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選挙カーは必要か?

 約10年間所属していた日本共産党(以下共産党と表記)を離党し、久々に、フラットな立場で、2023年の統一地方選挙を迎えることになりました。
 そこで改めて思ったのは「選挙カーはいらないよな」ということでした。
 党員時代に、選挙カーの製造などを家業にしている方々に大変お世話になりました。その方々には大変申し訳ないのですが、今回は、選挙カー不要論を述べます。

聞く側にとっての選挙カー

 今回の統一地方選挙で、何度も選挙カーからの音を聞く機会がありました。
 率直に言って「うるさいな」という感想しか持てませんでした。
 また、今回の選挙の投票先を決めるにあたり、何の参考にもなりませんでした。
 といっても、これは候補者や選挙カーを運行している政党・団体が悪いわけではありません。
 公職選挙法は、様々な形で選挙活動を制限しており、告示後にできることは、電話での投票依頼・ビラ配布・ネットでの宣伝・選挙カーでの宣伝くらいしかないのです。
 その中で、候補者本人ができるのは、ネットと選挙カーしかないから、仕方ありません。
 しかも、公選法はその選挙カーの使い方についても規制をしています。
 移動している車においては、「連呼行為」しかできません。要は、短い言葉を繰り返すことしかできないのです。
 当然、候補者名を連呼せざるをえないわけです。
 まあ、移動中の車で政策を論じても、聞く方にとっては、2~3センテンスしか頭に入らないので、連呼するよりないのですが…。
 なお、車を止めた状態では、選挙運動としての演説を行う事ができる、と定めています。

 加えていえば、その「名前の連呼」すら、聞き取るのは容易ではありません。
 自宅でこれを書いている今も、どこかの選挙カーが音を出して宣伝しているのですが、何を言っているのか全くもってわかりません。ただ、「音が出ている」というだけなのです。
 様々な行為を禁止する一方、このような無意味な「宣伝活動」のみを容認している公選法の目的は、選挙の投票率を下げ、「政治離れ」を推奨するためだとしか思えません。

地球環境にとっての宣伝カー

 選挙カーのほとんどが、ガソリンを燃料としています。
 したがって、選挙カーを運行すると、温暖化ガスが発生し、地球環境に悪影響を及ぼします。
 特に、莫大な数の立候補者が出る統一地方選挙となれば、どれだけ温暖化ガスが排出されるかわかりません。
 公選法が選挙カーの利用を前提とした条文を定めた時期はわかりません。
 ただ、その当時は、「自動車を運転して排気ガスを出す」という行為が、地球の未来に悪影響を及ぼす、という考えは存在していませんでした。
 しかし、2023年の今は違います。日本でも、2035年までに、ガソリン車を廃止することが決まりました。
 「温暖化ガスを排出しながら選挙宣伝を行う」というのは時代にそぐわない行為だと言わざるを得ません。

乗る側にとっての選挙カー

 さて、筆者はかつて共産党の推薦・公認で3回ほど選挙に立候補しました。
 当然ですが、候補者として活動することにより、様々な貴重な経験ができました。
 したがって、共産党の千葉県中部地区委員会には今でも感謝しています。
 そんななか、これだけは勘弁してほしいと思ったのは、選挙カーに乗り続けることでした。

 どこでもそうでしょうが、公選法が許可している朝8時から夜8時の間は選挙カーを運行し続けます。
 そして、筆者が選挙に出た時は、いずれも候補者は週1日の休みと、朝・昼・夕の食事休憩時間以外は、その間、選挙カーに乗り続ける、というのが原則でした。
 さすがにこれは、身体的にも精神的にも厳しいものがありました。
 しかも、視野に入っているなかで、手を振るなど応援行為をしてくれる人がいたら、こちらも手を振り返す必要があります。
 つまり、常に気を張っていなければなりません。
 疲労がたまっていた日などは、前方に立っている人が手を挙げているのが見えたので、応援と思って手を振ったのですが、よく見たら、それはケンタッキーのカーネル・サンダース像だった、などという事もありました。

 また、選挙カーを走らせる事が、本当に宣伝になっているのか、むしろマイナスになるのでは、と思うことも少なからずありました。
 たとえば、筆者の地元である千葉市において、選挙カーを止めて演説する場所としてよく使われるところに、千葉駅のビックカメラ前があります。
 ここは本来歩道で、車が入れないところですが、事前に許可を得れば、選挙カーは入れます。
 当然ながら、最徐行とは言え、歩道を自動車が走ることになります。
 しかし、いくら違法ではないとは言え、通行する方々にとっては、迷惑以外の何物でもありません。
 候補者として車内からその方々の冷たい視線を浴びながら、「この人達、絶対に自分に投票しないだろうな」と思ったものでした。
 もちろん、移動中の連呼と違い、駅前などでの演説には一定の宣伝効果はあるとは思います。
 しかし、それだけならハンドマイクでも十分可能です。
 周囲の人に迷惑をかけて、歩道に選挙カーを入れてまでやることとは思えませんでした。

 20世紀までだったら、候補者が自分の政策を市民に伝える最善の手段は選挙カーによる連呼・演説だったのかもしれません。
 しかし、時代は違います。
 ウェブサイト・SNS・動画配信サイトなど、様々な形で、市民に直接政策を伝えることが可能となりました。
 特に、スマートフォンが普及した現在、ほぼ全ての人が、それを見ることが可能になっています。
 そのような時代に、少なからぬ人が騒音と感じる音、並びに温暖化ガスを出しながら街を走る選挙カーは本当に必要なのでしょうか。
 特に、筆者の場合は、ツイッターはもちろん、選挙用のウェブサイト・ブログも全て自分で運用していました。
 それだけに、「この選挙カーに乗る時間が半減したら、もっと、ネットでの宣伝を増やせるのに…」と何度も思ったものでした。

公選法の抜本的な改正が必要

 繰り返しになりますが、問題なのは選挙カーを走らせている候補者や政党ではありません。
 それ以外の宣伝手段を厳しく制限している公職選挙法にあります。
 「べからず法」などと呼ばれ、様々な行為を禁止する一方、最悪の選挙違反である買収行為や役所のぐるみ選挙などをまかり通るなど、多数の欠陥があります。
 そもそも、この法律は、大日本帝国時代に作られた「普通選挙法」に定められていた選挙運動の取締規制をより強化する形で受け継ぐものでした(参考・かもがわ出版刊・自由にできる選挙活動 より)。
 民主的とは言い難い法律です。日本の民主政治が機能不全である原因の一つとも言えます。
 この法律を抜本から改正し、先進民主国で認められている選挙活動ができるように変える必要があります。
 あわせて、時代遅れの選挙カーについても、抜本的に変えるべきだと強く思っています。

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