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「日本共産党を批判する事は権力を利する」という言説について

 日本共産党(以下共産党と表記)の党の最高機関である党大会の「結語」を報告する田村新委員長が特定の党員に対しパワハラを行いました(動画)。
 当然、大きく批判されましたが、その批判に対し、「これは権力側を利するものだ」と反論する人を見かけました。
 これは今に始まったことではありません。これまでも、共産党が問題を起こすたびに「共産党を批判することは、権力側を利する」という言説が党外の人も含め、何度も言われてきました。
 しかし、これは事実なのでしょうか。 

今の共産党は本気で「権力」と戦っていない

 上記のような言説が出るのは、「日本共産党は、自公政権や財界などの『権力』と戦い、その体制を変えることを目指している政党である」という前提があります。
 かつては自分もそう思っていました。
 しかし、今ではそんな事はまったくないと断言できます。
 こんな事を書くと、「そんなことはない。自分は本気で、今の悪政を変えたいと思って活動している」と反論する党員の方も多数いるとは思います。
 それを嘘だという気はありません。
 しかし、実際に共産党中央はそのような事を目的として活動はしていません。
 その理由の一つとして、「議会で多数を占めて政治を変えると綱領に記載しているのに、選挙で勝つ気がない」という事を以前書きました。
日本共産党中央は、選挙で勝つ気がない
 実際に自分が勤務員だった時、党中央が現場に求めるのは「党員を増やせ・赤旗を増やせ」ばかりでした。「政治を変えなくてはならない。しかし現状では悪政が止まらない。それを変えるためにどんな活動をするべきなのかを、皆で知恵を出してくれ」などと要求された事は一度たりともありません。

 また、仮に百歩譲って、党員と赤旗を増やすことが「権力と戦う」のに有効だったとします。
 だとしたら、党員も赤旗も減り続けている現状のもと、「党員システムを変更して入党のハードルを下げる」とか「紙の新聞を電子版に移行し、経費を下げて利益率を上げる」とか「データを分析すれば新聞が増えるわけないのだから、別の資金源となる事業を立ち上げる」など、根本的な党改革を行わなければ、権力と戦えません。
 しかし、そのような事を一切せず、あいも変わらず旧来と同じやり方を続けて、党員も赤旗も減らし続けています。つまり、権力と戦う気などないのです。
 以前も書きましたが、共産党中央の目的は「共産党という組織並びに、長年続けられてきた、党の体制を維持すること」だけです。
 なお、党の体制というのは、以前にも書いたように「党の代表をはじめとする最高幹部を同一人物が長い期間続ける」「男性優位」「上意下達かつ、厳しい上下関係の存在」などです。 
 今回、田村委員長が誕生しましたが、本質は何ら変わっていません。党大会後の紙面を見てればわかるように、「党首」は相変わらず志位議長です。

今の「権力側」は共産党を脅威だと思っていない

 一方、「権力側」も共産党の事を脅威だとは思っていません。
 別に筆者が勝手にそう主張しているわけではありません。共産党の大幹部二人が、それを証言しています。
 2023年2月に行われた、日本共産党の都道府県委員長会議で、志位和夫委員長(当時)と小池晃書記局長がともに、「自民党の重鎮が『(共産党が)日本の政治を救っている』と発言した話」を紹介して喜んでいます。

「日本の政治を救っている」という評価が

 小池晃書記局長の報告でも紹介されましたが、自民党の重鎮の方が、日本共産党がいま大軍拡を許さないという点で果たしている役割について、「日本の政治を救っている」というふうに評価してくださった。

 この言葉というものはたいへんに重いものがあると思うんです。つまり、「日本共産党はなかなか立派だ」というだけでなくて、日本の政治全体を救う役割をいま果たしているのが日本共産党だという評価であります。

 たいへんにうれしい評価なんですが、私は決して大げさなものではないと、文字通り「そうだ」と言っていいのではないかと実感しております。

2023年2月3日の志位和夫氏の発言より

 共産党の綱領では、今の「日本の政治」の問題点を大企業優遇・アメリカ従属だと定義しています。
 そのような政治を行っているのは自民党政権です。
 その「自民党重鎮」が、共産党は「日本の政治を救う」存在だと認めたわけです。
 つまり、自民党が行っている「財界と協調し、日米同盟を重視するという日本の政治」にとって、共産党は敵対勢力でなく、協力・補完勢力だと「自民党重鎮」は明言したわけです。
 そして、それを言われた委員長(当時)と書記局長は、その発言を喜んで全党に報告したのです。
 これに限らず、共産党が批判している「権力側」である、財界や在日米軍などからも、共産党を脅威に感じるような発言が出ることはありません。
 現在、「権力側」として「反共発言」を繰り広げている人など、維新と連合の芳野会長くらいしか思い当たりません。もちろん、維新も芳野氏も「権力の中枢」ではありません。

