見出し画像

競技かるたの作戦・自分より遅い相手に負ける理由

ookomimiです。競技かるたの作戦について書いています。
今日は、自分よりも遅いはずの相手に負けてしまう理由について書こうと思います。

競技歴が浅い頃、ベテラン選手とのかるたで、負けた後に相手から「スピードでは負けていたよ」と言われることが何度かありました。といっても僅差の試合ではありません。ベテラン選手に10枚前後の差をつけられていました。自分自身では完全に力負けしたつもりなのに相手の方が遅いというのです。全く実感がなく、本当なのかどうか当時は不思議で仕方ありませんでした。似たような経験をしたことがある方もいるのではないかと思います。

ですが、その後に経験を積むにつれ、あのときにベテラン選手が言いたかったことが少しずつ分かってきました。今にして思うと確かにスピードには差があり、私の方が速かったのです。しかし、当時の私の理解度では、そもそもスピード差があることすら認識できていませんでしたし、なぜスピード差があるのに自分が負けたのかは全く分からなかったのです。今ならば当時何が起きていたのかを言語化できるように思います。

「スピード=取りの速さ」ではない

説明を分かりやすくするために、最初に「スピード」とは何かというところから話を始めましょう。
「スピード」という言葉が何を意味するかは場合によって様々ですが、多くの場合は、反応の速さ(感じの良さ)や払いの速さを言うことが多いでしょう。私と試合をしたベテラン選手もこのような意味で話していたのではないかと思います。
この「スピード」は、札を取る速さとは完全にイコールではありません。もちろん「スピード」があればその方が札を速く取りやすく競技かるたの試合では有利です。しかし、取りの速さはスピードの優劣だけでは決まりません。1字札などのようにスピードで勝負の大半が決まる札ももちろんありますが、あ札や大山札のように暗記の正確性や囲い手・押さえ手の技術の方が速く取るために重要になる札もあるからです。

スピードと段位の相関は高くない

もう少しスピードについて書かせてください。

D級やE級の頃にA級選手を見ると、全ての札をとても速く取っているように見えます。このため、無段者・低段者と高段者には大きなスピード差があるように感じてしまいます。

ですが、競技かるたを続けてきて思うのですが、スピードは所属級による差が出にくいです。競技かるたの勝敗を決めるその他の要素、例えば、払いの技術や抜け札の少なさ、配置や送り札の判断について言えば、E級とA級の差はとても大きいです。A級選手のほとんどはこれらの要素で一定の高水準に達しているのに対して、E級選手はこれらがA級選手並のレベルにあることはまずないです。
しかし、純粋なスピード、特に感じの早さについては、先天的な要素や年齢による個人差が大きく、後天的な練習が寄与する度合いはさほどでもないように思います。もちろん低級からA級になるまでの練習でスピードは向上しますし、そもそもA級になる選手は最初からスピードに恵まれていることも多いので、E級よりもA級の方がスピードの高い選手の比率は高いです。ですが、E級やD級にもスピードに恵まれた選手はそれなりの人数がいますし、A級選手でも純粋なスピードはそれほどでもない人もいます。また、A級選手もベテランになるにつれてスピードは落ちていくので、ベテラン選手は10代くらいのE級・D級選手に比べてスピードでは劣っていることも多いように感じます。

ですから、低級の選手が上位級の選手よりもスピードで勝っていることは珍しくありません。低級の選手が若手で上位級の選手がベテランならなおさらでしょう。しかし、冒頭でも書いたとおり、スピードで劣っている選手が大勝することもあるのが競技かるたの面白いところです。ここからは、スピードで勝っているのに札を取り負ける場合について、典型的なパターンを説明していきましょう。

抜け札が多いパターン

まずは、抜け札が多くて相手に札を拾われてしまうパターンです。

これは比較的イメージしやすいのではないでしょうか。反応できる札は速いが反応できない札が多いというパターンですね。E級やD級など低い級で多いパターンではないかと思います。原因としては、暗記に問題がある場合と音の聞き方に問題がある場合とがあります

暗記に問題がある場合というのは、そもそも競技を始めて間がないので暗記を早く回せなかったり、暗記のメリハリがついていないので暗記が抜けやすい札(例えば、敵陣の札や移動した札)へのフォローが弱くなったりといったパターンですね。このタイプは練習を重ねることで自然に改善する可能性もありますし、比較的自覚しやすいので自ら暗記方法を工夫したりして修正することもしやすい印象です。

