指す痕跡は、編み物がどんどん編まれていくような、何度も撫でたところが光っている地蔵のようなものでありたい。

ものが移動することによって痕跡は生まれる。人の手から手へものが移動し、自分のところに回ってきたときに痕跡を残したいと思えるような、他人が残した痕跡の蓄積が嬉しいと思えるようなもの。

そこで、ものの貸し借りという行為に注目してみた。今日、ネットの様々なサービスで漫画が読めるし、音楽が聴ける。面白かった事柄を共有するにはURLを送ればいい。しかし、形あるものを移動させるという行為には、本とかCDとかだけじゃないものも移動していると思う。同じ一つのものを共有するということにワクワクする。

部屋を見渡していて見つけたのは、メルカリで買った中古の漫画だ。中古だし痕跡を残してみてもいいかと思ったので、読んでいて好きだった箇所を塗ってみることにした。その漫画を他の人に貸して、他の人にも同じことをやってもらおう。

そんな感じで、貸し借りによるもののリレーを企てています。

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