弾圧されていた時代との違い

 日本の政治において、現在の共産党は、先述したような存在でしかありません。
 しかし、かつての「日本の権力者」はそのような認識を持っていませんでした。
 天皇専制の大日本帝国は、1922年に結党した共産党を徹底的に敵視し、大弾圧を行いました。
 戦後、日本を占領したGHQも、当初は思想犯として捕らえられていた共産党員を解放するなどしていました。
 しかし、東西冷戦が本格化すると、レッドパージを行い、共産党員を公職から追放するなどの弾圧を行いました。
 つまり、大日本帝国政府も、GHQも、共産党のことを「日本の政治を救っている」などと考えてなかったわけです。
 逆に「日本の政治を覆そうとしている」と認識していたから弾圧したわけです。
 なぜ今と違った対応をとったのでしょうか。
 それは、当時の共産党の背後に、ソ連、さらに1948年以降は中国が存在していたからです。
 20世紀なかばまでの日本共産党は、ソ連や中華人民共和国と密接な関係にありました。
 様々な援助を受けていましたし、レッドパージの際には幹部が中国に逃れて活動した、などという事もありました。
 その背後の力を使えば、大日本帝国やGHQ占領下の「日本の政治」を転覆されかねない、と当時の「権力者」は認識していました。だからこそ弾圧したわけです。

 しかし現在は違います。20世紀後半になり、共産党はソ連や中国と距離をおいて、自主独立路線を確立しました。
 ソ連が崩壊した事実などを鑑みれば、この路線を採用した事は正しかったと思います。
 しかし、その強大な支援国を失った結果、共産党は権力にとっての脅威ではなくなってしまいました。
 共産党は1961年以降、綱領に「議会の多数を得ての革命」を明記して政治活動をしています。
 しかし、それから63年経ちますが、国会議席の一割を占めたことすらありません。これでは「議会を通じた革命」などできるわけありません。
 それどころか、10年前の衆院選を最後に、国会でも地方でも議席を減らし続けています。特に地方の議席減は、悪い意味で他党を圧倒しています。
 また、基幹として掲げている党員数も赤旗部数も激減しています。
 本気で権力と戦い、革命を起こす気なら、この現状を科学的に分析して、党内改革をするのが当然です。
 自分は、党員時代、本気で革命を起こすつもりがあると信じていました。  そのため、改革すべきだと何度も意見を出しましたが相手にされませんでした。
 今ではその理由がよくわかります。
 目的は革命でなく、共産党の体制を維持することなのです。
 だから党内改革などするわけがないのです。
 実際、旧態依然の方針を取り続け、党勢減少を甘受しているのですから、革命を起こす気もなければ、起こす能力もない事は明白です。
 だから、「権力」も共産党を恐れるどころか、協力・補完勢力として「日本の政治に必要」などと言うわけです。

 なお、相変わらず公安調査庁は共産党を「監視」し続けています。
 革命など起こせるわけがないのに不思議な話です。
 これは、公安側の都合でしかありません。監視団体から外せば、それだけ仕事が減り、人員削減も必要になるからとしか思えません。
 ちなみに、「監視結果」は以下の通りです。共産党関連ニュースを検索したり、赤旗や公式サイトをちょっと読めば、誰でも書けそうな内容です。

公安調査庁 令和5年「内外情勢の回顧と展望」82頁


公安調査庁 令和5年「内外情勢の回顧と展望」83頁

 これを見ても、「権力」が共産党を脅威と感じていない事は明白です。
 なお、一納税者として言わせてもらいますが、こんな無意味な事に税金を使う必要はありません。公安は即座に共産党を監視対象から外すべきです。
 

結論・共産党をいくら批判しても権力擁護にはならない

 ここまで、自公政権や財界などが共産党を脅威に感じていないことを書いていきました。
 ですから、党大会での田村新委員長が行ったパワハラ行為をいくら批判しても、それは「権力を利する」事になりません。
 それどころか、これを批判しなければ、公党の委員長でもある国会議員が公然とパワハラを行う事を容認することになります。
 ハラスメントと言えば、維新もかなり酷いことを行っています。これを批判しなければ、維新の内部はもちろん、一般社会でも、ハラスメントがさらに横行してしまうでしょう。
 同様に、共産党のハラスメントも批判すべきなのです。
 繰り返しになりますが、共産党のパワハラを批判することにより、悪政が推進される、などという事はありません。
 むしろ、「権力側の悪政を調子づかせないため」などという理由でハラスメントをはじめとする共産党の不祥事を容認・隠蔽して、被害者に泣き寝入りを強いることのほうが、当事者はもちろんのこと、日本の政治・社会にとっては有害なのです。

 なお、仮に今後、本気で、「権力と戦う」政党が誕生したとしても、党内でパワハラをはじめとする人権侵害・不祥事があったら批判すべきです。
 なぜならば、今の社会において、党内パワハラという人権侵害を容認するような組織に、権力と戦って勝利することなどできないからです。
 いずれにせよ、「権力側が喜ぶ」などという非現実的な妄想を前提に、共産党におけるパワハラなどの人権侵害を容認し、それに対する批判を否定することは完全な誤りだと断言できます。
 


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