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最近読んだ本の感想②

小僧の神様 他十篇

概要(読みやすい短編集)

『城の崎にて』などで知られる志賀直哉の短編集。あとがき含めて207ページなので、単純計算で1作20ページ弱。結構短い部類に入るんじゃなかろうか。通勤時間に少しずつ読み進めました。

近代文学、と括られる本たちの中で比較的読みやすいと思います。短編集だから気負わなくて良いし、それほど難しい言葉もないし、心情の描写が多めなので物や地名等が分からなくてもそれほどストレスないし。

※青空文庫にはありません。一応注意。



感想(多少ネタバレあり)

全体的な印象。
小説うめえなこの人~~!!!!!

当たり前過ぎる感想で恐縮なのだけど、一言にまとめるとこうなってしまう。


例えばストーリー構成の上手さ。

大きな事件が起こる話はそんなにないのだけど、静かな空気感やリズムがとても好き。外観良さげなお店に入ったら、心地好い室温とBGMがあり、ジャストでお冷とメニューが渡されて、待たされ過ぎることなく料理が出てきて、一番美味しく食べ終われる。みたいな。
大筋には絡まない余地を残すところはあれど、不要な部分が無い。横に箸休めの漬物は添えられてるけど、バランは無い、みたいな。
(謎に飯で例えてしまった)

表題作『小僧の神様』は『男は《立ち食い寿司屋で金が足りず食いそびれた小僧》を見かけ、後日その子に寿司を奢ってやった。小僧は男に礼をしたいのでもう一度会えるよう祈る』というストーリー(めっちゃ端折ってます)なのだが、締め方が凄い。そこで締めるか!?という。嘘だろ!?!???という。
このまま中篇書けるのでは、という話をこれで終わらせるんですか先生!?!?!?!?!??!!

1作目でこんな洗礼を受けると思わなかったのだが……短編収録順決めた人も天才かよ……。


例えば心情表現の上手さ。

日常の些細な場面を垂直に切り取って、断面をしげしげと眺めて、構成成分をきちっと確認しているような感じ。表面を撫でた感情ではないところに唸ってしまう。

先程もあげた『小僧の神様』では、小僧に寿司を奢った男の心情が興味深い。
寿司が食えなかった小僧の話を男は妻と友人に話してみた。二人ともその子を可哀想だと言った。男自身も確かにそうだと思った。だから偶然顔を合わせた時にご馳走してやろうと思った。実際してやった。
けれども。
小僧に対して威張るわけでも、喜ぶ小僧を見て満足するわけでもなく、胸中はもやもやするばかり。何ならやらない方が良かったのでは?とまで思う始末。

う、うわ~~~~~~!!!!!!!!(頭を抱える)(最高)

誰しも一度は良かれと思ってやったあと、これってほんとに善行だったんだろうか……ともやることがあると思うんですが(階段前で困っているご年配の荷物を持つ手伝いするなど)、そういうリアルな機微が描かれているのって最高じゃありませんか……最高……。

他にも『流行感冒』では『巷で風邪が流行ってる、うちの幼子に掛かったら事だから出歩くなよ、と女中に言いつけていたのに、女中が出歩いてしまったらしい』から始まる話があり、ほんとに行ったの?やっぱり行ってないの?という疑念や、そこから広がる女中へのもやっとした感情が静かに、だが伝わるよう丁寧に書かれていて、文章に""生""を感じました。読んで良かった……。


加えて情景描写の上手さ。

わたしは小説を読んでいるとき(また書いているとき)あまり映像を思い浮かべることがない人なのですが、多分この先生は真逆だろうなーと。私小説という括りなので体験したことを記述している部分もあるのかとは思うけど、少なくとも同じ状況にいたとして、私はそういう風に目の前を見てないだろうなーと思わされてしまう。

描写部分で特におぉ……となったのが『焚火』という短編。
舟に乗っているときの描写。

晴れた空の多い空を舟べりからそのまま下に見る事が出来た。

志賀直哉「小僧の神様 他十篇」岩波文庫 p182

新海誠のアニメーションで出てきそうじゃねぇの……。


また、湖での焚火の後始末描写(燃え残りを湖に放り投げたシーン)。

薪は赤い火の粉を散らしながら飛んで行った。それが、水に映って、水の中でも赤い火の粉を散らした薪が飛んで行く。上と下と、同じ弧を描いて水面で結びつくと同時に、ジュッと消えてしまう。そしてあたりが暗くなる。

志賀直哉「小僧の神様 他十篇」岩波文庫 p192

静かな湖畔で目を惹きつける赤色が飛んで、水に潜って、音がして、消えて、暗くなって、静かになって……。美しすぎやしませんか。


等々、読んで良かった!!という話ばかりでした。



まとめ

上記のように良い点が沢山あるので「ストーリーが好き!」「描写が好き!」みたいな好きポイントが各短編にある。収録作全部楽しい短編集ってなかなかないですよ(個人の意見です)。

私は今回岩波文庫版を買いましたが、色んな出版社から出ていると思うので、ふと思い出した時にでも読んで頂けたら嬉しいです。
個人的に『小僧の神様』『赤西蠣太』『流行感冒』が特に好きでした。



余談①
高校の教科書で読んだことあったはずなのに、どうしてスルーしてたんだ……!!
と地団太踏みたくなったんですが、掲載作『城の崎にて』は虫が出てきたり(虫が苦手)ねずみが可哀想な目に遭ったり(本当に可哀想)とかげが可哀想な目に遭ったり(本当に可哀想)していたのが理由なんだろうなと思いました。
当時わたしのようにスルーしていた方も、きっと他の作品は楽しいと思うので……どうぞよしなに……!


余談②
岩波文庫版は解説めっちゃ長かった(多分短編1作より長い)のですが、ぱらっとでも読むと発見あるんじゃないかなと思いました。


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