音の聞き方に問題がある場合というのは、例えば、余韻の瞬間に一部の札だけを強く狙いすぎて他の札に反応できなくなっていたり、逆に全ての札に素早く反応しようとしすぎて狙いが安定しなかったりするパターンです。1音目の直前の意識の持ちかたが適切でない場合ですね。
このパターンは自覚症状がないことが多いです。本人は「なかなか抜け札が減らない」といった程度で認識していることが多く、抜け札対策でスピードを落として決まり字まで待とうとした結果1音目に全く動けなくなったりする選手をよく見ます。
これは結構複雑な問題なのでこの投稿では具体的な改善策には触れませんが、ものすごく簡単に対処法を書くと「1音目で求められる反応の質と量を正しく理解する」ことに尽きると思います(口で言うのは簡単でも実際には難しいですが)。結局、札に反応しようとしているタイミングが早すぎるか、1音目で反応しようとしている札が多すぎることが原因だからです。大抵の場合はこの両方が同時に起きている気がします。

手の動きに問題があるパターン

次は、手の捌きが下手でスピードの優位を生かせていないパターンです。

このパターンも実は自覚症状がないことが多いです。というのは、手の捌きのことを考えるときに、多くの選手はトップスピードの払い手の善し悪しのみを意識してしまうからです。下段の1字札などで、札への反応は負けていないのに払いのスピードが足りずに札を取られたときの印象は強烈ですし、「もっと速く払えれば」という意識になるのも仕方がないとは思います。

しかし、よほど払い手が下手なパターンを除けば、手の動きの差で札を取られる場面の大半は分かれ札や決まり字の長い札です。抜け札のように全く動けないのではなく、分かれ札で一瞬迷って手が止まってしまい聞き分けた後すぐに払えなかった、決まり字の長い札に早く反応したのに上空で手が止まってしまい下から札を払われてしまった、1字目で音に反応できなかったため払いのモーションを開始できず決まり字を聞いた時に適切に動けなかった・・といった比較的小さなミスをしていることが多いです。このような小さなミスでも札を取られてしまうことには変わりありません。トップスピードの払いの差で札を取られることは1試合で数回もないと思いますが、上に書いたような小さなミスで札を取られる場面はそれよりはるかに多いと思います。

この種のミスは練習を繰り返さないと減らないのですが、多くの選手は練習をしません。払いの練習をしないという意味ではなく、1字目で出間違えたとき、1字目で反応できなかったとき、決まり字のタイミングが合わなかったときを想定した練習をしないということです。トップスピードで札を払うだけではなく、色々な場面を想定して払い手の練習をした方が良いと思います。

なお、A級のベテラン選手は上に挙げたような場面の処理がとても上手なことが多いです。速い札が速くなくても遅い札が速いのです。

トップスピードを発揮できないパターン

最後に紹介するのは折角のスピードが試合中に出せていないパターンです。
上で書いた抜け札のパターンとも重なりますが、スピードがある選手でも勝負所で100%のスピードを出せないことがあります。速さはあるのに、お手つき後に暗記を乱したり、終盤の接戦などでプレッシャーに負けてパフォーマンスが落ちたりする選手がいるのです。

このような選手は「私は勝負弱い」と思い込んで余計に接戦でプレッシャーを感じてミスを出すことも多いです。指導者も「もっと集中するように」といった曖昧な指示しか出さず具体的な改善策を見いだせなかったりもします。
ですが、これは戦略的・技術的な問題だと思います。つまり、場面場面で求められるスピードのレベルを把握できていないために無理のあることをしてミスをしたり、勝負所で100%の力を出す練習をしていないために速さが求められる場面で緊張して取れなくなったりするのです。特に、実力の近い相手やスピードのある相手と練習をする機会が少ない選手がこうなりがちです。

解決策としては、普段から自分のトップスピードで取る練習を積むことではないかと思います。練習相手との間に実力差があり勝敗が早々に決まってしまうと、どうしても枚数差を意識した練習になりがちです。このためにトップスピードで取るよりも遅い札を減らして確実性を上げる練習が多めになってしまうことが多いのですが、これでは肝心のトップスピードでの取りの力が向上しません。目先の枚数差に拘らずに自分のトップフォームの取りをする練習をした方が良いように思います。

さいごに

ということで、スピードで勝っているのに試合に負けてしまう場面について書いてみました。今にして思うと、過去の私は音の聞き方に問題があり反応できたはずの札を無抵抗に取られてしまっていたように思います(そして、対戦相手のベテラン選手はそのことをお見通しだったのでしょう)。そのことが認識できたのは大分後になってからでしたが。。
負けた試合を反省するときはどうしても「もっと速く取らなければ」と考えてしまいがちなのですが、実際にはスピード以外の要素で差が付いていることも少なくないですし、こういった要素を改善しない限りレベルが上がらないことも多いです。戦略の不適切や技術の不足を分析的に考えた方が実力向上につながりやすいと思います。

この文章が参考になったなら、「スキ」したりコメントしたりしていただけると嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?